4,出会う前
毎日更新、どこまで続くか……
神宮寺アリスは不機嫌だった。
遠藤冴子に促され、被験者候補に自ら接触するために那月島を出たのはいいが、渋滞に捕まっていたのである。
自然と、膝の上に置いているパソコンの操作が少し荒くなる。
「あれ?アリスご機嫌ナナメ?」
「当然だろ?わざわざボクがこんな所まで出向いたというのにどういう事だ、これは」
「アリスって成果を出せる開発者じゃなかったら、ただの人格破綻者だよね~」
「シイナ……君はときどき笑顔で酷いこと言うね」
車の後部座席でアリスの隣に座るのはシイナ・アルデート。
イリシア人でアリスとは旧知の中で同じ年齢の15歳。アリスの希望で彼女の護衛をしている。その腕っ節はイリシア国内の若手では指折りで、それに加えてのルックスの良い。ピンクがかったショートボブと豊満な胸が特徴的な女子である。
「それで?アリスのお目当てはどこにいるのかな?」
「冴子の情報だと、ここから3キロ先の中学に通っているらしいけど、この分じゃ授業終わるね。下校途中で捕まえようと思っていたんだが……」
「捕まえるって……虫じゃないんだから……」
「ボクにとっては同じさ」
彼女のこういった発言もシイナは慣れている。
「ところで、どんな子なの?ミツキ……リュウスケクンだっけ?」
「あれから、いろいろ調べたんだけどね。4年5年前は冴子が言ってたいた通り、能力武闘の大会で優勝とかしていたみたいだけど、最近のデータがめっきり出てこないんだ」
「私も初めて日本に来たの一昨年とかだからなぁ。日本で強い人は何人か知ってるけど、三木クンは聞いたことないや」
「あまり期待はしていないよ。あ、戻ってきたみたいだ」
アリスが車の窓を開けると小型の円型端末が3台、車の中に入ってきた。
「抜け道、分かったの?」
「あぁ、ボクにかかればこんなもの朝飯前さ。加賀、そこ左に曲がってくれ」
「承知しました」
運転手の加賀が言われるがままに、左にハンドルを切る
「それにしても、相変わらず便利だねぇ。SSDの改良版だっけ」
「ASDかい?ボクが使いやすいように改良しただけさ。より、できる事が増えるように」
「へー、例えば?」
「発信器にもなるし、映像も撮れる。メモリを具現化したビームも出せるし、端末自体が強固に作ってるから鈍器にも十分になるし……」
「アリス、研究者なのに誰と戦うつもりなの?」
「……もしもの時の護身用だよ。まぁボクには優秀な護衛がいるから必要ないかもしれないけどね」
「もーアリスったらー」
「……抱きつくなよ、シイナ。……冬とはいえ、暑苦しい」
自分の体に巻き付いてる腕外そうとするが、護衛をしているシイナの腕力に、研究者一筋の女子が力ずくでとはいかず、次第に諦める。
さながら、ぬいぐるみのようになるアリスの頭をシイナは無造作になで回す。
そうしていると、車窓の外から、なにやら爆発音のような物聞こえた。
「ねぇ、なにか聞こえない?」
「ん?特に何も聞こえないが……君の方が五感は優れている訳だから間違いないないんだろうけど」
パァン!パァン!と今度は2回シイナの耳を刺激した。
「あ、また!間違いないよ!ちょっと行ってみない?」
「全く目的を忘れたのかい?」
「いいから、いいから!加賀さん音がする方へ行って!」
「へ?」
あまりにも急なことを言い出すシイナに戸惑う運転手加賀。
「はやくはやくー!」
「あ、はい~」
しかし、後部座席から身を乗り出すシイナの圧に負け、ハンドルを回しアクセルを踏んでしまう。
「これは、接触は明日にしようか……」
頭を抱えるアリスの言葉はシイナには届かない。
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「ハァハァハァ、キツッ……」
「どうしたんだよ~?三木ィ。そんなもんか」
あーくそ。あいつマジでムカつくな。こっちには反撃手段がないが分かってて、威力に小さい玉ばっか作って俺が逃げるのを楽しんでやがる。
どんな教育受けたらあんな根性の曲がった人間できるだよ。
「ほらほら、これで終わりじゃないぜ~」
設楽は俺へ向かって、爆発玉を放つのではなく、あえて周りを囲むように配置する。
あいつが一度に操作できる玉は確か2つまでだ。操作されてない玉はその場所に配置されたまま、シャボン玉のようにプカプカ浮いてるだけだが、あいつの能力の厄介なのは操作する玉を即座にスイッチする事ができるという点だ。
小さい玉の威力は身体強化がしっかりできていれば、問題ないが俺にはちゃんとダメージがくる。おかげで、蓄積されたダメージが体を蝕んでいる。
「そらよ!プレゼントだ」
「いらねぇ!」
二つの玉が俺の方へ向かってくる。もちろん俺は逃げるしかない。
「三木ィ、いいのかー?そっちは俺の玉が超あるぜ~」
やっぱ、誘導されてたか……。これはやばい。
『連鎖爆発』
隆介が逃げる方向配置された爆発玉に設楽が操作権を移す。
操作した玉と配置されている玉をぶつける。そうしたことにより、隆介の周りで爆発が起きる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「はーーーーーはっはっはっはっは」
設楽の笑い声だけ、河川敷の人気のない空間に響いた。
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隆介と設楽の能力武闘、というよりは一方的なの暴力といっていい行為が行われている河川敷の橋の上には、一台の車が停まっていた。車通りのないその場所からは、1人が逃げ回って、それを見る3人の姿がよく見えた。
「あらら、ついに捕まっちゃた」
「まさかただの学生同士の喧嘩だとは思わなかったよ。もういいだろう?」
「ちょっと待って、双眼鏡ない?」
「これ越しに見たら、見えるはずだよ」
眼鏡をアリスから受け取ったシイナは車窓から青年たちの方が見る。
「おーこれすごいね!よく見える」
「それはボクが開発した、オートグラス。照準合わせも自動でやってくれる優れもの、最高1キロ先のものまでしっかり見える」
「そんなことより、写真!写真!」
「……写真?なにの?」
自分の開発したものを軽くあしらわれたので、少し不機嫌になる。
「アリスのお目当ての!」
「これかい?」
パソコンの画面に画像を表示し、シイナに見せる。
「あーーーやっぱり、そうだ」
「はぁ?」
「今、ボコボコにされてるの、アリスのお目当ての子だ!」
「何をバカな………」
半信半疑でシイナから眼鏡をとって、爆発音の方へ見る。そこには画像の写真と同じ顔をした青年が必死で、逃げ回っていた。
「どういう事だ、これは……」
「驚いてる所悪いけど、どうするのアリス?あの子助ける?」
冴子に騙されたか?いや、彼女はボクの研究への協力に関しては無駄な嘘などつかない。確かに、からかったりなどもしてくるが、情報源としてはある程度信用できる相手だ。
しかし、この状況はなんだ?
ボクの被験者に成りうる人間が陥っている状況とも思えない。
様々な思考が彼女の中を駆け巡る。
ダメだ!今、この場でいくら考えても仕方がない。
「行くよ、シイナ。こんなとこまで来て、ただで帰ってたまるか」
「さすが、決断早いね」