第二十七話
京へ上洛した葛城だったが、それを拒む者達がいる。それは三好である。
「畿内の支配者は我々だ!!」
「おのれ久秀め、裏切りおって!!」
三好を裏切り、葛城に頭を下げた松永に三好三人衆は激怒しつつも葛城の出方を探った。しかし、彼の長であるはずの三好義継は久秀の手引きにより三人衆から離れて葛城に降伏した。
「河内北半国と若江城の所領は安堵とするが、後に国替えで移動してもらう」
「それはどちらにでございまするか?」
「三好氏は本来阿波国の出身と聞く。阿波、讃岐に加え四国全土を三好とする」
「し、四国全土をですか!?」
「何か不満でもあるのか?」
「い、いえ有りませぬ(こ、これは棚から牡丹餅かもしれぬ……)」
義継はそのように思っているのであった。それは兎も角、義継にも逃げられた三人衆は筒井順慶と手を結び葛城に対抗しようとした。
「三好三人衆の支援に堺の会合衆も付いたようですね」
「それは仕方ないだろうな。それで数正、首尾は如何に?」
葛城は数正に視線を向ける。
「は、雑賀衆は残念ながら見向きも致しませんでしたが根来衆は此方に付きました」
「やはり本願寺に付くか……」
「は、雑賀衆は本願寺との関係も深かったですので……」
「まぁ良い。根来衆でも付いただけでも御の字だ。それでは数正に恩賞として三河をやろう」
「!? そ、某を国持ちになれと……」
「うむ。難しい交渉をしてくれた礼だ」
「あ、有り難き幸せ……!!」
「これからも頼むぞ(三河者は頑固者が多いからそれを知る数正は適材適所だな)」
涙を流す数正だったが葛城は内心、そう思っていた。
「さて、問題は三好三人衆ですね。一応京周辺からは追いやってはいますが本拠地の阿波で勢力を建て直しているでしょう」
「久秀は信貴山城で筒井順慶と大和を巡り合ってるしな。先に大和を片付けてはどうだ?」
「大和となるとやはり鍵を握るのは興福寺でしょう」
「殿」
「どうした半兵衛?」
「興福寺には朝廷から御墨付きの領地を与えて此方に引き込むのは如何でしょうか?」
半兵衛はそう提案する。
「ふむ……どれくらいだ?」
「最初は一万石、最終的には二万石を与えては如何ですか?」
「うむ……正信」
「はは」
「興福寺と交渉してくれるか?」
「御意。某にお任せ下さい」
「それと……」
「ふむ……」
半兵衛は更に案を出し、正信は頭を下げて興福寺の代表と極秘に接触を行う。
「して……我等とは何をやりたいので?」
「……大和国は葛城家が抑えます」
「ほぅ……」
「興福寺はそれに協力してもらいたいのです」
「……我等に利は?」
「これを」
正信は書状を僧に渡した。僧はそれを受け取り、内容を一目すると目が見開いた。
「これは……!?」
「葛城家からの朱印状です。それに葛城家の朱印状を認める関白近衛前嗣公の書状もあります」
正信は僧に葛城家の朱印状と近衛公の書状を渡す。葛城家の朱印状には興福寺に一万石の安堵が書かれていた。
「信用ならぬのであれば右大臣花山院家輔、左大臣西園寺公朝の書状もあります」
「これは……」
書状を持つ僧の手が震えていた。いくら今では力が無い朝廷でもその権威は未だ衰えてはいなかった。
「また、大和国が無事に葛城家の物となれば感謝の証として倍の一万二千石を増やします」
「……分かりました。直ぐに話し合いましょう」
「良い返事を期待しています」
正信はにこやかに答えた。そして興福寺は葛城家に協力する事になる。
「興福寺は此方の味方に付けた。久秀」
「はは」
「大和に葛城の援軍を送る」
「感謝致します」
「大将は織田信広、副将織田信興、軍師は半兵衛とし一万五千を大和に送る」
「御意」
「それと大和を無事に攻略したら久秀、大和は御主にやろう」
「……有り難き幸せ(うつけか大物か……やはり)」
頭を下げる久秀は内心、そのように考えていた。そして部隊は大和攻略に向かう。その間の京の守りは二万の兵力でするが、その情報が三好三人衆に届いてしまう。
「大軍で押し寄せれば勝てる。それに松永が大和で孤立するぞ」
「うむ、京に進軍すべきだろう」
「畿内を三好の手に戻すぞ!!」
三好三人衆はそう意気込んで葛城より多い四万の兵力を集めて山崎に進軍した。
「……半兵衛の読み通りだな」
「そのようですな。向こうの知恵も浅はかではありますが」
葛城は二万の軍を率いて出陣していた。上洛に当たり戦車隊はいなかったが、野砲隊はいるのでまずまずの心配はなかった。
「作戦はどのように?」
「……島津の釣り野伏せとするか。三好の戦力は出来るだけ根こそぎに刈り取らないとな」
「信長包囲網は四面楚歌ですからね……」
加藤はそう呟いた。信長包囲網を作る義秋はまだ朝倉家の越前にいたが何の気配もない。
「ある意味不気味だが……まぁ良い」
「今は前の敵に集中しましょう」
そして三好三人衆と葛城は山崎で激突した。後に山崎の戦いと呼ばれる戦いである。両軍の戦闘は序盤は三好軍が押していた。葛城は士気向上のため前線に訪れたが、そこへ三好側が放った矢が葛城に命中して負傷、後退してしまう。
「御大将負傷!! 御大将負傷!!」
伝令の報告に足軽達は士気低下して逃げ出す者が続出してしまう。
「やむを得ません、後退しましょう」
臨時に指揮を取る加藤は後退を指示して部隊が後退する。それを見た三好軍が更に追撃をしてきた。
「予想通り獲物が食い付いたな」
「ではやりましょうか」
日本軍が十分後退した時、草むらから三好側は銃撃された。
「何!? 待ち伏せか!!」
「撃ェ!!」
左右に伏せていた二個大隊が一斉に射撃を開始して三好軍の足軽を薙ぎ倒していく。更に後退していた部隊が反転して付近に待機していた野砲隊と合流して野砲隊が砲撃を開始する。
「な、何だあの物体――」
着弾して転がりながら足軽を薙ぎ倒す実体弾を初めて見る三好軍は完全に混乱していた。
「忠勝、止めを刺せ」
「御意」
混乱する三好軍に戦国最強とまで言われた本多忠勝隊が止めを刺すばかりに突撃を開始した。
「おのれ葛城め!! 奴は一体何をしたんだ!!」
三人衆は最後まで分からないまま撤退をするが、追撃される道中で岩成友通が信包隊に討たれてしまい、生き残ったのは負傷者を含めて一万三千であった。友通を討たれた三好軍は本拠地阿波まで撤退する事にしたのであった。
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