3,男の嫉妬は見苦しい
はよ出会ってくれんかな
人の噂も七十五日なんて言うが、卒業まで数ヵ月を迎えた中学生にとってそんな気休めは全く意味を持たない。むしろ、学生にとって重要なのは、噂が風化されるまでの期間より、その噂によっての自分への被害の重さである。所詮、人間なんて、損得勘定が大きく働く生き物だ。
例えばだ、「A君とBさん付き合ってるらしいよー」なんて噂は3日もあれば、誰かかの事実確認によって噂でもなくなるし、大半の人は特には気にしない。事実とすれば、それが周知的な事実となり、これもまた大半の人は気にしない。
では、噂において、一番厄介なものはなんだろうか?
俺が思うに、『嫉妬』だ。
七つの大罪の一つにも挙げれるそれは実にめんどくさい。
さっきの例えにおいて、もしも、A君が超イケメンで成績優秀で運動神経抜群のモテ男だとしよう。加えて、Bさん平凡な女の子。友達もいるが多くはなく、クラスのカーストにおいては高くもなく低くもない。少女漫画でありがちな主人公みたいな感じだと言えば分かりやすいだろうか。
どうだろう?嫉妬する人が出てきそうではないか?さらには、真意は分からないが、女子はカッコいい男子はみんなのものだという暗黙ルールがあったりすることも加えておこう。場合よっては、裏でいじめが起こるかもしれない。
人間の嫉妬は厄介で深ければ深いほど陰湿だ。A君を長く思い続けている、クラスの高カーストのメンヘラ女なんかが存在なんかしたりすると地獄だろう。Bさんがどんな目に遭うだろう。想像もしたくない。
まぁ、結局何が言いたいかと言うと……
「三木ィ、てめぇ調子乗ってるのかぁ?」
成城学園の推薦を断った事がバレた。
◇
週を明けての放課後、設楽とその取り巻き二人に呼び出され俺は学校近くのにいた。その理由は、今朝まで遡る。
「いやぁ、怪しいと思ったんだよなぁ。たまに成城の制服着た奴が学校に来てたしな」
「あー、あのイケメンでしょ?」
「ほんと、どんな手使ったんだか……。能力使えないのに成城から推薦が来るなんて……」
学校に着き、教室に入って自分の席に座るまでの時間、こんな声がどこからともなく聞こえてきた。
おそらく、俺と浅木先生の会話をどこかで聞いたのだろう。問題なのは、俺が断っていることが噂の中に含まれていない事だ。
「三木くん、あの話バレてるよね?」
そう俺に言ってきたのは3年間の中学校生活で唯一と言っていい会話する相手、鈴木だ。
「お前、バラした?」
「生徒で僕しか知らないはずなのに、そんなすぐ犯人が分かるようなことしないよ」
「だよなぁ。じゃあ、やっぱり話を誰かが聞いてたのか」
「また設楽達に絡まれるんじゃ?」
「そうなったら、そうなったでうまくやるよ」
「うまくやれてるところ、見たことないんだけど」
「まぁ、いざとなったらあいつら巻き込んで爆発してやるさ」
「すごいね……。」
鈴木は言わば普通のやつだ。争い事に無闇に首を突っ込むやつでも、正義感に刈られて行動起こすようなやつじゃない。一般的なクラスの低カーストに位置するフツーにやつだ。それは、こいつのヒョロっとした腕、体格や、もっさりとした髪型とメガネをした容姿から容易に想像できる。人を見た目で判断するなみたいことを言われるかもしれないが、人が人を判断するときの一番最初の情報は容姿、見た目だ。こればっかりは仕方がない。
能力もあまり強力なものではなく、俺と同じ一般進路の希望で、戦闘を好むタイプでもない。
「そろそろ、席に戻れよ。俺と一緒にいたらお前も設楽達に目をつけられるぞ」
「あ……うん……」
なんてことはない。あと数ヵ月だ。あと少しで能力者とはおさらばだ。やっと、終わるはずなんだ。
そして、現在に戻る。
お察しの通り、設楽達に呼び出されたのだ。
「お友達のコネで名門校にご入学で人生イージーってか?」
「いや、行かねーし」
「おいおい、嘘はよくないぜ? 俺とお前の仲じゃねーか。俺は悲しいぜ、友達に嘘をつかれるのは、なぁ?」
設楽は取り巻き二人に視線を交互にやるとその二人は不敵に笑う。ってか誰だっけ?こいつら名前も覚えてねーや。
こういうやつに、人の話を聞けというのは不毛ってやつだろう。設楽は俺が推薦は受けるけど、自分達には行かないと言ってお
くことで、俺が勝ち逃げできるとでも思っているのだろう。別に、こいつら深刻いじめられたみたいな事実はないが、なにかと絡んでくる。
俺の事が気にくわないのだろう。
「要件はなんだよ? いや、そんなもんないか。俺にいちゃもんつけて殴りたいだけなんだろ?」
「それじゃあおもしろくねぇ。俺はお前とやってみたかったことがあったんだ、へっへ」
「……なんだよ」
「お前も前は強かったんだろ?俺とガチでやり合おうぜ」
「だから、能力使えないって―――「大丈夫、大丈夫」
俺の声を遮った設楽が手を前にだし、玉を生成する。これがあいつの能力だ。あの玉に触れると爆発する。玉自体は大中小と大きさが異なり、小さければ小さいほど玉に動くスピードが上がるが威力は小さく、大きければ大きいほどスピードは落ちるが威力が高い。あいつに絡まれ始めてからどれだけ食らったことか。
「楽しませてくれよ!三木ィ」
「クッソ、やっぱりこうなるのかよ!」
質の悪い、鬼ごっこの始まりだ。