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第二話




「何? 無線が故障だと?」

「いえ、無線は正常に動いているんですが繋がらないんです」

「敵の妨害か?」

「それは何とも……」

「……嫌な予感がするな」

「隊長殿!!」

「どうした?」

「付近に偵察に出した者からの報告なんですが……」

「何だ?」

「……昔の農民や農家があるばかりで他には何もないとの事です」

「……はい?」


 一等兵の報告に葛城は目が点となる。それは司令部にいた全員もそうだった。


「……学生」

「はい」

「直ぐに尉官を全員集めろ。十五分以内だ、それと欠員がいないか点呼してから来いと」

「は!!」


 加藤はそう言って駆け足で司令部を出た。


「隊長殿……一体何がどうなっているのですか?」

「……俺も分からんよ」

「それとこれが報告書です」


 通信兵の言葉に葛城は力なくそう答えた。それから十五分後に尉官クラスが司令部に集まった。


「隊長殿。何事ですか?」

「……緊急事態だ」

「まさか米軍が本土上陸を始めたのですか?」


 戦車連隊隊長の近藤大尉はそう返したが葛城は首を横に振る。


「それ以上の問題だ。現時点で我が相良油田守備隊は外部と全く連絡が取れない状況だ」

「何と……」

「無線の故障ではないのですか?」


 葛城の言葉に砲兵隊隊長の松田大尉はそう葛城に告げるが葛城はまたも首を横に振る。


「いや、無線の故障ではない。無線の故障だったら君達を呼んだりしない」

「では……?」

「……実はな――」


 葛城はそう言って全てを話した。


「……奇想天外とはこの事ですな」

「いや、まだそう決めつけるわけにはいかないぞ」


 尉官達はそう話していた。話の内容は何なのか? それは大まかに説明すると――1、付近の民家は何故か江戸時代(仮定)のような家々が建っており農作業をしていた。2、農作業の人間は何故か農民のような格好を、男の髪形は月代さかやきをしていた。3、あえて踏み込んで聞き込みをすると今は永禄三年で此処は遠江国だとの事。


「……隊長殿、我々は神隠しにでも遭遇したのではないですか?」

「冗談はよせ学生」

「では近藤大尉殿。ならばこの報告書は何なんでしょうか?」

「………」


 加藤の言葉に近藤は口をつぐんだ。普通なら「上官に逆らったな!!」と言って私刑でもしているが、今の状況は明らかにおかしかったのだ。


「……この中で歴史に精通している者はいるか?」


 不意に葛城はそう尉官達に問う。尉官達は顔を見合わせたりしたが、やがて数人の尉官が手をあげた。


「俺もある程度の歴史には精通している。永禄三年は西暦で言えば1560年だ」

『―――!?』


 葛城の言葉に歴史にあまり精通していない者でもある程度は察した。


「……桶狭間の戦いが起こる年だ」

「まさか……」

「なら松田大尉、君は直ぐに小隊単位で付近を偵察してくれ。近藤大尉もだ、時間は二時間」

「……分かりました」

「以上で終わりだ。解散」


 葛城はそう言って会議を終了させた。そして松田大尉と近藤大尉は小隊規模の偵察に出掛けた。


「……神隠し……か」

「隊長殿は何をするつもりですか?」

「ん? まぁあれだな」


 加藤の言葉に葛城は椅子から立ち上がり壁に付けられている日本の地図に視線を向ける。


「……未来についてかな」


 葛城はそう呟いた。そして二時間後に近藤と松田の偵察隊が帰還した。


「それで……どうだったかね?」

「……明らかに昭和と風景が違います」

「隊長殿、我々は神隠しにあったのでしょうか?」


 再度集まった尉官達の前で二人はそう報告をした。


「……三日だ」

「はい?」

「三日間、情報収集しつつ時を待つ」

「時を……ですか?」

「今の状況が幻かもしれん。気付いたらいつも通りになっているかもな」

「狸が我々を化かしていると?」

「とりあえずそうしておこう。三日間だ」


 葛城はそう言った。しかし、三日経っても変化はなかった。


「隊長殿……」

「皆、聞け」


 近藤の言葉に葛城はゆっくりと立ち上がる。尉官達の視線が葛城に突き刺さる。


「……我々はどうやら本当に時代を、時を越えて戦国の世に来たようだ」

『………』


 葛城の言葉に尉官達は何も言わなかった。皆、精神が壊れている事はない。だが信じられなかった。


「……諸君。俺はな、あまり神様とやらは信じない事にしてるんだ。けど、この事態を見ると八百万の神々は実在していたのかもしれんな」

「と言うと?」

「……歴史をやり直せという意味かもしれん」

「どういう事ですか?」

「分からんか松田大尉? 八百万の神々があの歴史にさせないために我等に時を越えさせた……のかもしれない」

「……俄に信じがたいですが……実際にこの地にいますからな」


 葛城の言葉に近藤はそう返した。


「では隊長殿はどうなさるつもりですか?」

「我々には三つの選択肢がある。一つ、帰れるまでこの地にいる。二つ、全員自決して靖国に行く。三つ、天下を取る」

「……天下の理由は何ですか?」

「あの昭和の日本にさせないためだ」

「……なら我々は隊長の元にいた方が良いですな。自分もあの歴史を繰り返すのはごめんです」


 近藤はそう言う。葛城は松田達にも視線を向けるが松田達も覚悟を決めた表情をしていた。


「……決まりだな。我々は天下を取る。手始めに遠江国の国取りだ」


 葛城の言葉に近藤大尉はそうニヤリと笑った。


「そうなると兵達には全てを話さなければなりませんな。既に噂が飛び交っています」

「うむ、そこは俺がやろう。全員を集めてくれ」


 そして基地の広場に全員が集められた。歩兵、砲兵一個大隊等がいるため約千五百名近くはいる。


「諸君、守備隊隊長の葛城だ。何人かの者は薄々と感づいているだろう。我々はどうやら八百万の神々の意思により神隠しされてしまった」


 葛城の言葉に兵達はざわめき、視線を同僚達に向ける。そのざわめきは暫く続いたが葛城が手をあげて止めさせた。


「我々は三日、三日間待ってみた。狸が我々を化かして悪戯をしているのだろう、そう思った。だが現実はこの通りだ。諸君、付近の情報を考慮して我々は戦国の世、遠江国に来ている。我々の生還は絶望的と思ってほしい」


 その言葉に再びざわめきが起きる。


「諸君、君らがどうしようかは君達の判断に任せる。何せ我々に指示を出す上官は無に等しい。だが……だが諸君、諸君らに日本を守りたいという意思があるなら私らに来ないかね? 私達はこれより戦国の世を統一するために天下を取る」


 天下という言葉に兵達は目を見開ける。


「諸君、我々が此処で朽ち果てても何れは徳川が太平の世にする。だが、それだと歴史を繰り返してしまう。諸君、それで良いのか? 戦争に突き進む道だ。敵の新型爆撃機が帝都を始め日本の各地に爆弾を落としていく……それで良いのか諸君!! 三月には東京で大規模空襲があったばかりだ。諸君らも知っていよう!!」


 いつしかざわめきは無くなり兵達は葛城を真剣な表情で見ていた。


「私はこの地に来て確信した!! 我々が此処に来たのは八百万の神々があの日本にさせないためにするために我々を此処に来させたのだ!! 諸君、我々は最早ただの日本軍ではない!! 諸君らには家族、友、妻がいた。その人達をあの歴史に歩ませないためにも、此処で我々が立ち上がらねばならないのだ!!」

『ウオォォォォォーーーッ!!』

「我々は八百万の神々に選ばれたのだ!! あの歴史を繰り返すわけにはいかないのだ!! 諸君、我々は未来の日本のために戦わなければならないのだ!! そして戦い抜いた後は胸を張って靖国で会おうではないか!!」

『ウオォォォォォーーーッ!!』

「では往こう。全ては諸君らの働きにかかっている!! 陸軍にはないが海軍の言葉を借りるならまさにこの言葉だ。『皇国の興廃此の一戦に在り、各員一層奮励努力せよ』である!!」

『ウワアァァァァァァーーーッ!!』


 その瞬間、兵達の感情は爆発した。彼等は決断したのだ。全ては未来の日本の運命を避けるために。


「では総員戦闘配置につけ!! まずは遠江国を攻略だ!!」

「三宅隊長に敬礼!!」


 全員が葛城に敬礼をした。そして彼等は国取りの準備を始めるのであった。





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