No.12
母が爆弾投下していったことなど、知る由もなく。
「失敗したな」
朦朧とする頭を振り、何とか自我を保つ。
薬草の講習で、麻薬となる実の扱いを説明していた時の事故。
実家から取り寄せた栽培予定の実に、予期せぬものが混じっていたのだ。
その胞子をうっかり吸い込んでしまった。
私以外に被害はないから良かったが、講習を続けられない状態になったので、帰ってきた。
媚薬の一種で、効果は一過性の物。
実の取り違えなど、母様にしては珍しい凡ミスだと思う。
とは言え、明日には完全に抜けるだろう。
しかし、それまでがいろいろと辛い。
「セレナ様、お帰りなさいませ」
屋敷に着くと、珍しく出迎えてくれるカイ。
「ただいま。こんなところで、どうしたの?」
いつもは仕事部屋でルキナが逃げ出さないように見張っているのに。
「ルキナ様がいろいろとお悩みなので、今はそっとしておこうかと思いまして」
あらら、何か思い詰めているらしい。
相談にのってあげたいのはやまやまなのだが……いかんせん、私の状態もよろしくない。
「そうなんだ。じゃあ、私もそっとしておこうかな。今日はもう部屋に戻ってるね」
ラッキーとか思いつつ、堂々と部屋に戻る。
いつもは講習や視察の状況などを報告しに、ルキナの仕事部屋までいかなければいけないのだが、今日は免除で問題ないらしい。
部屋に戻ると、いろいろ世話を焼きたがるメイドが多数。
「今日はもういいわ。ちょっと体調悪いの、このまま休ませてもらってもいい?」
弱々しく言ってみると、大変だと慌てふためくメイド達。
「すぐにお医者様をお呼びいたします」
「まずは食事で体力をお付けにならないと。すぐに消化の良いものをお持ちいたします」
「お部屋も暖めないと」
大事になりそうな勢いで動き始めるメイド。
「待って、待って。そっとしておいてもらえれば大丈夫だから」
媚薬の影響ですなんて、恥ずかしくて言えない。
「では、せめてルキナ様にだけでもご報告を」
この屋敷の主であるルキナには報告させてほしいというメイド。
黙っていて欲しいが、こればかりは仕方ないだろう。
「わかった。それでいいから、今はもう、休ませて」
切実だった。
前世も今生も清い身なので、抑えは効くが、メイドの相手をしつつ耐えられる物でもない。
夜遅くなり、扉が叩かれた。
「体調悪いんだってな、大丈夫か?」
気づかわし気な声はルキナのもの。
「入っていいよ」
あまりに気軽に入れと言われて、扉の外から戸惑う気配。
ここ来た初日には、呼びもしないで勝手に入って来たのに。
仕方ないな。
ベッドから降りて、扉を開けてあげる。
「そんなところに突っ立っててもしょうがないでしょ。さっさと入っちゃって」
ドア越しに会話しろとか勘弁してほしいのだから。
自分の恰好が夜着なのは、たいして気にならない。
前世では、もっとラフな格好で平然と外出していた。
それもあってか、羞恥心というものが薄い自覚もある。
「お前は、恥じらいというものを……」
いろいろと言いたいことはあるらしいが、言葉が出てこない。
そんな感じの表情だ。
「はいはい、別に服着てるんだし、そこまで言うほどじゃないでしょ」
お小言は避けさせてもらいます。
とっととルキナの手を掴むと部屋の中へ連れ込む。
「そこ座ってて」
部屋に置かれた小さなテーブルと椅子を指さす。
テーブルの上にはメイドが置いて行ったお茶セット。
お湯は保温瓶に入っているので、まだ温かいだろう。
媚薬に耐えられるとか言ってたさっきの自分出てこい。
あっさり負けました。
で、どうしようかと途方に暮れてたら、ちょうどルキナが来たので、タイミングみて襲わせていただきます。
前世で読んでた取り扱い注意の薄い本達。
知識なら無駄にあります。
あとは私の度胸だけ。
「悩み事あるんだってね。相談しに来たのならのるよ」
まずは親切にして、油断を誘わないと。
「いや、お前の体調が悪いって聞いて……」
歯切れが悪く、聞き取りにくい声で言ってくる。
「心配してくれたんだ。ありがとう。明日には落ち着くから大丈夫」
お茶セットを使い、温かな紅茶を入れ、ルキナの前に置く。
「なら良かった。原因は何だったんだ?」
ルキナが何気なく質問してから、カップを持ち上げ、口を付ける。
「ああ……媚薬、吸い込んじゃったのよ」
襲う気満々なので、隠しもせずに、あっさり暴露する。
すると聞かされたルキナの方が、ガシャンとカップを落として咽た。
「何やってるの」
慌ててタオルを出してきて、零れた紅茶を拭いていく。
「いや、だって、媚薬って」
「講習で使った実に混じってたの。それに気付かないでミスった。弱いから一晩あれば落ち着くけど、今どんな状態かわかるでしょ」
王族や貴族は世継ぎ問題が切実。
政略結婚が主流なので、いろいろとお世話になることが多い薬らしい。
とりあえず王族や貴族の子供達は教育係にそういう存在についての知識を教えられる。
まったく、子供になんてものを教える世界なんだろうと当時は呆れた物だった。
「そういう時は、部屋に誰も入れるんじゃない」
突然怒り出すルキナ。
何が起こったのかと思わず目を丸くしてしまう。
「ルキナ以外は入れる気無いよ?」
そう反論してみると、怒りから一転、脱力してしまう。
「よくわかった。狙ってるよな。狙ってやってるんだよな」
ガシッと腕を掴まれた。
おお、ヘタレだと思っていたが、結構見込みあるのだろうか。
はい、もちろん狙ってやってますとも。
精神面は、そこまで純真無垢じゃありません。
……うん、まぁ、なんでしょう。
全く問題ないレベルのはず。
なのにやらかしちゃった感、半端ない。
とりあえず批判コメント怖いので、先に宣言しときます。
感想の返事は一時ストップします。
逃げます、ごめんなさい。
ちなみに、もう一つの連載の方は、こういう要素は入れませんから。
あっち、主人公5歳。
やったら私が犯罪者です。
追記
変な終わり方しててすみません。
この後のR指定展開とかはありません。




