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信者増殖中  作者: ゆるり
8/20

No.08

今朝も同じやり取りしましたが……


玄関先で騒ぐなと一喝して、応接室に来客を通す。

上座に私、横にルキナ。

正面にはアズルとアトヴィル。

カイは今朝と同じようにルキナの後ろに控えている。


「嬉しさのあまり、ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」

深く頭を下げるアズル。


「まさか貴方様がこの国に来られるとは思っておらず、失礼した」

アトヴィルが続いて謝罪する。


「別にいいわ。嫁ぎ先の人間関係は円満でいたいもの」

出戻り希望で長居する気はないが、それでもしばらくはご厄介になる場所。

このくらいで怒るほど狭量ではないし、治める領地の有力者とごたごたなんて御免だ。

私の発言に来客2人の顔が凍り付く。


「嫁ぎ先……ですか?」

なんだろう、底冷えするような声音だ。


「そう、ルキナが申し込んできたから仕方なくね」

嘘は言ってない。

真実でもないが。


「ほう、それは、それは」

アズルとアトヴィルの様子が少しおかしいか?


「おい」

本能的に危機を感じたらしいルキナが私に訂正を求めてくる。

カイは主人を助けるでもなく、黙殺している。


「この地にセレナ様を授けてくださった功績は称えますがね」


「独り占めされるようでしたら、夜道には背後を気を付けられるがよかろう」

さらりと闇討ち宣言している。


「お前たちは、領主を脅すのかよ」

まったく冗談に聞こえない宣言に、ルキナがげんなりとしている。


「その件は端にでも置いておいて、本題に入りましょうか」

どうでもいい話は時間の無駄。

何か物言いたげなルキナをサクッと無視する。


「手紙に書いたけど、私はこの領地の開発を行います」

農業協会と商業協会には承諾をもらっていることを伝える。

ついでに技術提供の見返りに、開発費用免除の件も伝えとく。

私の信者らしいし、これで納得してくれるだろう。


「開発の候補地は、スノーベルとアリスベルも街。人の住む街をこの機に一気に開発してしまおうと思うの」

もし了承してもらえなければ、未開発の土地の開拓もいいけどと付け加えておく。

私の考えが強制ではないことを宣言する。


「セレナ様を信じないわけではないですが、具体的な話を聞かせていただきたい」

遠慮がちにアズルが発言する。


「もちろん。では、まず、スノーベルについて説明するわ」

カイが事前に用意してくれた紙とペンで、先程描いた温室の絵を再度描く。


「1年の半分を雪に覆われる土地では、作物を育てられないでしょう。特産になるものも何もない。だからこれ」

描いたものをアズルの前に置く。


「この土地は地中に温泉が埋蔵されているわ。その温泉を使って農作物を育てるの」

ガラス張りの建物の中での農作業。

汲み上げた温泉によって、建物内は常に常春の状態を維持。

これによって、この地域では育てられなかった作物が育つようになる。


「この建物は農業協会が用意してくれることになっているし、格安で貸してもらえるから初期投資はほぼ必要なし」

いいことづくめに聞こえる私の話。

しかし、そこは市長。

ここまで美味しい話には、裏があるだろうと見る。


「これだけ好条件をそろえられると、逆に何かありそうで怖いですね」

魅力的な話ではあるが、頷けないのもわかる。


「確かに。私達が一方的に農業協会に依存した生活をするのは危険」

いつ温室を人質に無茶な要求を飲まされることになるかわからない。


「だからこそ、農業協会がこの領地を切り捨てられない物が必要になるの」

紙にいくつもの植物名を書き連ねる。


「おい、何をする気だ?」

最初に気付いたのはルキナ。


「強力なカードを用意する必要があるでしょ」

紙に書いた植物名は全て幻と言われる物。


「不治の病とされる病気に効果があると立証されている薬草たち。でも、栽培が出来ないため、僅かに自生しているものを高値で取り合いされている物」

自生先は主にサナ国。

私の祖国だ。


「これを栽培し、農業協会に優先的な取引権を持ち掛ければ、一方的な依存関係は成立しなわよ」

無茶な要求をごり押しされるリスクもかなり軽減できる。

なにせこの薬草を栽培できる所は他に無いのだから。


「待ってください、これらは栽培出来ないものばかりです。それにセレナ様の祖国の専売特許のはず」

アズルが悲鳴を上げて訴える。


「別にサナの専売特許ではないわよ。むしろ私たちは自国に自生しているこれらの薬草を販売したくないの」

貴重な植物は自分達が必要な時に少しだけもらって、あとはそっとしてあげたいのだ。

なのに豊かな自然で自生する薬草に目を付けた周辺諸国達。

小国に自衛手段はなく、圧力をかけられてしまうと、販売するしかなかった。


全てはサナ以外に自生している場所は皆無で、栽培も出来ないから。

なら栽培できれば、状況を変えられる。


「栽培方法なら私がほぼ確立しているわ。それをこの領地に伝授してもいいわよ」

静まり返る応接室。

その沈黙を破る様にアトヴィルが手を上げる。


「ひとつお聞きしたい。なぜ栽培方法を確立していて、今まで世に出さなかったのですかな」

もっともな意見だ。


「大きな理由は温度管理の難しさ。でもそれは温室が出来ればクリアされる」

ここでいったん言葉を止めて、もう一つの理由をどう話すか迷う。


「大きくない理由は何だ?」

ルキナは早く話せと促す。

少しだけ視線を彷徨わせてから、深く息を吐いた。


「栽培過程で麻薬となる実ができるの。強い幻覚作用があるわ。激しい痛みを伴う怪我や病気に対しては痛みを麻痺させる効果に使えるけど、健康な人間が幻覚に溺れ、大量に使用すれば廃人になる代物」

おいそれと栽培方法を広められない。


「麻薬成分に対しては絶対に口外しないで、薬草のみの取引に限る。それが伝授する条件。もちろん栽培する人間が麻薬を使用するのも禁止」

黙り込むアズル。


「栽培することを怖いと思うのなら、この話は無かったことにしましょう。何か別の方法を考えるわ」

この薬草が栽培できれば救える命が増える。

農業協会への切り札のみならず、国の方針である医療面での強化にも強い影響力を発揮するだろう。


いずれどこかに栽培方法を伝授しなければと考えていたのだ。

できれば私が住むこの領地にある、スノーベルの街に伝授したい。


「大丈夫です。栽培方法と秘密の厳守は絶対に」

この話し合いが終われば、すぐに街へ戻り、信頼のおける人物を集めて、栽培に関するルールと罰則の作成に取り掛かるという。

農業協会の開発予定地はスノーベルで決定。


「次はアリスベルね」

貧弱な大地と高齢化による農作放棄地。


「温泉施設をメインとした観光業を中心にしたいと思っているわ」

アトヴィルが過去に失敗した事業の大半は観光に関するものだった。

たぶん人を呼び込み、触れ合いを目的とする事業がやりたいのだろう。

なら、それを後押しすればいい。


「商業協会には温水を利用した技術の提供をするの。その中に入浴や岩盤浴の施設が含まれる。健康療法の確立とデータ収集が主な役割ね」

街の人達には完成した温泉施設を存分に利用してもらい、健康への影響を調査してもらう。


「温泉の入り方や岩盤浴の利用方法など、ある程度は教えてあげる。さらに健康促進するような利用方法を編み出してね」

温泉の成分が疲労や炎症に効果があることや、若返り効果があること。

前世の記憶で知ってはいるが、この世界にはそういう考えがない。

ここで効果を実証できれば、温泉施設は各地に普及していくだろう。


この世界の富裕層は美への関心が高い。

健康と美の密接な関係を訴えていけば、注目してもらえるだろう。

観光客がたくさん来て、中には真似してくる者も出るかもしれない。

そうすれば、私はゆっくり各地の温泉旅行を楽しめるようになる。


先人は何事も大変なのである。

ここはアリスベルの人達に頑張ってもらうしかない。


「スノーベルの街と協力して、健康食とか気持ちを落ち着ける香草を開発してもいいんじゃない?健康と美を全面に押し出した観光地づくり」

温泉の成分だけでなく、健康に関する多くのデータが取れる。

交渉次第では、商業協会から低金利で資金援助してもらうことも可能だろう。


「なるほど。テーマを決めて、街全体を統一させて、観光客を呼び込むのですね」

アトヴィルはこれまで、成功例や流行り物に手あたり次第手を出して失敗している。

そういうものではなく、土地の強みとアイデアで方法を考えること。


「温泉効果や健康法の検証など、少々人体実験みたいな感じはありますが、健康不安を訴える年寄りが多い街。驚異的なデータを出して見せましょう」

施設完成まではまだ間があることや、データに一定の成果が出るまでにはさらに時間がかかる。

焦ってろくな計画も立てずに失敗したこれまでの事業を振り返りつつ、じっくり計画を練るいい機会だと笑う。


「商業協会の開発予定地はアリスベルの街でいいのね?」

念押しの確認に、アトヴィルは力強く頷いた。

8話まで来て、ようやくこの段階……

15~20話くらいでの完結目指しているのに、終わるか不安になってきました。

目測というのは苦手ですね。

こちらが優先になってしまい、もうひとつの連載が停滞気味で申し訳ないです。

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