第二十一話
稲刈りが終わった十一月、日本軍は三万五千の大軍で伊勢に侵攻を開始した。予め十月に書状で「降伏するかそれとも城で死ぬか?」と降伏勧告を送ったが伊勢を支配する北畠は書状を無視して桑名城等の防御を固めた。
「降伏勧告は無視。なら討ち滅ぼすのみだ」
評定で葛城はそう言って伊勢侵攻を決定したのである。勿論後ろの備えは万全にしていた。浅井勢の侵攻を阻止するために大垣城には丹羽長秀と西美濃三人衆の一人である氏家直元で八千の兵力があった。
その抑えを付けてからの伊勢侵攻である。
「長島城は迂回する。一向宗には寺内町の領有を認める」
「今はその方が良いでしょう。今の段階で本願寺を叩くのは早すぎます」
葛城は寺内町領有を認める書状を認めて桑名郡の願証寺住持証意に送った。
「……葛城は寺内町の領有を認める……か(今の葛城には逆らえん。地に伏せていよう)。あい分かった」
証意は承諾して伊勢の一向宗は葛城に逆らう事はしなかった。葛城は三万五千の大軍で桑名へ進軍し楠城への攻撃を開始した。
「曲射固定砲、撃ェ!!」
青銅製の固定式曲射歩兵砲が鉄弾を発射して山なりの放物線を描いて城に着弾していく。長四斤山砲も砲撃を開始して大手門や城壁を破壊した。
「楠城に降伏勧告だ。今降伏すれば全員の命を助けるとな」
楠正具は最早これまでと思い葛城に降伏するのであった。
楠城は僅か数時間で陥落するのであった。なお葛城はその前にも保々西城をも攻略していた。葛城は更に軍を二つに分けて高岡城と神戸城への攻撃も始めた。
「何!? 葛城の軍勢が此方に向かって来るじゃと!!」
家臣からの報告に神戸城の城主である神戸具盛はいよいよ来たかという表情をした。
「いくら大軍で来ようとも神戸城は落とさせんぞ!!」
そう意気込む具盛であったが、神戸城を包囲された後に開始された攻撃に驚くのであった。
「な、何だあれは!?」
「わ、分かりませぬ」
具盛の問いに家臣達も分からない様子だった。日本軍は先の楠城と同様に砲撃からの城攻めを開始していた。
「撃ェ!!」
長四斤山砲が鉄弾を発射して固く閉ざされたはずの大手門に穴を開けた。再度砲撃して門を破壊、足軽達が三の丸に雪崩れ込んでいた。
「行けェ!! 目指すは本丸だ!!」
葛城の赤母衣衆の筆頭である前田犬千代は槍を振り回しつつ敵兵を退けさせた。犬千代は一益の取り成しにより葛城の赤母衣衆の筆頭となっていた。
犬千代は史実通りの槍の又左の異名で敵兵を恐れさせた。犬千代の活躍もあり三の丸はあっという間に占拠し馬場、西大手も占拠して二の丸に攻撃を始めた。
「具盛様、二の丸への攻撃が激しくこのままでは……」
「……そうか」
背中に矢が突き刺さっている家臣からの報告に具盛はゆっくりと頷いた。
「……葛城に使者を出せ。降伏致す」
「……はは」
具盛の言葉に家臣達は涙を流すのであった。神戸具盛の降伏に葛城も降伏を了承、具盛達の身柄は楠城に送られるのであった。同じく高岡城も陥落した。史実では信長の攻撃にも耐えた事がある高岡城だったが、近代兵器を使用する日本軍の攻撃には耐えられなかった。神戸城が陥落した事を中村大尉が使者を出して伝えると神戸氏の宿老山路弾正は降伏を決意して高岡城も降伏したのである。
また、采女城も両城が陥落した事により葛城に降伏した。
「采女城の陥落は予想外でしたが、幸先は良いと思います」
「うむ。だが此処は敵地だ。常に警戒して油断をしてはならん」
気が緩む兵達に葛城は改めて厳命した。
『勝って兜の緒を締めよ』かつて日露戦争終結後の聨合艦隊解散式において東郷平八郎が発言した言葉である。葛城はそれに例えたのである。
「気を緩めていいのは家に帰ってからだ」
葛城はそう締め括った。そして葛城は軍を三つに分けた。一つは葛城の主力一万五千、中村大尉を指揮官とした一万五千(補佐に半兵衛と信広)、残り五千は九鬼嘉隆である。
「某に軍を分けて下さるのですか?」
「御主は志摩国の出身だと聞く」
「は、某は志摩の出身でござるが……」
「御主は水軍を率いて志摩国に上陸し、志摩国を攻略せよ。そして北畠の後方を撹乱させるのだ」
「某にでござるか?」
「そうだ。志摩の地形は分かるであろう。それと伊勢攻略後の志摩国は御主にやる」
「ま、真でござるか?」
「おぅ。志摩国の大名九鬼嘉隆になってもらう」
「……はは!!」
九鬼は感激して頭を下げた。日本軍は二日の休息を取ると葛城の主力は安濃城に向かい、中村大尉は木造城に向かった。
「降伏勧告だ」
「分かりました」
二隊とも降伏勧告の書状を出したが両城とも降伏を拒否、その後の攻撃は言わずもがな。安濃城は本丸を残した時に城主長野藤敦は降伏してきた。
逆に木造城はそうではなく、木造具政は徹底抗戦を表明して日本軍に一矢報いようとした。しかし、固定式曲射歩兵砲、長四斤山砲、ドライゼ銃の徹底した攻撃で木造城は陥落した。木造具政は生き残った家臣達と切腹して果てるのであった。
「木造城は徹底抗戦の末に陥落か。まぁ抗戦する者はいるだろうな」
「残るは阿坂城のみです。此処を攻略すれば大河内城は大手が掛かるでしょう」
「うむ」
しかし、それに横槍を入れる者がいた。
「何? 関白様が参られたと?」
関白近衛前久が突然葛城の元に来たのである。
「今頃の大河内城には朝廷の使者が参ってるでおじゃる」
「朝廷の使者が……?」
同じ頃、大河内城では朝廷の使者が来ていた。
「……これは真ですか?」
「左様。北畠は京に上り公家になられよ。これは畏きところも承諾済み也」
北畠具教の言葉に朝廷の使者はそう言った。
「ですが我々は今、葛城と交戦中であり……」
「心配御無用。葛城の元に関白様が参られておじゃる」
「関白様が……」
「畏きところは長年に渡って仕えた氏族を滅ぼすのは惜しいと考え、我々を寄越した次第でおじゃる」
「畏きところ……」
「異存はありませんな? よもや畏きところの命を北畠家が無視するなど」
「い、いえ異存など有りませぬ」
「それは結構」
こうして北畠は京へ戻る事になり、伊勢は葛城が治める事になる。
「……これは中々、貴族も廃れてはおりませぬな」
「ほっほっほ。御主の寄進に妾が答えたまでの事でおじゃる」
北畠具教達が去った大河内城に入城した葛城と近衛前久はそう話していた。
「ならまた寄進致しましょう」
「これはこれは……それとでおじゃるが葛城殿」
「何でしょうか?」
「……貴族の娘を嫁に迎えぬかや?」
「……え……?」
前久の言葉に唖然とする葛城だった。
御意見や御感想などお待ちしています




