閑話 葛城家内政
美濃を手に入れた日本軍。色々と表(第二十話)でやりつつあるが、内政にも力を入れていた。
「そう固くなるな野中曹長」
「は、はぁ……」
改名した岐阜城での評定。評定には尉官クラスと半兵衛、正信等の雇用組で行われるが、そこには一人の下士官がいた。
それが野中賢治曹長である。彼の実家は古くからの名主であり、彼自身も実家の手伝いで田植えや畑の仕事をしていた。
他にも農家出身の者は多数いたが、たまたま階級が高かったのは野中曹長だった。
「農民の田んぼの事なんだが、我々の階級の中では農家の事を知るのは貴官くらいなのだ」
「はぁ、農家出身では自分の階級が一番高いでありますが……」
「そこで農業方面は君に任したい」
「じ、自分でありますか?」
「うむ」
野中は驚きの表情をしながら葛城を見る。
「分かりました。やれる限りの事をしましょう。ただ新田開発とかは数年単位で掛かります」
「新田開発は仕方ないよ。それは俺も分かっている」
そして野中は農業担当になり早速仕事を始めて岐阜城近郊の村に移動して農民達を集めた。
「田は均等に整備して下さい」
「均等にってどういう事だ?」
「均等にです。とりあえず田を検地しますね」
野中は葛城から宛がわれた家臣を使い検地を決行する。
「ふむ……門左衛門さんのが一反に近いな。門左衛門さんの田を少し整備する」
「わ、儂の田をどうする気で……?」
「コメの収穫を均等にするためですよ。何もしませんので安心して下さい」
おろおろする田んぼの所有者の門左衛門に野中はそう説得して門左衛門の田んぼを長方形――1反――にした。
「とりあえず一つの田は一反で統一します」
「全ての田を整備するのですか?」
「はい。その方が収穫も均等になり争いも起こらないでしょう」
「成る程」
野中の言葉に家臣は納得した表情で頷く。単位も史実の太閤検地を元にしていた。これにより田んぼも元から曲がっていたり小さい田んぼは全て見直されていくのである――と限らない。
「あのぅお侍様、やはり田は代々続いてきた田です。他の者も反感があると思いますが……」
田を整備しようとした時に村長は恐る恐ると野中に告げる。村長の後ろには納得がいかない農民達がいた。
「(一揆は困るからなぁ)分かりました。なら一反の田は新田開発でやりましょう。勿論貴方方の負担は重くなるのは承知してますので年貢は軽くします」
「宜しいのですか?」
「田というのは一朝一夕で出来る物じゃないからな。隊長殿からは許可を貰っている」
野中は村まで案内してくれた国人に言う。
「国人や地侍は地域の長として雇用する」
「某らをですか?」
「うむ。勿論報酬は出す」
野中は国人や地侍を地域の長(役人に近い)として雇い領主でないことにした。
「鍬も備中鍬に、千歯扱きも作ろうか」
「何ですかそれは?」
「千歯扱きは収穫の時に役に立つが……とりあえずは備中鍬を作るか」
野中は新たに鍛冶師に頼んで備中鍬を製造してもらう。
「曹長殿、出来ましたか」
「うむ。中々の具合だ」
同じ農家出身の兵とそう語りながら出来たばかりの備中鍬を触る野中。
「とりあえず百個を製造してもらった。後は徐々に普及させていくしかないな」
「そうですな」
野中達は備中鍬の説明を農民達にして実際にやらせていく。
「ほぅ、こりゃ良い鍬だ」
「深々と掘れるぞ」
農民達は嬉しそうに備中鍬を使い地面を掘っていく。農民達の様子を見て野中達もホッとした表情を見せた。
「普及はするだろうな」
「してくれませんと唐箕とか普及出来ませんからね」
そして収穫の秋、彼等は生産した千歯扱きや唐箕を持って村を訪れた。
「これで楽に籾と藁に分けれるのかい?」
「あぁ」
「それじゃあ……」
農民達は千歯扱きに稲穂が歯の先に差し込み、自分の方に強く引いて籾と藁を分けた。
「こ、こりゃあたまげた!?」
「こきばしを使わなくて済むぞ!!」
「便利な物だ」
農民達はあっという間に籾と藁を千歯扱きで分けていくのであった。
「野中様、こりゃあ大した物ですぞ」
「それは良かったよ村長」
後にこの村は野中の功績に敬意を表して野中村と改名、現代にまで続く地名となるのであった。
田の整備を始め、備中鍬や千歯扱きの生産は直ぐに葛城の元に届く。
「御苦労だったな野中」
「は、ありがとうございます」
葛城の言葉に野中が頭を下げる。
「どうでしょう隊長殿、この際野中達は除隊して農民方面に専念してもらうのは?」
加藤はそう具申した。
「ふむ、野中はどうだ? 嫌なら誰かにしてもらうが……」
「いえ、除隊は結構です。兼任で構いません、除隊すると銃を撃つ感覚が鈍くなります」
野中の言葉に葛城達は苦笑する。そして野中は農民達から親しまれるのである。
「次は三河に木綿を作らせようか」
「それ良いですね」
「新規雇用か」
「はい、美濃は人材が豊富ですからね」
「分かった。雇用の件は地元の半兵衛にも相談してやろうか」
美濃を手に入れた日本軍だが人材が不足していた。そのため人材を募集したのである。
「読み書きが出来れば御の字でしょうね……」
「ですな……」
半兵衛とそのように話していた加藤だった。人材を募集してから二日後、ある人物が岐阜城に赴いた。
「木下秀長でございます」
「(これはまた……)加藤です。木下殿は尾張の出身と聞きますが何故美濃に?」
「兄が美濃の土豪川並衆を抱えていましたが、葛城殿の戦で討死しまして……」
「それは何とも……」
「弟の某が生き残りの者達を抱えましたがやはり生活に苦しいので思いきって葛城家に任官しようと思いました」
「ふむ……(半兵衛殿は如何なされます?)」
(情けで雇用しません。が、加藤殿なら事情は分かるかと……)
(実はこの方、本来なら天下統一をする男の弟なのです)
(……となると先程討死したと言っていた者が天下統一をすると?)
(えぇまぁ。確かこの者は優秀で天下統一に大きく貢献したと言われています)
(成る程……それなら加藤殿にお任せします)
「(分かりました)事情は分かりました木下殿。任官を認めます」
「あ、ありがとうございます!!」
加藤の言葉に秀長は涙を流しながら頭を下げる。まさか任官出来るとは思ってなかったのだ。
秀長は加藤に仕え、加藤の補佐をするのである。後にこの人材雇用は続けられ、通称の才蔵で有名な笹の才蔵こと可児吉長や築城技術に長けた藤堂高虎が任官される事になる。
「用意……撃て!!」
岐阜城の訓練場にて二人の女性がドライゼ銃の射撃訓練をしていた。
「虎姉様、真ん中に当たりました!!」
「うむ、大分上達したわね摩耶」
二人の女性は葛城の正室である虎姫と側室の摩耶姫であった。
「……なぁ水原」
「何ですか隊長殿?」
「……何で俺の嫁は血の気が多いんだろうな……」
「………」
傍らにいる水原は葛城の言葉に無言だった。虎姫に関しては何も言う事はない。当主が討死した事もあるし女当主としていたのだ。
まさか貴族の娘がこうなるとは思ってもみなかったのだ。
「虎姉様、次は野砲とやらを撃ってみたいですね!!」
「そうね、将和様に相談してみましょうか」
二人の言葉に葛城は何とも言えない溜め息を吐くのであった。
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