No.17
死屍累々。
いや、本当に殺してはいないけど。
「お主も面倒なことに首を突っ込んだものだな」
呆れたように物申すのは、小さなおじさん。
もとい、地の精霊ワーズ。
サナ国が精霊の友人と呼ばれているのは、伊達ではないです。
王家の血筋の特異体質だけど、見えるし、話せるし、触れることも可能。
「好きで首突っ込んだわけじゃないんだけどね」
森の中、半分地面に埋まった黒装束の物騒な刃物を持っ人達に心が躍る。
「それにしても、今回は結構当たりかな」
10人くらいいる中で、2人ほど良さそうな人物発見。
さっそくスケッチ。
牢屋送りになった者達の中から、あとでこのスケッチをもとに探し出して、ウチヘ引き抜くのだから。
「お主の趣味も相変わらずか」
精霊は本質を見抜くそうです。
隠そうとも、一発でバレたこの趣味。
取り繕う必要もないので、気楽だけど。
なんでも、本能に忠実なところが気に入ったそうです。
微妙。
「まあ、お主がこの国に居る限り、我もここにとどまっていよう。いつでも呼ぶが良い」
精霊は一度仲良くなると、とても義理堅いと思う。
こんな面倒にも、嫌な顔しないで、付き合ってくれる。
「ありがとう、今度はゆっくりお茶でもしましょうね。ウィルも呼んで」
風の精霊ウィル。
私のもう一人の友人。
ウィルは開発中の領地に置いてきたため、ここにはいない。
雪の季節に入ったから。
自然に逆らうのは限界があるけれど、少しでも雪雲を寄せ付けないように仲間を引きつれて奮闘中だ。
「ならばスノーベルの街で、美味しい茶葉を作らねばな」
そういうとワーズはスノーベルの街へと飛んで行ってしまった。
「さて、あっちもそろそろかな」
ここで待ち伏せして、ルキナ達を襲うつもりだったのだろうが、その計画は私に筒抜けだ。
商人に入れない場所などない。
ゴウズワナとキルギスの伝手により、かなりの情報や協力者が集まる。
「セレナ様、あちらも片付きました。どうぞお戻りください」
いつの間にか現れた密偵。
これが彼らの仕事なので仕方ないが、どうにも心臓に悪いな。
「了解。この人達お願いしていい?」
ちょうど来た密偵に、地面に埋まった人達を任せてしまおう。
「お任せください」
そう言って、短剣を構える密偵。
それには焦る。
「待って、待って。殺しちゃ駄目」
慌てて止めると、密偵が不服そう。
「しかし、このまま生かしておけば、セレナ様に害を成すかもしれません」
ちょっと信者と化しつつあるのか、発言が過激だ。
「この程度の害なら簡単に潰せるから、心配しないで。そうね、せめて社会的に抹殺するくらいに留めてあげて」
温情のつもりで投げた言葉。
なんか温情になってないけど、このくらいはいいか。
そういう人間の方が、後でスカウトしやすくなる。
「ああ、その方がいいですね」
心底楽しそうな笑みを密偵が浮かべている。
何をするのかは、聞いちゃいけない領域だろう。
うん、あとは知らない。
「じゃあ、私はあっちの様子見てくるから。それと後でスカウト考えてる人材いるから、最後は牢屋行にしておいてね」
人間、足を踏み入れてはいけない領域と言うのがある。
刺客と密偵のこれからが、まさにそれだと思う。
さっさとこの場を離脱するに限るだろう。
「わかりました。護衛が出来ませんが、大丈夫ですか?」
少々ここから距離がある場所。
心配そうに聞かれた。
「大丈夫よ、精霊の加護があるもの」
そんな大したものでもないが、呼べば来てくれるし、一人で行動したいときはそう言って誤魔化すことにしている。
密偵から片付いたと聞き、駆けつけてみれば……
高級レストランの個室には、偉そうな貴族から、どう見ても堅気には見えない怖そうな人たちまで床に倒れて気絶してる。
残念、こっちは全部ハズレだ。
まあ、いいか。
結構スケッチ描いたし。
鞄に入った紙の束に顔がほころぶ。
「さてと」
倒れた人達を見下ろして、ため息が出る。
さっきの待ち伏せしていた刺客は捨て駒。
端から成功など期待していない。
ルキナ達が襲われたという事実に対して、警戒心を持てばいいだけ。
王都へ向かうルキナ達は、食事を取るためにこの街に立ち寄らなければならない。
刺客を警戒すれば、防犯面から個室を考えるだろう。
この街で貴族が利用するような個室があるレストランはこの店だけだ。
油断しているところを、この強面使って奇襲する気だったらしい。
「どうして小物が悪さしようとすると、こうもワンパターンかな」
呆れるしかない。
こんな密室で悪そうな面並べてれば、悪だくみしてますと言っているようなものだ。
「セレナ様、よくご無事で」
このレストランの店主が、気づかわし気に声をかけてくる。
ひとりで刺客の方を片づけてくると言ったら、猛反対した人物だ。
ワーズに頼む気だったので、他の人は連れていきたくなかったから丸め込んだが。
「大丈夫よ。それより、この人達もいつも通り、処理しちゃってね」
言い逃れできない状況での逮捕なので、サクッと牢屋行。
相手が私なので、商人達やサナ国を敵に回してまで小物をかばう者はいない。
「さて、あとどれくらいかな」
ポケットから取り出したリストには、びっちり小悪名高い貴族が名を連ねてる。
そのいくつかにはバツを付けた。
「そうね……残りはほっといてもいいか。王様の生誕祭は明日だし、私はそろそろ城に行かないと」
他の嫌がらせ程度の悪だくみは、この際、放っておく。
後で利子つけて報復すればいいだけだから。
対処するのは、暗殺の類だけでいい。
現段階では、こんなものだろう。
夕方には無事、王城に入ったルキナ達。
少し遅れて王城に来てみれば……
「すまんな、嬢ちゃん。ここへは許可が無いと入れないんだ」
門番が優しい声で諭してくる。
うっかりしてた。
ルキナが一緒じゃないと、私、この中に入れない。
さて、どうしよう。
賄賂を渡せば……いやいや、この門番、見るからに善人そう。
下手にそんなことすれば、逆に捕まる。
いっそ捕まって、王様の前に引きずり出された方が早いかな?
無理だな、小物の捕獲くらいで、王様が出てきたりはしない。
「明日は王様の生誕祭でしょ。当日人手が必要だろうから、ここへ来れば仕事があるんじゃないかって街で聞いたんだ」
この際、穏便に済ませるためなら、労働力の提供も惜しまない。
むしろやってみたい。
コンビニ、引っ越し、占い師。
前世じゃ、いろんなバイトして、結構充実ライフを送っていた。
ここじゃ、働きに行こうとすると怒られる。
こんな機会でもないとできないだろう。
「なんだ、嬢ちゃん。仕事が欲しいのか」
親切な門番が、頭を悩ませて考えてくれる。
本当にいい人だ。
夜、窓の外を眺めて、ため息をつくアルス。
「姉様が来ない……」
さすがに前日の夜には戻ってくると思っていたが、甘かったようだ。
「お前も大変だよな」
途方に暮れているアルスに、同情の眼差しを向けるルキナ。
ルキナ達に与えられた部屋では、必死にセレナを待ち続けるが、戻ってくる気配は一向にない。
「カイ、密偵から何か連絡は来てないのか?」
現在どこに居るとも知れないセレナとのやり取りは全て密偵を使っている。
「順調という連絡があったきりです」
昼にその連絡があったきりだ。
適当に付けてた設定、ちょっとずつ拾っていってます。
どこまで拾えるかな……




