No.05
寝心地のいいベッドに思わず寝過ごしてしまった。
「お金のかけ方が違うわね」
自然が一番だと、故郷の城では贅沢などしない。
布団もありふれた素材で出来ていた。
肌触りも良く、寝心地もいいので不満は無かったが、この屋敷の布団で寝てしまうと、やはり寝心地はお金のかけ方に比例するのだろうと悟ってしまう。
「贅沢になれたら、離縁して実家戻ったとき、生活戻すの大変だな」
とっとと問題片づけて、実家に戻るのまだ諦めていません。
「なんだ、お前、出戻る気でいるのか」
おおっと、扉の方からあってはならない声がする。
「……なんで、あなたがそこにいるのよ」
ここは私が使っている部屋。
いくら屋敷の主人だからと、許可なく女性の部屋に入るとは何たる了見か。
「いきさつはどうあれ、自分の嫁になるのなら嫁扱いするべきかと思ってな。これも縁だし、楽しもうかと」
ルキナの宣言に顔が引きつるのがわかります。
いらないから、そういうの。
私はちっとも楽しくないし。
「出戻る気、満々なので、清い関係でいましょう。では!」
なんとなく今、この場を離れるべきだと本能が告げる。
そのお告げに従い、ベットから飛び降りると、猛ダッシュでルキナの脇をすり抜け……られませんでした。
なんでわざわざ敵に向かったのかって?
それしか道が無かったから。
この客室、続き部屋とか無いから、部屋から出たいなら扉から出るしかないんです。
なのに扉の前に立ちはだかる敵。
ダッシュすれば何とかなるかと思ったけど、どうにもなりませんでした。
「お前、この婚姻決めた人間に逆らえると思っているのかよ」
軽々と私を捕まえたルキナが、呆れたように聞いてくる。
「逆らえるなら、とっくに逆らってるし。ってか、そもそもルキナがあんな手紙を弟に送るから悪いんでしょうが」
呼び捨てで十分だ、こんなやつ。
「だよな、あんな手紙受け取ったなら、この国に抗議しれくれればいいものを。まさかセレナが来るとは思わなかったよ」
くそう、呼び捨てにしたら向こうも呼び捨てにしてきたぞ。
「来たもんは仕方無いだろう。仲良くするに越したことはないぞ」
そういって唇に軽く何かが掠る。
むかつくくらい綺麗な顔がありえない近さであるのだから……
キスされた。
顔から血の気が引き、膝から床へと崩れ落ちる。
「お前な、その態度は傷つくぞ」
こういうのに百戦錬磨であろうと思われるルキナのちょっと情けない声。
「うるさいわ。勝手に傷つけ。こっちはファーストキスだったのに……」
前世の記憶もあるから、トータル年齢は結構な歳だし、腐女子カテゴリに属していて、もっとすごいの読んだり描いたりしてたから、キスくらいなんてこともないのだが。
自分よりも遥かに美人さんに奪われるというのは、女としてのプライドをへし折られた感半端ない。
せめて、せめて私ではなく弟であったなら、眼福であったのに。
絵面がよろしくないのよ。
あ、涙出てきた。
「ちょ、おい」
私の涙に焦ったらしいルキナの声。
おろおろとしているのが気配でわかる。
あ、こういうシチュエーションは結構好きだな。
ヘタレ属性は好物ですとも。
ルキナにばれないように、こっそりとにやける。
「何やってるんですか、あなたたちは」
突如降ってわいた第三者の声。
ルキナの従者のカイだそうだ。
「セレナ様、お手紙は朝一でお届けしておきました」
どうやら報告のために、この部屋に来たらしい。
「仕事早いね、ありがとう」
だったら遊んでないで、さっさと次の作業に取り掛からないと。
「じゃ、いい加減着替えるんで、部屋から出てってね」
ニコリと微笑むと察したカイがルキナを引っ張って部屋の外に出る。
そして静かに扉を閉めてくれた。
着替えて朝食を取り、今は優雅にティータイム。
そんな贅沢な時間をぶち壊す馬車のいななき。
何事かと窓の外に目をやれば、玄関真ん前まで馬車が乗り付けていた。
「セレナ様、セレナ様がここに居られるとは本当か」
ごっつい男が馬車から飛び出してきて、扉を叩いている。
「何事ですか」
慌てて屋敷から飛び出してきたのは、この屋敷の家令だろうか。
「セレナ様がここにいらっしゃると、手紙が」
プルプルと震える手で、確かに昨日書いた手紙を持っている。
そんなやり取りをしている玄関先に、もう一台の馬車が横付けされた。
「おい、セレナ様がここにいると連絡を受けたのだが、本当か?」
もう一台の馬車から飛び出してきたのは、メガネをかけたインテリな感じの男。
「なんだ、あれは」
玄関先のやり取りを食堂の窓から一緒に眺めていたルキナがカイに尋ねる。
「今朝、手紙を渡したゴウズワナ殿とキルギス殿ですね。セレナ様の名を連呼しているようですが」
カイにも皆目見当つかないといった感じだ。
「どういうことだ?」
ルキナの視線が私に向く。
「あらら、この国にもいたのね。私の信者が」
ちょっと頭が痛くなる。
祖国では、幼い頃から前世の記憶があったので、豆知識程度で日本のあれやこれやを披露していたのだが、農業や商業関係者の耳に入り、実践してみたら大きな利益につながったそうだ。
その恩恵は驚くべきものだったらしく、いつの間にか崇拝され、信者が国中に広がっていた。
変な宗教はお断りだと国王と王妃が必死で取り締まり、規模縮小に成功していたのだが……まさか、国外にまで広がっていたとは思わなかった。
手紙に添えたのは、日本の豆知識。
私の信者なら、私の存在にすぐ気づいても当然だ。
「お前は何者なんだ?」
ものすごく不信な目を向けられました。
信者の登場です。
……しかしタイトルは早まった感、半端ないですね。
信者さんあっての話になってく予定ですが、どう見ても宗教ものっぽい。
1話目投稿時に、初めてタイトル考えてなかったの気付いたんですよ。
慌てて20秒で決めたタイトル。
後悔は先に立たずです……




