第十九話
それから葛城は約二年程は動く気配を見せなかった。北畠や斎藤は動かない葛城を不審に思い調べたが内政をしている事が判明した。
北畠は来ないならと攻める動きはしなかったが斎藤は約一万の軍勢で小牧山城に攻め込んだ。しかし、葛城の未来の武器により大敗を喫し約半数の兵を失ったのである。この小牧山城を巡る戦いは二度に渡って行われた。
なお、この二度の戦いで葛城の正室である虎姫が参戦して斎藤方の佐藤忠能、岸信周の首級をあげるという快挙を成し遂げた。
諸国は虎姫を畏怖して源平合戦の時の巴御前に例えて「戦国の巴御前」「虎御前」「八幡太郎虎姫」等と呼ばれるようになる。
「嫁さんが強いとか……」
「強い子が育つと思いますよ」
帰蝶に耳掻きをしてもらいながらそう呟く葛城だった。なお、子作りに関しては虎姫は一男一女(三人目妊娠中)、帰蝶一男(二人目妊娠中)、市姫一女(二人目妊娠中)とい具合だった。
加藤にその事を話すと「頑張り過ぎです隊長殿」と呆れた様子だった。
それは兎も角、斎藤側もそれ以降は尾張に侵攻せずに葛城の様子を伺っていた。だが1563年二月、美濃でとある事が起きた。
「隊長殿、河野大尉より連絡です。稲葉山城が竹中重治、安藤守就らによって占拠されました」
「……史実より一年早いな」
「我らがいるという予想外があるのかもしれません」
「まぁ良い。河野大尉に連絡しろ、直ぐに作戦開始だ!!」
葛城の命令は直ぐに河野大尉達に伝えられた。河野大尉達二百名は夜半に稲葉山城を取り囲んだ。
「……よし、行くぞ」
「お任せ下され」
河野大尉の言葉に森や河尻が頷いて二百名による稲葉山城への強襲突撃を敢行した。
「突撃ィ!!」
『ウワアァァァァァーーーッ!!』
河野大尉の号令と共に一斉に突撃を開始する森達。大手門をあっという間に突破して本丸等を占拠するのであった。勿論、竹中重治や安藤守就達は捕縛してである。
「……何者ですか?」
「葛城家だ。竹中重治殿ですな?」
「……成る程。葛城家なら私の事もご存知でしたか」
「今孔明と言われた貴方に言われると葛城家も大きくなったものだな」
竹中の言葉に河野大尉は感心するようにそう言った。そして三日後に葛城は五千の軍勢を持って稲葉山城に入城した。
「竹中殿、我等に力を貸して下さらぬか? 我々は一日でも早くに天下統一を成し遂げねばならない」
「……その根拠は何でしょうか?」
「……それは我々の事を全て話さなければならない」
「承りましょう」
そして葛城達は半兵衛や守就に全てを話す。守就はホラ吹きだと思ったが葛城達はチハやチロ、ドライゼ銃等を見せた。
「ふむ……守就殿、私はこの者どもを信用してみたいと思います」
「真か半兵衛?」
半兵衛の舅である守就は驚いた表情を見せた。
「葛城殿達は美濃を攻める機会はいくらでもありました。ですが彼等は我々の行動を予測しての美濃取りです。私でもこれは完敗です」
半兵衛は苦笑した。確かにテストだとカンニング行為に近いだろう。だが半兵衛はそれを許した。
「それに我々が稲葉山城を取ったとしても葛城家の動きを予見していませんでした」
「……そうか、なら儂も葛城殿に降ろう」
そして半兵衛と守就は葛城家に降った。後に半兵衛は本多正信、加藤、黒田官兵衛と共に知の四天王と言われるのであった。
さて、葛城家に降った二人は西美濃三人衆の残りの二人である稲葉良通と氏家直元の調略を始めた。難しいかと思われた調略もすんなりと上手くいき二人はあっさりと稲葉山城に入城して葛城に頭を下げた。
「半兵衛が頭を下げた人物なのだから相当な人物であろう」との事であった。それに龍興の代になってから三人衆は遠ざけられていたので、龍興に対する不満も相当あったのである。
西美濃三人衆が葛城家に味方した事により西美濃は日本軍が占領された。そして葛城は揖斐城にいる斎藤龍興に降伏勧告をした。
「くそ……(情勢は極めて不利……大手か)」
龍興はそう思いつつ降伏勧告を受け入れて揖斐城を開城した。
「降伏勧告の受諾、真に感謝するぞ龍興殿」
「……はは」
「御主の処遇だが……我が歩兵隊に入り鍛え直せ」
「……は?」
「聞けば昼間から酒を飲み、女を食らうという。そんな奴は歩兵からやり直しだ!!」
葛城は有無を言わさずに龍興を歩兵隊に編入させた。
「……殿、助命ありがとうございます」
「いや構わないよ半兵衛」
龍興の助命を進言したのは半兵衛だった。いくら無能な上役でもまだ歳は幼かった。
「後は彼が変わる事を祈るのみだよ」
「……は」
龍興は水原大尉の歩兵隊に入れられて相当しごかれるが、このしごかれで彼は変貌を遂げるのであった。
ちなみに葛城はこっそりた稲葉山城を岐阜城と命名するのであった。
「さて……疾風」
「は」
評定に忍びの疾風が呼ばれた。
「伊賀を調略したい。一筆書いたから御主らの代表格に渡してほしい」
「伊賀を……ですか?」
「我等の傘下に入れば良い。伊賀での農作物の収穫は難しいと聞いているから一公九民でも構わない」
「一公九民でございまするか!?」
葛城の言葉に疾風が驚く。
「忍びを我等にだけ提供してくれたらな」
「……直ぐに行きましょう」
疾風は直ぐに伊賀に向かい状況を報告した。
「我等をそれほどまでに買って下さるとは……葛城家恐るべしじゃな」
「喜んで傘下に入ろう。して誰が行く?」
「今後の事も考慮すべきじゃろう」
話し合いで百地丹波が岐阜城に向かうのであった。
「どうだろうか百地殿。伊賀は葛城家の傘下に入るがその代表格が欲しい」
「と言いますと?」
「誰か伊賀の大名になってはくれまいか? まだ朝廷に働きかけてはいないが伊賀守や官位を授けたいと思う」
「わ、我等を朝廷の臣にして下さると!?」
「おかしな事を言うな百地殿。御主やは我等は元々朝廷の臣だ。忍びだからと言って差別はせんよ」
「……感無量也」
百地は涙を流しながら葛城に頭を下げたのであった。この頃の忍びは足軽より軽い存在だった。その忍びを重要してくれる主を漸く見つけたのである。百地達は直ぐに話し合い、百地が大名になる事が決定して葛城に臣従する。後に甲賀も加わるのであった。
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