No.04
柔らかな毛布の感触にだんだん意識が浮上してくる。
「あれ、ここは?」
ゆっくりと目を開けてみれば、見知らぬ天井。
「俺の屋敷だよ」
不機嫌な声がする。
声のした方に視線を移すと、大層綺麗な顔があります。
「ああ、ルキナ王子か」
美形は弟で見慣れている。
怒っているようなので、少々迫力増しではあるが、驚く程の美しさでもない。
「ということは、目的地到着だな」
よいしょと小さく掛け声かけて起きる。
「お前、誰だ?」
私の言葉に不信感をあらわにするルキナ。
そりゃそうだろう。
私は何度か遠目で大国の麗しい第三王子を見たことあるが、向こうは小国の平凡な王女など気にもしたことないだろうよ。
「サナの王女でセレナ。あなたの素っ頓狂な手紙のせいで、城から出されたの」
間違っちゃいない。
うん、全て真実。
ちょっと言い方に棘があるだけだ。
私の言葉に驚くルキナ。
そうだ、そうだ、ちょっとは罪悪感とか感じてくれ。
「平凡過ぎて、特徴無いな」
旦那様の私に対する最初の感想。
了解。
仮面夫婦決定ですね。
「いろいろと制裁加えたい発言だが、まあ、置いておこう」
軽く咳払いして、改めてルキナを見る。
「単刀直入に言わせてもらうね。この領地、いろいろ改造させてもらうから。これじゃ、領民が可哀そうだ」
ここがルキナの屋敷だとするなら、領地の中心部にあるはず。
目覚めてから全く精霊の声が聞こえない。
完全に大地は荒廃している証拠。
こんな土地じゃ、いくら苦労しても豊かな暮らしなど出来ない。
「放置するにしても限度があるでしょう。なに、この荒廃ぶり」
責めるような私の言葉にルキナの視線が鋭くなる。
だが、そんなこと知ったことではない。
だって本当のことだから。
「お前には何とかできると言うんだな?」
ルキナのすべてを見透かすような視線。
「出来る。あなたが邪魔さえしなければね」
釘を刺しておく。
邪魔された挙句に出来ないじゃないかと言われたら腹が立つから。
私の宣言に考え込むように目を閉じるルキア。
しばらく沈黙の時間が流れる。
「お前が指摘した通り、この領地は貧しい。あまり予算は出せないが、それでも何とかできるか?」
この領地を預かる者として、自身の意地やプライドはとりあえず棚上げしたらしいルキナ。
私も下手な張り合いは捨てることにする。
「資金調達か。この国で私は人脈が無いわ。殿下の名前で商人や職人など、どのくらいの伝手を確保できる?」
先立つ物が無ければ無いで、やりようもあるが、改造するなら派手に行きたい。
「面識は無いが、協会のトップを引っ張り出すくらいはできると思うぞ」
逆に末端付近は王族なんて雲の上過ぎて、影響力が全くないだろう。
「上等。今から書く手紙をこの辺りで一番影響力のある人物に渡して」
客室から出てきたルキナに駆け寄るカイ。
「ルキナ様、ご無事ですか?」
不審人物が眠る部屋へ一人で入ると言い出したルキナを心配して、ずっと扉の前に控えていた。
「大丈夫だ。それよりアレが嫁だった」
さらりと告げるが、カイは言葉の内容を理解できていないようだ。
「サナの王女、セレナだそうだ」
当人がそう名乗っていた。
「偽物ではないんですか?そもそも男性でしょう?」
カイの疑問も最もだろう。
しかし偽物の可能性は低い。
ルキナとセレナの婚姻など知る者は皆無だ。
主にサナの王妃が独断で決めたと言ってもいい。
しかもまだ数日前の話。
この時期にセレナを名乗り、ルキナに会いに来たのなら本物だろう。
「本物だ。あれでもちゃんと女だったぞ」
言ってから失言だと気付くが遅い。
カイの目が座っている。
「どうやって確認したんですか?特に後半」
とっさ過ぎて、言い訳が思い浮かばなかった。
そもそもカイ相手に嘘や言い訳はすぐバレる。
「男だと思って着替えさせてたら、女だって気付いた」
まともにカイの顔が見れない。
「要するに見たと」
直接的な言葉で確認してくるカイ。
それに頷くには少々抵抗がある。
故意ではないのだから。
「結婚相手とはいえ、まだ婚姻前。王女に対しての非礼は詫びて来てください」
無情にもカイは扉をあけて、客室へと押し込みやがった。
「聞いてたわよ」
疲れたからと、休んでいるはずのセレナが満面の笑みで扉の前に立っている。
「お前、寝るんじゃなかったのかよ」
「扉の前で立ち話されれば、嫌でも聞こえるわ」
次の瞬間、頬に強烈な痛みと、鈍い音が響く。
平手打ちされたのだと気付いた時には、セレナによって扉から客室の外へと放り出されていた。
頬に紅葉を張り付けて、不機嫌さをあらわにするルキナ。
「ほらよ」
非礼に対する制裁がなされたことを確認して、満足そうに微笑んでいるカイ。
手紙を渡され、眉根を寄せる。
「なんですか、これは」
宛名も書かれていない封書。
「ゴウズワナとキルギスに渡してくれ。よくは知らないが、この領地を改造する資金集めにとあいつが書いた」
どういう方法を取るつもりなのか、セレナから何も聞かされていない。
邪魔はするなと言われているので知る必要もないと思っている。
「この領地の改造はあいつに任せてみた。必要なら助力してやれ」
自信に満ちていたセレナ。
こいつなら何とかしてくれるかもしれない。
そう思える何かがあった。