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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

からだはけんでできている

作者: よういち

「どうして、どうしてこうなっちゃったんだろう」


 俺の傍らで、先輩が崩れ落ちるようにして座り込み、つぶやいた。


「どこで、間違っちゃったのかな」


 強いて上げるなら、先輩が善良過ぎたことだろう。



 五年前、先輩と俺は、この魔獣が地を走り鯨が大空を泳ぐ剣と魔法の地に勇者として召喚された。

 素人の女子高校生がたったの三年で倒せるような魔王相手にすら立ち上がることもせず神頼みするような連中の願いをきいて、先輩はその善性のまま勇者となり、魔王を倒した。

 そして城に帰り、晴れて英雄と称されるようになったその日から、先輩の不穏な日々は始まりを告げていた。


 そして今日、王家諸候から距離を置くべく居を移した辺境の地に。

 三万の王国軍が正面草原に陣を敷いた。

 四万の諸候軍が西南の谷に現れた。

 次々と、四方を包囲する王国諸候を始めとする近隣諸国の軍勢が報告される。


 たとえ単騎で千の魔物を屠ると歌われる勇者とて、この軍勢を前にしては、幾らも持たないだろう。

 加えて先輩の心をへし折ったのは、剣士として供に闘った異国の王子が東方に旗を掲げ、魔法使いとして供に歩んだ隣領の魔法使いが降伏を求める使者として現れたことだろう。

 表向きの理由はどうあれ、結局は先輩の強大な力と民衆の支持に、既得権益にしがみついた為政者が恐れおののいたために過ぎない。


「降伏する。私がこの首を差し出せば、素直に引き上げるのだろう?」


 一旦使者を引き上げさせての場で、先輩が呻くように言った。


「殿下は少しお疲れのようだ、暫くお休みいただいて」


 俺は鎮静剤を処方し、先輩をそばに控えた侍女に預ける。





『体は剣で、できている』


 城を包囲する兵力を見下ろしながら、俺は、以前いた世界で割と有名な、魔法の呪文を唱え始める。


『血潮は鉄で心は硝子』


 呪文と供に、この街に敷いた魔方陣から俺の身体を通して強大な魔力が溢れ出す。

 現出する無辺の荒野。

 “道具箱”と揶揄されながらも勇者と供に歩み、磨きをかけてきた俺の剣製魔法。

 荒野の果てから、キュラキュラと、バタバタと、この世界には異質な轟音が近付いてくる。


『この体は、無限の剣で出来ていた』


 呪文を唱え終えた俺は、城の外壁に並ぶ無数の剣を見下ろす。


「突っ込み不在なのが残念だな」




「各隊、前方敵集団横軸中央に斉射」


 城の5辺に12両ずつ並んだ10式戦車から轟音をたてて一斉に炸裂弾が発射される。


「弾着良し。各隊奇数番は200メートル奥から50メートルおき手前に5射。偶数番は200メートル手前から50メートルおき奥に5射。撃て」


 集結した10万の軍が陣を敷いた地が、まるで耕した直後の畑のようだ。

 はたしてどれほどの兵がいきていることか。

 まあいい、誰独り生かして帰すことのない殲滅戦だ。


「航空機隊、敵陣へフレシェット弾投擲後、機関砲で残敵殲滅」


 アパッチと呼ばれた細身の攻撃ヘリが30機、無辺の荒野を飛び立ち、死せる敵も、敗走する敵も等しく苅っていく。


「座標の設定、できたよ」


 妖精族の娘が空から降りてきて、盤面へ広げた地図に座標を書き込む。


「とりあえず王都と大公都3箇所。それに宰相の本拠と剣士と魔法使いの所轄領。あと適当にここらの城を4箇所やっちゃおう」


 俺は地図にポンポンと駒を置き、妖精族の娘にニヤリと笑い掛けた。



 既に城の外からは物音が消え失せ、錬成した剣は無辺の荒野へと引き上げている。

 城下から喚声の声が響くこともない。

 音のない、夕焼けに染まる大地の上に、無辺の荒野からゆっくりと漆黒の巨体が泳ぎい出る。

 鯨が空を泳ぐこの魔法の地に人造の鯨が現出し、大地を睥睨し、背中のポッドを開く。


「射撃管制よし。発射」


 俺の発声と主に、11発のICBMが空高くとんでいく。



 その後、この国とそれに加担した諸国がどうなったかはよく知らない。

 為政者を失った王都近郊は内乱に荒れ、国境の諸領は他国に併呑されたと聞く。

 国破れて山河在り。

 為政者が誰であれ、民草の営みは続けられていく。


 いつしか不可侵領とされたこの城域を支える民草は平穏の名のもと変わらぬ生を続ける。

 俺は今日も城の天守に在りて、遥か平原の彼方を望するのだった。

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