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第四話



「そうか、小笠原の軍勢を壊滅させたか」

「はい」


 相良油田で葛城は加藤からそう報告を受けた。


「よし、直ちに高天神城に降伏勧告を送る。中村大尉」

「はい!!」

「第二歩兵中隊を率いて出撃準備をせよ」

「分かりました!!」

「水原大尉に連絡。捕らわれた敵兵を解放して小笠原親子の首を持たせて降伏勧告させろ」

「分かりました」


 連絡の兵が直ぐに横地城に向かう。一方横地城ではある事が起きていた。


「……村長、これは一体……?」

「はい。付近の村々を集めました。儂ら一同は貴方様方に従います」


 水原大尉の面会に来た各村の村長達は水原大尉に土下座をしていた。


「いやそんな土下座をしなくても……」

「従いますので何卒皆殺しにするのは……何卒、何卒!!」

「いや歯向かえば戦いますが、歯向かわないのは私らも戦う理由はありませんよ」

「ほ、本当ですか!?」

「はい、そうです。それと死んだ敵兵の物は入りますか?」

「あ、ありがとうございます!!」


 村長達は涙を流しながら水原大尉に感謝していた。てっきり用が済めば我々も殺されるのではないかと、そして村長達は決断した。


「私どももお手伝いましょう。丁度農作業は終わってますので役に立つはずです」

「それは有りがたいですが……」

「心配は入りませぬ。たかが農民でも武士から農民になった者もいます。それに戦で稼ぎに赴く者もいますのでそれなりの力になります」

「……分かりました。共に頑張りましょう」


 これにより横地城には付近の村人約三百人が合流した。


「あ、私どもの本拠地は菅山になります」

「何と、あの地域からですか」

「えぇ。私はこの軍の大将なのであまりとやかくは言えませんがいずれ総大将にご挨拶しましょう」

「はは」


 そして小笠原親子を失った高天神城では大騒ぎとなっていた。


「今川様から援軍を出してもらうべきではないのか!?」

「そうてごまねいては奴等が此処にやって来るぞ!!」

「その時は戦えば良い」

「戦うだけで良いのか!? 奴等の種子島の射程は遥かに長いと生き残った足軽が言っておるぞ!!」


 城主亡き今、家臣達は打開策を練っていたが一つも良案は浮かんでこない。そして翌日、遂に高天神城に向かってくる軍団が発見された。


「約二百人ほどの軍勢ですが何やら面妖な動く物が……」

「面妖な動く物?」


 兵の言葉に家臣達は首を傾げておもむろに自分の目で確かめにでる。そして家臣達は唖然とする。


「馬は何を引っ張っているんだ?」

「さぁ?」


 多くの馬が三八式野砲を牽引していたのだ。なお、牽引していた三八式野砲は三門である。


「こうなれば討って出ようぞ!!」

「だが種子島にやられては元も子もないぞ!!」

「なら籠城しろも言うのか!!」


 家臣達がそう話す中、中村大尉が指揮する第二歩兵中隊は一個砲兵小隊を護衛していた。


「射撃準備急げ!!」

「もう少しです!!」

「ですが城は出てきませんな」

「我々が何をしているのか分からないのだろう。出てきても小銃の的だ」


 そして三八式野砲の射撃準備が出来た。


「用意完了!!」

「一発射撃、撃ェ!!」


 一門の三八式野砲が九四式榴弾を一発だけ発射をする。九四式榴弾は高天神城の大手門に命中して十メートルあまりの大手門が抉りとられた。


『………』


 家臣や城にいた者達は唖然としていた。今、奴等は何をしたのか?


「……氏興様達もあれにやられたのか……」


 家臣の一人が小さく呟く。小さかったがそれは全員に聞こえていた。そして破壊された城の大手門に一人の人間が現れた。


「我は日本軍第二歩兵中隊の使者也。高天神城の全員に告げる。直ちに降伏せよ、我等は無益な殺生はせぬ。繰り返す、直ちに降伏せよ!!」


 使者の言葉は直ぐに家臣達に伝えられた。


「……やむを得まいのか」

「うむ……」

「皆さん」

「奥方様!?」


 そこへ氏興の奥方が現れた。(名前不明)


「私が降伏の使者に参りましょう」

「ですが……」

「皆さんに苦労をかけるより私がする方が良いです」

「……はは」


 そして高天神城は日本軍に占領され落城したのである。


『万ァ歳!! 万ァ歳!! 万ァ歳!!』

「相良油田基地に伝令を頼む。高天神城は降伏を受諾したとな」

「分かりました」


 兵達が万歳三唱をする中、中村大尉は伝令兵にそう告げていた。





「……よし、高天神城に入城しよう」

「この基地はどうするので?」

「軍属は置いていく。元々彼等は民間人だ。一個小隊の警備隊を編成して警備しよう」


 高天神城陥落の報告を聞いた葛城はそう判断した。


「相良油田基地は最後の砦とする。本拠地は高天神城だ」


 部隊は警備の一個小隊を残して高天神城に向かい、入城した。


「中村大尉に水原大尉。御苦労だった。本来なら昇進をしてやりたいが……」

「いえ、仕方ない事です」

「そうです」

「……そうか。それで何か問題は?」

「強いて言いますと、小笠原氏興の奥方と家臣でしょう」


 葛城の問いに中村大尉はそう答えた。


「家臣の領土は安堵、奥方は小笠原親子を弔うために出家……じゃなかったか?」

「それが一番でしょう」

「ただ、遠江全体を占領したら検地を実行する。それと御前崎付近も攻略しておこう。小笠原の家臣を数名にやらせる。問題は掛川城の朝比奈泰朝だ」


 葛城は地図の掛川付近を見つめる。


「それほどの人物ですか?」

「今川氏に忠義を尽くしている。詳しい経緯は忘れたが最後までな」

「油断にならぬ人物ですか」

「防御陣地の構築を急がせよう。補給はどうだ?」

「大量にありますがやはり数に限りはあります。ですが火薬は作れますしドライゼ銃の薬莢は紙製で弾丸、雷管、火薬を一体化してますので生産は可能なはずです」

「……よく知っているな加藤?」

「大学では化学を専攻していたのである程度は分かります。それに……実家は会津でしたから」

「……そうか」


 会津は戊辰戦争の時に戦場になり、白虎隊等が有名である。


「火薬でも黒色火薬ではなく褐色火薬を作りましょう。日本でも明治の時に採用されてますから」

「……加藤はそう言った系統の責任者にさせる。異論は無いな?」


 葛城の問いに尉官全員が頷くのであった。





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