捕獲
迷い込んだ大きな森の中で小さな檻を見つける。
一メートル四方の正方形、上下面が鉄板、側面が太い円筒状の鉄格子で囲まれている。 子供か、体を丸めた大人がはいれる程度の大きさだ。
その檻の中心に、小さく折りたたまれた紙が細いテグスで吊るされている。
――なかになにか書かれているかもしれない。
地図的なものか、脱出のためのヒント的なものか。
そんな現状打開の切り札を期待して、格子のスキマから紙へ手を伸ばす。
鉄格子同士のあいだがせまく、前腕すらいれられなかった。
内側にはいるしかないようだ。
外開きの格子戸を開き、身を縮めて中へはいる。
頭を下げ、ちょこちょこと座り歩きで進む。
全身を檻の中へいれてようやく紙を手にすることが出来た。
ひとまずそのままの体勢で、紙を広げる。
『コロン』と『ハイフン』の記号、そしてアルファベットの『ピー』が書かれている。
英語圏で使われている顔文字で、アッカンベーをしている顔だったはず。
ガシャンッ!
と、背後で金属の重い音がした。
体勢が悪く、うまく振り返ることができず、首だけでどうにか後ろを見る。
はいって来た格子戸が閉められ、大きな南京錠で施錠されていた。
檻の外に、光沢のある長ズボンのジャージにランニングシューズを履いた下半身だけが見える。
檻上部の鉄板のせいで顔は確認できない。
あっけにとられているうちに、そいつが背中を向けて遠ざかっていく。
ボクは後ろに向き直り、トビラをつかんで前後にゆすった。
見た目以上に頑丈なつくりをしているらしく、ピクリともしない。
コレはなにかの冗談ですぐに開けるはずだ、むしろ、ヒトがいたということは救いの前兆かもしれない。
そう考えてしばらく待つ、が足音は遠のくばかりだ。
閉じ込められ置き去りにされた――
自分のおかれた状況を正しく理解できたときには、なにもかも手遅れだった。
無駄とは知りつつも、悪態をつき大声でわめき散らす。
ダレの耳にも届かず、森の中を反響することすらない。
ボクはそれから思いつく限りのあらゆる手段での脱出を試みたがすべて失敗に終わる。
太陽が沈む。
灯りのひとつもない森は、まぶたを閉じたかのようになにも見えなくなった。
あがき疲れたボクは、足すらも伸ばせない空間でひざを抱えて横になり、いつしか眠りに落ちていた。
目を覚ますと、やはりボクは檻の中にいた。
どうやら夢ではなかったようだ。
周囲を見渡すと、前日と変わらず森が広がっている。
ひとつだけ、昨日と違うところがあった。
数十メートル離れたところに檻が設置されている。
紙の有無まではわからないが、ボクの檻とまったく同じものだと思う。
檻の中にはダレもいれられていない。
ふと、ザクザクと音を立てて足音が聞こえてきた。
じょじょに向こうの檻へと近づいてくる。
それはくたびれた様子の女性だった。
柄物のティーシャツにスキニーなジーンズでサンダルというラフな格好をしている。
檻を目指してトボトボと歩いていくのが見えた。
ボクは声をかけずにただ見ていた。
その女性の後ろを音も立てずにヒトがつけて来ている。
フードをかぶっているため顔はわからない。
が、着ているジャージとクツに見覚えがある。
ボクを閉じ込めた人間が着ていたものと同じものだ。
たぶん、同一人物だろう。
ボクと同じように女性は、檻を見て、紙を見つけ、檻にはいる。
すかさず、後ろをつけていた人間が格子戸をしめた。
南京錠をつけて、女性も閉じ込められてしまう。
そして、そいつが去る姿をボクも女性も無言で見送った。
――声をかければよかった。
今更になってそんなことが頭に浮かんだ。
女性が声を上げ、ひとしきり暴れたあとで、こちらに気が付いた
なにごともないかのようにボクは笑顔で手を振った。
あ然とした表情と苦笑いでクチを引きつらせながら女性は手を振り返してくれる。




