8.入学式
3ヶ月後、三木隆介は那月島にいた。
「隆介!はやく行かないと遅れますよ」
「分かってるって!ったくこんなことなら前乗りでもしときゃよかった……」
私立星城学園。
中等部、高等部、が設置されている中高一貫校で、国内トップクラスの能力者養成校である。
その規模も国内屈指で広大な土地に学年ごとの校舎に加えて、学生寮、闘技場などの優良な設備なども揃っていて、学生たちの憧れの学校である。また、卒業生も能力省の官僚、軍の幹部など優秀な人材を輩出している。
「はぁ……どんだけでかいんだよ、この学校。ほんと、聖治がいなかったら完全迷子だったな、こりゃ」
「とは言え、僕も中等部出身といっても分校ですしね。何回か学校見学でこっちに来る機会がありましたけど、完全に把握しているわけではありませんよ」
「家から遠いからって、隣接されてる中等部行かずに分校行ったくせによく言うよ」
「ははっ……。そういえば、あれから、神宮寺さんと連絡とっているんですか?」
聖治は笑って誤魔化して話をそらす。
「あーなんか1回だけ体鍛えておけってメールきたな」
「それだけですか?」
「それだけだよ。あいついなかったら能力使えないから、ただただ、基礎体力鍛えてたよ」
「ほぼ、マラソン選手ですね」
あれから、卒業まで設楽達からなにか絡まれるということはなくなった。
わざわざ、奴らが『三木にやられた』というような事を言うこともなく、俺自身も能力を使えたことを誰かに話すようなこともなかった(話す相手がいない)ので、結局俺は能力を使えないくせに能力者の名門校へいく訳のわからない奴のまま中学を卒業した。
「着きましたよ」
「お、おう。でかいな……」
これだけの大きな規模の学校の入学式は壮大なものであり、星城ホールと呼ばれる大きなホールで行われる。
まだ慣れない制服に身を包みそれぞれの想いを持って式に望むのだろう。
新入生の数は内部進学生300人と外部から推薦、一般受験からの新入生201人の合わせて501人。
席決められておらず先着順であったため、隆介達は2階の一番後ろの方の席に座った。
席も映画館の座席のようなソファーであった。
椅子に腰かけると、入り口で貰った部活動などの情報が記載されているパンフレットを開きながら口を開く。
「これ全員1年か?」
「えぇ、見知った顔も何人かいますが、何せ、僕も分校組ですしね。ほとんど、知り合いはいませんね」
「やっぱ、有名人とかいんの?」
「いますよ。例えば、そのパンフレットの表紙の彼とか」
「ん?」
一旦、パンフレット閉じて、表紙を見る。
そこには、キリッとした男が写し出されていた。
「彼は、来瀬明、中等部本校の頃から飛び級で生徒会本部にまで入った逸材です」
「なに?やっぱこういうとこの生徒会ってすげーの?」
「えぇ、能力者としてはもちろん、成績も加味されますし、誰でも入れるという訳ではありません。星城の生徒会役員というだけで、どんな世界中に有名大学、大手企業にも入れるというぐらいです」
「おお……。思ってた3倍すげーや……」
声を遮りアナウンスが流れる。
『皆様、大変長らくお待たせしました。これより星城学園、第67回入学式を始めます』
アナウンスが終わると同時にホールの照明が暗くなる。
暗くなったホールの雰囲気に緊張した面持ちの新入生たちがパッと光がついた舞台に上がっていく一人の女性を見ていた。
その女性が講演台に設置されているマイクの前に立ち、話始める。
「新入生諸君、入学おめでとう。星城学園、理事長の遠藤冴子だ。学園長が不在のため、私が代わりに祝辞を述べることとなったが、諸君にはそれぞれこの3年間で成長し、将来のためとなる力をこの学園で手に入れて欲しい」
その言葉をきっかけに、新入生全員の目に力が入る。
「3年間はあっという間だ。その間色々な経験をできる機会は学園としても作り、サポートしていく。踏み出すかどうかは君たち次第であることを自覚して欲しい」
実際にこの星城学園では一般的な学校行事に加え、実践演習というものがある。
学校の掲示板に張り出されている、もしくはSSDを通して提示されている様々な企業だったり軍の依頼までもを実践し単位を習得しなければならない。
簡単に言うと、いつでもインターシップが可能というわけである。
「……とまぁ挨拶はここまでにして、本題に入ろうか。」
舞台の上方から巨大なスクリーンが現れて、『新人戦』という文字が映し出される。
「毎年恒例の新人戦だ。明日からの7日間、一日一戦、新入生同士で戦ってもらう。相手はランダムで決まるから、通知はSSDにいくようにするので見逃さないように」
「おい」
思いがけなかったイベントに隆介は驚きを隠せず、隣にいる聖治の肩を強めに叩く。
「痛いですって、隆介」
「なにあれ?聞いてないんだけど」
「毎年恒例ですからね。知っているんだと思いました」
「めんどくさいなぁ。いきなり、これはハードすぎだろ……」
一週間ってことは7戦か……。しんどいな……。ばれない程度に適当にやるか。
「サボろうとするのは無駄だと思いますよ」
「さらっと俺の心読むなよ。ていうかどういうことだよ?」
怪訝な顔をする隆介を流して聖治は舞台の方に視線をやる。
舞台上の理事長がマイクスタンドからマイクをとる。
「この新人戦の結果も参照して、クラス分けをする。もちろん、結果も大事だが内容も加味するからそれは心しておくように。特別推薦入学者……は一人しかいないが、新人戦は免除されるので、そのつもりで。あともうひとつ、これが一番重要だが……」
一度、一階二階にいる新入生たちを見渡して、マイクを握り直す。
「ノルマは4勝、つまり3敗以上した者はこの学校を退学してもらう!」
理事長の言葉に、新一年生達の覚悟と緊張が会場中の空気を張りつめさせる。
この事知っていたかのように拳を握りしめ闘志を表す者や、改めて言われた条件にそっと目を閉覚悟を決める者、それぞれの思いがこだまする。
全員がやるんだ、この学校で生き残ってみせるという思いがが強くなった。
「は?は?マジで?……え?マジ?」
ただ一人を除いて。