第三十話
「集まったのはこれだけですか……」
「凡そ一万六千ですが、粘れば畿内から殿達も戻ります」
虎姫は集めた一万六千の兵力を率いて久々利城に入城していた。家臣も西美濃三人衆の氏家直元、安藤守就がいた。
「申し上げます!!」
「何じゃ?」
「岐阜城から早馬が来ました!! 中村殿の軍勢が到着したようであります!!」
「おぉ、中村殿か。これは有りがたい」
「また、尾張より鉄車三両も到着しました」
鉄車とは八九式中戦車の事である。戦車隊でも八九式は旧式なので尾張で予備として備えていたのだ。
「武田の出方を伺いつつ中村と合流する」
『御意』
そして数日後に中村の第二大隊は久々利城に入城した。また途中で岐阜で第四中隊を編成中だった斎藤龍興も合流していた。
龍興は武田侵攻時に岐阜内にいたが編成中の事もありどう動くか悩んでいた。しかし、虎姫が即座に動いた事により腹は決まった。
「種子島など銃は全て集めて虎姫様と合流する」
龍興は急いで岐阜中の鉄砲を集めて中村の第二大隊と合流するのである。
「種子島は約千丁……」
「ドライゼ銃と上手く合わせれば十分な戦力になります」
「……一益」
「はは」
虎姫は伊勢から駆けつけた滝川一益に視線を向けた。
「御主、二千を率いて武田の後方へ迂回して補給路を叩きなさい」
「……成る程。武田を兵糧攻めにしつつ殿の出陣まで時間を稼ぐと?」
「いや、信玄の事よ。それは多分見破られるわ」
「……まさか短期決戦を?」
「武田を破るには中村の第二大隊を囮にして犠牲にする必要があるわ」
「分かりました。日ノ本のためになるなら我等日本軍は喜んで突撃します」
中村はニヤリと笑い虎姫に敬礼をした。そして第二大隊と第四中隊、種子島隊千人は虎姫の本隊より一足先に出陣して鶴ヶ城(守備兵五百名)に布陣、周囲に防御陣地の構築を始めた。
「鶴ヶ城に葛城の軍勢か」
「兵力は凡そ二千五百ほどかと(実際は二千七百)」
「御館様、某が参りましょうか?」
山県昌景がそう具申する。
「うむ。昌景、一万を率いて攻略してまいれ」
「御意」
昌景は一万の兵力を率いて鶴ヶ城攻略に向かう。鶴ヶ城では防御陣地の構築を終えていた。
「落とし穴の中には竹槍……色々と入れておかないとな」
「大尉殿、本隊より伝令です」
「通せ」
「申し上げます!!」
中村大尉に宛がわれた部屋に伝令が入室する。
「苦しゅうない」
「虎姫様より二日間粘れとの事です。三日後に尾張から五千の兵が到着し合戦を挑むとの事です」
「あい分かった」
「御免!!」
伝令が退室した後、中村大尉は下士官達を集める。
「二日粘る」
「靖国の庭に行くのは大勢かもしれませんな……」
「遅かれ早かれ行くのは確定しているんだ。一人でも多くの敵を倒し英霊達の元へ行こう」
そして中村は各自に一杯だけ酒を飲む事を許し準備を整えた。翌日、彼等は来た。
「武田軍、凡そ一万!!」
「距離五百で射撃開始せよ!!」
『ウワアァァァァァ!!』
武田軍の攻撃は0900から開始された。中村大尉の部隊は距離五百で射撃を開始する。
「ぎゃ!?」
「こ、この距離から当てるなど――」
飛び交うミニエー弾に武田軍の雑兵達はその命を刈り取られていく。
「数は此方が上だ。押し込め!!」
昌景は損害を気にせず突撃を敢行させた。武田軍は数に物を言わせて大手門まで辿り着いた。
「丸太だ!!」
『そーれ!!』
丸太で大手門を破壊しようとするが、葛城軍の兵が十数人が城壁から顔を出した。
「投げろ!!」
投擲されたのは酒を入れる徳利だったがその中身の液体は相良油田で産出されたガソリンである。徳利は侵攻してきた雑兵達付近の地面に落ちた。落ちた場所で徳利が割れ中身のガソリンが周りに散らばり、それに栓に点けた火が引火することにより、その落ちた付近にいた武田軍の雑兵達は瞬く間に炎に包まれた。
「な、何!?」
「ヒイィィィ!!」
「熱い熱い熱い!!」
「助けてくれ!!」
ガソリンの炎に包まれた雑兵達は祭りの踊りを踊るように逃げ惑うがやがて一人、また一人と地面に倒れていく。
「おのれ葛城め!! 恐ろしい事をしよるわ!!」
事情を聞いた昌景は激怒するが葛城軍からしてみれば何処へ吹く風である。彼等にしてみれば生き残るために戦うのだから当たり前である。
その間も徳利が次々と投げ込まれ雑兵達が死の踊りを踊っていく。そして昼時、昌景は攻撃を中止させた。
「戦死者凡そ二千!!」
「二千だと!? 死傷者二千の間違いではないのか!!」
「は、某もそうと思い確認しましたが……戦死者凡そ二千、負傷者凡そ二千でありもうす!!」
「……おのれぇ葛城め!!」
激怒する昌景だったが、そこへ信玄の本隊が到着した。
「御館様!!」
「戦況は聞いた昌景」
「は、申し訳ありませぬ」
「なってしまったものは仕方あるまい。再度編成を整えて攻撃を開始する!!」
信玄は三万の大軍で攻勢に移った。鶴ヶ城の攻防戦は二日目に入り佳境だった。
「大尉殿、大手門がもうすぐで破られます!!」
「二個小隊は射撃準備をしろ」
大手門が丸太で破壊される寸前、二個小隊が大手門から百メートル先に構築した防護柵(丸太を並べた簡易陣地)にて射撃準備をしていた。
「大手門が破られるぞ!!」
その言葉と共に大手門が丸太に破壊されて雑兵が雪崩れ込んだ。
「武田家家臣――」
一番乗りを名乗ろうとした侍大将だがドライゼ銃の射撃で蜂の巣にされて果てた。
「これでは我々は狙い撃ちされるぞ!!」
その言葉通りに一個中隊(更に増援が来た)は弾幕射撃で大手門付近を武田軍の躯を築き上げた。
「城に火矢を放て!! 弓隊は足軽を援護せよ!!」
弓隊が鶴ヶ城に火を放つが中村隊は冷静に対処した。
「落ち着いて消火せよ!! B公の空襲より遥かにマシだ!!」
確かに彼等は空襲を経験していた。だが大隊は現地雇用の兵もいるので動揺は避けられない。大手門付近の戦闘も中村隊が有利だったが頭上から注がれる矢の雨にまた一人、また一人と倒れていく。
「グォ!?」
「柿崎!! 衛生兵ェ!!」
負傷する兵を衛生兵が後送していく。そして攻防戦の二日目も武田軍は鶴ヶ城を落とせなかった。
「夜襲を敢行するか」
「いえ、恐らくは効果はありませんかと」
「ぬぅ……それにしても恐ろしい数の種子島よ。葛城は余程の種子島を生産していると見える」
「まことに手強い相手ですな……」
信玄は昌景達とそう話すのであった。そして三日目、鶴ヶ城に攻勢をかけようとする武田軍だったがそうは問屋がおろさなかった。
「葛城軍凡そ二万が此方に参ります!!」
「ぬゥ!! 小城に時間を掛けすぎたか!!」
信玄の采配は後手に回っていた。葛城軍は八九式中戦車三両を先頭にしていた。
「目指すは武田信玄の首ただ一つ!! それ以外は捨て置け!!」
『ウワアァァァァァ!!』
葛城軍は虎姫の号令の元、一斉に攻撃を始めたのであった。
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