第八話
「隊長殿、唐突ですが忍びを雇いましょう」
「唐突だな加藤。しかし忍びか……」
「ドライゼ銃や野砲の情報流失は仕方ありません。奴等に作れる技術は無に等しいです」
「ふむ」
「ですが相良油田基地の隠匿は必要だと思います」
「……確かにあの基地の隠匿は必要だな。となると忍びは伊賀者の忍びになるな」
「甲賀は六角氏の忍びですから仕方ありません」
そして葛城は伊賀に使者を出して忍びを雇う事にしたのであった。
「中忍の者です」
「名は何と?」
「忍に名は有りませぬ」
「それは困るな……よし、お前の名は疾風にしよう」
「そ、某に名を……!?」
「嫌だったか? それなら別の名前でも……」
「いえ、その名で」
「そうか。宜しく頼むよ疾風」
「御意」
感動されて生涯に渡り葛城を護衛する事になるとある忍びだった。
そして時は流れて収穫の秋となっていた。
「今年は豊作だな」
「んだ。殿様が代わったおかげかもしんねぇな」
農民達はそのように話しながら稲刈りをしていた。収穫されたコメのうち三割は税で徴収された農民様の懐は暖かった。
「稲刈りを終えたら麦を撒くべ」
「んだんだ」
農民達はそのように話しながら稲刈りをしていた。一方で掛川城の葛城達は評定をしていた。
「さつま芋とじゃがいもの栽培は出来たのか?」
「はい。今は相良油田基地のみですが来年は他の農家に栽培してもらおうと思います」
「うむ。ただじゃがいもは連作障害があるだろう?」
「はい、なので大規模のじゃがいもを栽培した後は三年ほどの休作にしようと思います」
「少数生産か」
「領土が増えていけば生産する量も増えていきます」
「まぁ仕方あるまい。暫くはさつま芋の栽培の方向にしておこう。それで武器生産はどうなった?」
「四斤山砲ですが三門の製造に成功しました。弾の代用品は石弾若しくは鉄弾です。飛距離は鉄弾で千五百ほど、石弾は千ほどです。本家には負けますが今の時代には十分通用します」
松田はそう報告をした。
「よくやった松田大尉。本来なら何か感謝の印に上げねばならんが……」
「いえ、実は川崎大尉から貰っています」
「何……まさか川崎大尉!!」
「ハッハッハ、焼酎とウォッカの酒造は出来ました。今日は皆に飲んでもらおうと思いましてな」
軍医の川崎大尉がニヤリと笑い、徳利を出す。徳利の中身は焼酎やウォッカであった。
「そうか……完成したか」
「はい、味は私が保障します。美味ですぞ」
「宜しい。なら今日は大いに飲もう。それと加藤、ドライゼ銃の弾丸はどうなった?」
「ドライゼ銃の生産は既に二十丁が生産されてます。弾丸は水銀の入手もあり生産に成功しました。今は三十発が完成し十二月までには二百発は生産出来るでしょう」
「そうか。肥料の方は?」
「農民には糞尿の堆肥は止めるようにお触れを回したりしています。従わない場合は年貢を上げるとか斬首にするとかで言い聞かせています。それと肥料は米ぬかや草木灰を代用してもらうようにしています」
「うむ。流石にこの時代までに来て回虫に悩まされたくないからな」
回虫と日本人は鎌倉時代からの付き合いであった。聯合艦隊司令長官の山本五十六も回虫に悩まされていた。そのためタイムスリップ当初、葛城達は相良油田基地に貯蓄していた食糧のみしか口にしていない。(コメや麦は別)
「それとだな……農民達の収穫と麦撒きを終えたら三河に出陣をしたい」
葛城の言葉に加藤達は表情を変えた。
「……早すぎませんか?」
「いや今すぐ三河を攻略するというわけじゃない」
「と言いますと?」
「三河の兵力を削ろうと思う。遠江に侵攻しないようにな」
「成る程。徳川……元へ松平元康に我等への恐怖心を埋め込むわけですな」
近藤は納得したように頷いた。それは他の尉官達もである。
「ですが駿河はどうしますか? 今川の動向が気になりますが……」
「今川は動かんだろう。疾風達の情報によれば遠江で起こるはずの国人達の混乱が駿河で起きている」
史実では遠江の国人達が氏真に反感を持ったりして遠江が荒れたが日本軍が占領した因果のせいか駿河で混乱が起きていたのだ。
「ただ万が一の事もあるから一個歩兵中隊と一千は残しておく必要があるだろう」
「豊作でしたので約七、八千は徴兵出来ると思いますが?」
「いや、四千で良いだろう。歩兵二個中隊にチハとチロ、野砲隊を出すくらいだ」
「生産したばかりの四斤山砲を試す機会でもありますな」
「あぁ」
葛城はそう頷き、川崎大尉らが自作した焼酎を口に含む。
「うむ、美味いな」
「そうであります。何せ私が作ったわけですからな」
『ハッハッハ!!』
川崎大尉の言葉に葛城達は笑うのであった。
「それとですが隊長殿」
「何だ?」
「そろそろ正室を持たれては如何ですか?」
「……嫁か」
加藤の言葉に葛城は一瞬、脳裏に直虎の事を思い出した。
「私どもも伺いましたが中々、隊長殿と馬が合うと思います。それに我々は子孫を残さなければなりません」
「……そうだな。その方向で頼む」
「分かりました。時期は今からだと正月でしょう」
こうして葛城の正室が決定されたのであった。そして収穫と麦撒きを終えた日本軍は兵力四千八百(旧日本軍も含めて)で三河に侵攻を開始したのである。
「隊長殿、どのような戦法で?」
「俺の同期生に鹿児島の奴がいてな。よく島津の戦法を教えてくれたよ」
「島津の戦法ですか?」
加藤の言葉に葛城はニヤリと笑う。
「今の時代だと島津くらいしか知らないんじゃないかな。まぁ松平軍を徹底的に削るならこのくらいしないとな」
そして日本軍は浜名郡から侵攻を開始した。
「葛城が攻めて来ただと!? 早い、早すぎる……」
「殿、急ぎ軍勢を……」
「分かっておる。忠次!!」
「はい」
元康の言葉に酒井左衛門尉忠次が御前に出る。
「兵一千を与える。我等の本隊が来るまで持ちこたえろ!!」
「御意!!」
忠次は一千の兵を従えて吉田城に向かった。吉田城は元々忠次の居城としている城でもある。
元康自身も直ぐに兵五千を整えて出陣するのであった。一方の日本軍は何故か二川(今の東海道本線二川駅)にいた。
「直虎殿」
「は」
「直虎殿は二千の兵を率いて岩屋山に布陣してくれ。ただし隠れて旗竿等も隠してだ」
「御意」
鎧を着た直虎は葛城に頭を下げて直ぐに岩屋山へ部隊を布陣させるのである。
「……加藤、さっき言った事忘れてくれ。地形を考慮してなかった」
葛城の言葉に加藤は見えないところで溜め息を吐くのであった。
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