5,こうして、彼と彼女は出会う
何事かと思った。知らない男子が学校の校門で自分を待ち構えていたときには、さすがに驚きを隠せなかった。
そんなこと、普通はないから無理はない。
「御影くん、こっちはやく!」
校門で待っていた彼は、龍介と同じ制服を来ていて、僕を見つけるといち早く駆け寄ってきて一言。
あまりにも必死な彼に訴えられた。
「三木くんが……河川敷で……」
以前から理不尽に、龍介が学校の人間に絡まれていたことは知っていたが、龍介の友人が僕のところはまで助けを求めてくることはなかった。それだけで、彼が主張していることがただ事ではないとは勘づくには十分だ。
通う学校が自分が全て助けられるわけがない。
それに、その行為自体を三木龍介は嫌がる。長い付き合いなので、それはわかる。
おそらく自分の前を走る彼は龍介を助けようとはしたが、どうやっても自分では助けられないと判断した結果、星城の中等部の校門で自分を探していたのだろう。
「鈴木くんでしたっけ?」
「え?」
「龍介は……やはり以前から?」
「え、あ、うん。でも今までは、実践の授業中にそいつらが絡んでるっていう程度だったんだけど……」
「今日みたいなことは今までは?」
「僕が知る限りは……なかったかな……。でも、今回は理由が理由だから……」
「理由?」
鈴木は少し顔を俯ける。
「うん、三木くんが星城の推薦を断ったこと、クラス中に伝わっちゃって……」
「そうですか……」
「クラスのみんな、今は進学にナイーブな時期だから、特に設楽は星城の推薦入試に落ちてるから、余計に三木くんが妬ましかったんじゃないかな」
「大体事情はわかりました。しかし、龍介は推薦の話は断るって言ってましたが?」
「うん、でも断るっていうのは、みんな、知らなくて」
「つくづく人の噂というのは宛になりませんね」
その噂に拍車をかけたのは自分の存在もあるだろう。
星城の制服を着た自分が龍介と接触をしていた。
さらに、彼の同級生もそれを目撃していた回数は少なくはない。
より、噂の信憑性を高めたことを否定はできない。
「あ、見えてきた」
「これは……」
広場で起こっていたのは、友人が必要以上に痛め付けられている様だった。
その光景には、腹が立って今すぐ、飛び出すつもりであったが、思わぬ人物によってブレーキがかかる。
「御影くん?はやく三木くんを助けないと……」
鈴木の声も聖治には聞こえない。
「神宮寺アリス?」
「君たちは、三木龍介の知り合いかい?」
声に気づいたアリスが、二人の方を見るがが、彼らはまだ状況が飲み込めない。
ニュースなどでしか見たことがない人物が、目の前で、しかもこんなとこまで辺鄙な河川敷にいることの意味が分からなかった。
「確かに龍介は友人です。そんなことより、なぜあなたみたいな人がこんなところに?」
「質問その2だ。なぜ、三木龍介は能力を使わない?」
「人の話を聞かない系ですか……。まぁいいです。能力に関しては使わないのではなく、使えないだけです」
「使えない?」
「えぇ、4年ほど前から」
「……なるほど」
少し考えてから、アリスは龍介立ちの方へ踏み出す。
その様子を見て思わず声を掛ける。
「何をするつもりですか?」
「実験さ」
「……実験?」
「正確には品定めかな?三木龍介がボクが求める人材に足りるか確かめるのさ」
「勝手な事はさせませんよ」
アリスを止めようと動き出そうとするが、剣を持った少女に間に入られてしまう。
「おっと、アリスに邪魔はさせないよー」
「くっ……」
聖治の中では、葛藤があった。
今、自分が動くべきか、動かざるべきか。
自分があの中へ飛び込んで行って、あの3人を黙らさせて、膝まづかせるのは容易なことだ。
しかし、この場で自分がやれることはそれがベストなのだろうか?
どうする?やるか?
いや、でも……。
「まぁまぁ、そこのイケメンくん」
向かい合った少女の問いかけに、頭を駆け巡っていた思考が止まる。
「アリスがしようとしてること、彼にとって悪い話じゃないと思うけど」
「どういうことですか?」
「それは見てれば分かるよ。ほら、ちょうどアリスも接触するみたいだし」
「あ、いつのまに……」
完全に蚊帳の外で、唖然とするしかなかった鈴木がようやくと口を開く。
両膝をついてしまっている龍介とそれを嘲笑している3人の方へ一人の少女が向かっている状況を今は見守るしかないのか。
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なんで俺がこんな目に……。
数十回、爆発を受けた体は思うようには動かない。
息切れもして、立つこともできない。
そんな俺の様子を見ているであろう、設楽を含めた3人の笑い声だけが聞こえる。
「三木龍介」
そんな中、俺を呼ぶ女の子の声がした。
いよいよ末期だな、俺も。
ついに、幻聴まで聞こえるようになった。
「おいおい、三木ィ妹かぁそれ?」
「はぁ?」
俺に妹いるが、こんなところにいるわけがない。
「おい、三木龍介」
再び聞こえてきた、声がする方を見るとどう見ても小学生にしか見えない銀髪の少女が立っていた。
「なんで……俺の名前知って……」
「そんなことどうでもいい。それより選べ、二択だ」
「はぁ?」
「ボクに全て託して、そいつらを打ちのめすか、そのまま負け犬でいるか、どっちだい?」
何を言ってるんだ、この子は……。
「ちょっと、そこの小学生。今、こいつは俺ら遊んでるん…」
「おい、設楽そいつ……」
少女にいち早く突っかかろうとした設楽を取り巻きが嗜めようとする。
「んだよ!」
「そいつ、テレビで見たことがある」
「あ?」
取り巻きの一人が、ズボンのポケットからSSDを取り出して、声を震えさせる。
「これの開発者だよ!神宮寺……神宮寺アリスだ!」
神宮寺アリスって昨日聖治が言ってた、星城に行くかもしれないってやつだったっけ……?
なんでこんなところに……。
「ボクのことがわかったところで、君たち三人は少し、黙ってくれるかい?」
「てめぇ、いきなり来て何言ってやがんだ!」
「さもないと、君たちのSSDのネットの履歴を、登録されている連絡先全部に送りつけるよ」
「……くっ!」
なんてえげつないことを満面の笑みで言うんだ。この子は……。
「話の続きをしようか、どうするだい?三木龍介」
「……俺がお前に全て託せと?」
「あぁ、聞けば君、能力が使えないらしいじゃないか。手助けをしようじゃないか」
「お前に従えば、使えるようになると?」
「それは、君次第さ。君が持ってるもの次第」
どういうことか分からないが、今、俺に残されているのは、目の前にいるこいつに賭けるしかないのか。
「悔しいのだろう、顔によく出ている」
悔しいさ、悔しいに決まっている。
何もできずに逃げ回ることほど、惨めなものはない。
今、目の前のこいつらに一発食らわせてやりたいさ。
諦めていた。
自分が弱いことも自分が能力を使えないからとどこかで納得していた。
そうだ、惨めな自分に納得していたんだ。
ヒーローみたいな、殊勝な目的じゃない。
誰かを守りたいなんて1ミリも思っていない。
多分、これは正しいことじゃないんだろう。
これはただの仕返しだ。
でも、力を手にいれる可能性があるなら!
だったら……だったら!
「乗った!俺はどうすればいい?」
「交渉成立だね」
声を絞り出した俺の方を見て、少女は不敵に笑う。
あぁ、なんだってやってやる!