第六話
「泰朝様、最早これまでです!!」
「く……」
弾丸や雄叫びが聞こえる中、泰朝の家臣はそう告げた。戦況は朝比奈側としては非常に悪かった。既に朝比奈の軍勢は総崩れ状態となっており、泰朝もいつやられるか分かったものではない。
「……ただの一揆と見謝ったか。一生の不覚也!!」
「泰朝様!!」
「……掛川城に引き上げるぞ!! 一点に集中突破して血路を開くのだ!!」
泰朝は農民達の方向を見定めた。いくら農民の数が多かろうと所詮は烏合の衆なのである。しかし、それは葛城も泰朝の考えを読んでいた。
「曲射歩兵砲と歩兵二個小隊の陣地転換を急がせろ!! 奴等は農民の方から逃げるぞ!!」
「お前ら走れェ!!」
水原大尉が二個小隊を指揮して農民側に走る。とりわけ走っていた。
「おぉ日本軍じゃ!!」
「貴殿方を援護しに来た!! 軍勢の一部が此方側から包囲を破って離脱しようとしている模様です!!」
「分かりました。助かります」
「は、曲射歩兵砲用意、急げ!!」
水原大尉の言葉に歩兵が九七式曲射歩兵砲を組み立てて用意をした。
「準備良し!!」
「各砲、榴弾三発撃ェ!!」
六門から放たれた十八発の九七式榴弾は放物線を描いて離脱しようとしていた朝比奈の軍勢に直撃した。
「な、何だこれ――」
「御無事ですか泰――」
泰朝の安否を確認しようとした家臣が泰朝を視認は唖然とした。泰朝の左わき腹が榴弾の破片が当たり、握り拳程の穴が空いていた。
「……ゴフ……」
「泰朝様!?」
一瞬の間をおいて泰朝はグラリと地面に倒れた。家臣が抱き起こすが致命傷なのは誰の目から見ても明らかである。
「泰朝様!!」
「……はよぅ……はよぅ逃げぇ……」
「ですが!?」
「儂はもう持たん。はよぅ行けェ!!」
泰朝は家臣達にそう告げるが、歩兵二個小隊が射撃を開始する。
「ガハ!?」
「グァ!!」
ドライゼ銃の弾丸は確実に敵兵の命をもぎ取っていく。泰朝は薄れゆく意識の中で後悔をしていた。
「……氏真様に申し上げて……全軍でやれば良かった……」
泰朝は無念そうに告げ、あの世へと旅立ったのである。泰朝が戦死後も軍勢の混乱は止まる勢いはなかった。しかし、生き残っていた家臣達は泰朝の最後の命令で農民側から突破口を開いて離脱していた。
「朝比奈の軍勢は逃げたようです。他の国人達はまだ逃げ出せない模様です」
「朝比奈泰朝は討てなかったのか?」
「分かりませんが、恐らくは……」
「まぁ良い。ならば他の国人達は殲滅しよう」
日本軍は包囲を縮めて国人達の殲滅に掛かる。日本軍の意図に気付いた国人達は一か八かに日本軍に突撃をするが諸行無情の響きありのようにドライゼ銃の餌食になり地に降れした。
生き残ったのは六千名のうち降伏をした約百名の兵達と離脱した朝比奈の軍勢約二百のみだった。
「ドライゼ銃の具合はどうだ?」
「二個小隊ほどが撃針が損傷して交換しています」
高天神城に戻った葛城達はそう軍議をしていた。
「捕虜にした国人達の足軽は解放する」
「解放するので?」
「解放の際に書状を携えさす」
「書状を……ですか?」
中村の言葉に葛城は無言で頷いた。
「捕虜が書状を各国人達に渡して五日以内に降伏の書状、或いは直接高天神城に降伏を告げに来るのであれば所領安堵とする」
「それで宜しいのですか?」
「所領安堵の代わりに我等の命令に従えば良い。ただし、拒否すれば一族もろとも滅ぼすとな」
「揺さぶりですか」
「戦国の世は血筋が残らなければならない。この薬は効くと思うぞ」
葛城はニヤリと笑い、すぐに捕虜は書状を携えて解放された。捕虜達は直ぐに領地に戻り国人達に書状を渡したのである。
「高天神城に向かい頭を下げる」
「真ですか直虎様?」
「真も真よ。我が井伊家は滅亡寸前よ、生き残らなければならないわ」
遠江井伊谷の国人当主である井伊直虎はそう決断していた。前当主の井伊直親は下内田の戦いにて戦死し、多くの一族も討死をしていた。
この事態に直虎が井伊家の家督を継ぎ、当主の座に就いたのである。
「馬を急ぎ支度せェ!!」
直虎は急ぎ高天神城に赴いた。
「隊長殿、国人の井伊家が動きました」
「やはり薬が効きましたな」
「これで他の国人達も動くぞ」
葛城の読みは当たり、国人達から早馬が高天神城に到着し日本軍に臣従する事を約束し身内等の人質を送る事が記載されていた。
そして降伏の書状を発してから五日、遠江中の国人は日本軍に頭を下げる事にしていた。そんな折りに井伊直虎が高天神城に入城した。
「井伊直虎か……」
「女地頭と呼ばれた御方ですな」
葛城達がそう話す中、直虎が葛城の御前に入られた。
「井伊家当主、井伊直虎にございまする」
「面を上げ」
葛城は朧気に言葉を出しながら直虎にそう言う。そして面を上げた直虎に葛城は思わず呟いた。
「……綺麗だ」
「……え?」
『それが最初に発した言葉である』と加藤は後に記載している。直虎は葛城の言葉に最初は理解していなかったが、漸く気付いて赤面していた。
対する葛城も自分が発した言葉の意味を理解して顔を赤らめていた。
「……済みませぬ」
「い、いえ……」
(何だこれ……)
(お見合い……か?)
二人のやり合いに近藤達は拍子抜けした様子でそう思うのであった。それは兎も角、遠江は日本軍により攻略されたのである。
「居城は如何程にする?」
「やはり掛川城を居城にするべきではないですか? 高天神城だと些か交通の便が……」
「ふむ、とりあえず国力を高めて兵の増強だな。加藤、鍛冶衆の方はどうだ?」
「小銃はドライゼ銃の生産にしようと思います。問題は雷管ですが水銀商人を通して水銀を購入し、水銀を硝酸に溶かしエタノールと反応させて作ります」
「それは出来るのか?」
「はい、少々時間は掛かりますが出来ると思います」
「よし分かった。弾丸等の備蓄はどうだ?」
「小銃の弾丸はまだまだあります。しかし弾丸は無限ではなく有限です」
「分かっている。我々も刀や槍を装備して戦う時はくる。騎馬隊の育成もせねばならん」
葛城は昭和の武器だけで天下は取れないと確信していた。いつかは小銃も使えなくなる時がある。その時を少しでも遅らせるために既存の武器や物を使える物は何でも使う事にしたのである。
「とりあえずは街道整備も視野に入れて一つずつやろう」
葛城の言葉に尉官達は頷くのであった。
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