プロローグ
夏休みを利用して小説書き始める暇な学生です。
よろしくお願いします。
ずっと長い間、自分の中に大きな扉があった。
その扉には取っ手やドアノブもなくて、どれだけ強く押しても引いても叩いてもビクともしない。手では駄目だと足で蹴破ろうとするが、それでも絶対に開いてくれない。
こんな時、人はどうするか?まぁ、大抵は何とかしようと努力をするだろう。漫画やアニメでも才能がなくても、厳しい鍛錬で幾度となく壁を乗り越えて強くなったキャラなんてのもざらにいる。
しかし、同じように血のにじむような努力をしても実らない人間だっているのだ。そうなった時、ほとんどの人間は努力をやめる。現実は厳しい。実らない努力をやめた瞬間には、次第に自分より劣っている人間に置いて行かれるのである。
マラソンと同じだ。後ろから抜かれる度に、なぜだかペースは落ちていく。周りに置いて行かれる度に劣等感が増す。やがて溜まっていたその劣等感が人を地に落とす。
以上が、「落ちこぼれ」が誕生するまでの流れである。
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突然、日本の人工島に巨大隕石が落下した。幸いなことに、この人工島は、当時世界初のロボットのみで運用している工業地帯であったため、人的な被害はほぼなかった。さらに、隕石が落下した場所が工場一つで落下した瞬間に、緊急防御システムが作動したために隕石の隔離にも成功したのである。それにより、隕石を迅速に調査可能になった。
那月博士の研究により、隕石から放出されるアルメリアという物質は酸素と結合して、人間の体に反応して様々な特殊能力を目覚めさせるということが分かった。国は当初これを極秘事項にしようと決定していたが、そうはいかなくなった。能力に目覚める者が出現し始めたのだ。落下中の隕石がすでにアルメリアを振り撒いていたのだ。能力者は実体がない器官をアルメリアによって体の中に作られてメモリと呼ばれる能力の源を溜め込む。
メモリを使って能力者は能力を使う。能力は人によって十人十色で、遺伝や才能が強く左右する。
しかし、治安が悪くなったりなどの混乱は起きなかった。目覚めたのが年齢が5歳未満の子供ばかりだったからである。逆に、それ以外の年代の人々は能力に目覚めることはなかった。さらに、一般の大人が止めれる程度の力だったので、暴走するようなことも起きなかった。
政府はすぐさま能力者を管理するために一つの場所に集めることとした。その場所に選ばれたのは隕石が落ちた人工島である。能力に目覚めたのは、当時東京に在住していた2万人の子供と移住を希望したその親族が人工島に移住した。さらに、島と東京を繋ぐ地下鉄も建設された。そしてまず、政府は『15年教育』を提唱してこれを実証した。能力者用の教育だ。もちろん、能力者など今まで存在していなかった人種をどのように教育するなど、誰にも正解はわからない。だが、能力者が一般の環境に紛れても差別されるのは目に見えている。その結果、最初の1年は道徳的な指導は多めとなったが、次の年に思いがけなかったことが起こる。
新たな能力者が生まれたのだ。しかも、前年より多くの子供がだ。誰も予想していなかった訳ではない。その根拠、アルメリアはまだ、空気中にとどまっていた。
そして、これが転機となる。『これから先、能力者は生まれ続ける』この事実に対して、政府は一つの部署として立ち上げた。それが『能力省』である。一部だけの世代が能力者になるのではなく、将来的にも能力者は生まれるのであれば、能力という異端な存在を一般的なものにするしかない。そして、巨大隕石が落下人工島は『特別指定能力発展地区』として、能力研究の第一人者である那月博士の名字から『那月島』と名付けられた。
そして40年後の現在、日本だけではなく世界中で能力者は一般的な存在となり、今では能力に目覚める者が出生した世界人口の4割を超えるものとなり、『能力が当たり前の社会』となっている。
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「おいおい~そろそろ、使ったらどうなんだ?」
「ハァッハァッハァッハァ……クソッ!」
義務教育において、週に5回も設けられている能力実習の授業。
今行われているのは、その中の一つである実践の授業だ。一対一の模擬戦で、体に三回攻撃を当てられたら、その時点で負けとなる。その上で肝となるのが、身体強化だ。身体強化とは、能力を使う際に、体がその負担に耐えられるように自分のメモリを体全体に放出させて身体能力と身体強度を格段に上げるという一般的なスキルである。
実践授業は、主にこのスキルを向上させるために行う。
「あと一回、俺が攻撃当てたら、お前負けなんだぜ?いいのか?三木ィ」
そして、ベースも使えずに敵の攻撃から逃げ惑って肩で息をしているこの少年が三木隆介、中学3年生。容姿も平均的で身長も平均。運動神経はそこそこで知能は平均以下である。そして、能力に関しては文字通りの落ちこぼれだ。
「ほらほらどうした?このままじゃ、負けちゃうよー?」
同級生、設楽に成す術もなく、防戦一方でたまに持っている剣で反撃をするが……
「はい、残念」
軽くかわされてしまう。
確かに、このままだったら確実に負けるな。それに、体力ももう限界だしな。くっそ、やっぱやるしかないか。
そう思った隆介は精神を自分のメモリに研ぎ澄ます。
自分の中にあるエネルギーを核として感じる。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
隆介は集中して自分の中にあるメモリを一気に体中に放出させる。それによって、体がさっきより軽くなるのを感じる。
自分の身体能力が上がったのを感じた隆介は勢いよく相手に向かって一歩踏み出した。
「三木君、危ない!」
「へ?」
教員の声が聞こえた次の瞬間、自分の中のメモリが制御しきれずに暴走している感覚と同時に、バン!と大き爆発音が鳴り響く。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
気が付けば、目の前の視界が真っ暗になっていた。体中にとんでもない激痛が走る。
「おいおい、あいつまた爆発したぜ!」「未だにベースもまともにできないってな!こんなの小学生でもできるぜ!」「ほんと、落ちこぼれだな!」
薄れいく意識の中、クラスメイト達が自分をバカにしている声だけが聞こえる。
初めてじゃない、同じ失敗。みんなが当たり前にできていることがどうやったてできない。今日こそはできるというなんの保証もない行為。もはやただの自傷行為だ。彼は改めて思う。
あぁ……。やっぱり、俺はどうしようもなく……落ちこぼれだ。