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序文.


 これを執筆しようと思ったのは、とあるリアルタイム・ストラテジーゲームをプレイしていたときだった。

 それは冷戦期を題材としたゲームであって、リアルタイムでユニットに指示を出し、地点を制圧し、増援を送ることができるものである。

 そうしたゲームをプレイしていたときに、もちろんこてんぱんに敗北することも多々あるのだが、どうも納得できかねる負け方がいくつかあった。


 そのいくつかを廃することができるのであれば、もっと面白くなるのではないか、もっと納得できる負け方ができるのではないかと、そういう想いがあった。

 そういうわけで、私は書棚からいくつかの本を引っ張り出して、RTSでの体験と戦史、そしてこれらの戦争学を結びつけてみて、より高いレベルでの戦術指揮を行ってもらおうと、これらをまとめたものがこの【戦術概論】である。

 もともと、難解な戦争学を要約した内容にするつもりであったが、なんだか楽しくなってやっぱり少しばかり文がそちらに引きずられているのが面白いと個人的に思った。


 とまあ、そんなこんなで書いてみたもので、なにも『これが真理だ』というわけではない。

 あくまでこれは戦争という形態の戦場における、戦術を行使する『戦術指揮官』の視点でのものだから、その点を留意してお読みいただければ幸いである。

 なので、もっと沼に浸りたい人は素直にそれらの書籍を購入してにへにへしながら読み漁るのが良い。




「あらゆる事態を考慮し備えると、行動しなくなる。恐れるものに飛び込む勇気を持つことは、障害を分析し行動しないことより崇高だ。危険なくして大事は成し遂げられない」

―――クセルクセス





 序文.はじめに


 軍事史においてダイヤモンドの如き輝きを放つ勝利は、歴史においてもまた華々しく語られる。

 あなたが軍を指揮した時、最初に思い描くのはそうしたダイヤモンドの輝きであるのは、恥ずべきことではない。

 しかし、現実問題として軍の指揮というのは語られる以上に複雑かつ数学的な要素を孕んでおり、またこうした数学的要素以外にも指揮官の心理などが如実に戦場に現れる。


 プロシアの軍人・軍事学者であるカール・フォン・クラウゼヴィッツ(1780年7月1日-1831年11月16日)によって定義された【戦場の霧】は、天才であっても無視することはできない。

 イギリスのエンジニアであるフレデリック・ランチェスター(1868年10月23日-1946年3月8日)が生み出した、【ランチェスターの法則】もまた同様であり、これらを無視すること不可能である。

 大前提として、物理的に不可能なことは不可能であって、戦術指揮において間違いがあればそれは戦術指揮官の問題であることは明白である。


 これらの前提は、ダイヤモンドの如き勝利を手にする上で、もっとも忘れてはならない点である。

 山に登るには丈夫な靴下と登山靴を履き、帽子を被って水筒を持ち、登山計画を立てて己のペースを維持して登る。

 戦術指揮においてもこれらは同様であり、これらを【至高の哲学】などと自惚れることは断じて陥ってはならない。


 戦術というのは象徴的なものではなく、【存在する兵力によって、目標を達成する】ただそれだけのものである。

 攻撃や防御、支援などといった用語は、すべてこれを達成する為に用いられるものであり、戦術それ自体はそれを達成するための手段でしかない。

 なにも難しく考える必要はなく、戦術とは必要であるから立案され実施されるのだ。


 勝利、敗北―――、戦闘の結果はその二つでしかないが、幸いにしてこれらは生死に直結するものではない。

 敗北し生き残ったとして、戦術指揮官にするべくは自責ではなく自問であり、さらなる探求と戦術の見直し、原因の究明なのだ。

 それ故に常勝無敗の戦術などは、この世に存在しないということは、深く肝に銘じておくべきである。


 戦術とは状況によって変化させ適応させ、戦術規模と兵力を鑑みて行われるものなのだ。

 つまり、こうした状況と規模、兵力を見誤った戦術の採用は、取り返しのつかない失敗を犯す危険を孕んでいる。

 そうしたことを警告し、であればどのようにするべきか、という思案をさせるための書が、この戦術概論である。


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