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第十六話

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 さて、刈谷城の合戦からはや五ヶ月、季節は七月となっていた。織田側は二回も刈谷城の城攻めをしていたが忠勝と歩兵中隊に阻止されて失敗していた。

 また歩兵中隊は交互に入れ替わり今は河野大尉の歩兵中隊であった。ドライゼ銃の弾丸をミニエー弾に変更していた。口径は違うが、ミニエー弾の口径をドライゼ銃の弾丸に合わせる事で大幅な射程距離を伸ばせる事に成功した。これにより有効射程距離は五百メートルとなったのである。

 更に刈谷城には生産されたばかりの青銅製の固定式曲射歩兵砲三門が配備されていた。この曲射歩兵砲は十一年式曲射歩兵砲をモチーフしていた。

 信長は丹羽長秀を小牧山城に置き、美濃の警戒に当たらせて自身は沓掛城にいた。


「村木砦は河尻に任せる。兵は二千だ」

「御意」

「林、御主は同じく兵二千を率いて緒川城を任せる」

「御意」


 二人は直ぐに砦と城に向かう。だが林秀貞は神妙な顔つきだった。


「殿、如何なさいましたか?」


 林の顔つきに家臣達も心配になり林に話し掛ける。


「……御主達、これで良いと思うか?」

「良い……とは?」

「信長の事だ」


 林は忌々しいような表情をしていた。


「信行様ならどうしていたであろうか……」


 林は桶狭間以前は弟通具、柴田勝家らと共に信長の弟である信行を擁立して挙兵を企てた。だが稲生の戦いで破れ通具は討死をした。後に勝家と共に許されたが、心の奥底では信長を疎んでいた。


(やはり信行様が家督を継いでいれば……)


 そのように考える林。彼の中には桶狭間という戦はなかった。あれは偶然の偶然が重なった出来事である。


「……決めるか」


 そう何かを決断する林だったが、それは彼が死ぬ運命を早める結果となる。一方の葛城も刈谷城に入城していた。

 日本軍の兵力は二個歩兵中隊、戦車一個中隊チハとチロ三個砲兵中隊(長四斤山砲十二門、固定式曲射歩兵砲六門)忠勝ら等兵三千五百名であった。


「信長は軍を三つに分けたか……」

「此方も分割しますか?」

「分割したら各個撃破されるぞ」


 中村大尉の言葉に近藤大尉はそう言い返す。


「どうしますか隊長殿?」

「……軍を分割しよう」

「分割を!?」

「まぁ待て。緒川城は攻撃する振りだ。沓掛城と村木砦は攻めるがな」

「と言いますと?」


 そして葛城は皆に説明した。緒川城には兵一千五百と長四斤山砲三門を回して残りは順当に分けて沓掛城と村木砦を攻める案であった。


「では緒川城で敵部隊を足止めするのですか?」

「長四斤山砲を定期砲撃して出てこなくさせれば良い」

「成る程……」


 特に反対する意見はなかったので葛城の案で行く事にした。沓掛城には歩兵一個中隊と兵一千、チハに長四斤山砲六門、固定式曲射歩兵砲三門で村木砦にも同数の兵力となる。


「では行こうか」

『オオォォォ!!』


 斯くして日本軍は行動を開始して刈谷城から出るのであった。なお、葛城の正室である虎姫も葛城の傍にいた。理由は「たまには戦の空気を吸いたい」との事である。葛城は反対したが虎姫に睨まれて押しきられたのであった。その行動は直ぐに信長の元に報告された。


「葛城が動いたか!!」

「は、軍勢を凡そ三つに分けて進軍しております」

「三つ……同時攻撃か(そこまで兵力があったというのか。ならば……)緒川城に早馬を走らせろ。直ぐに沓掛城に戻り、沓掛城を攻撃しようとする葛城を叩けとな」

「御意!!」

「も、申し上げます!!」


 伝令が行こうとした時、別の兵が現れた。


「何じゃ?」

「は、林様が攻めてきました!! 謀反でございまする!!」

「な……」


 兵の言葉に信長は一瞬唖然としてしまう。今、この足軽は何と言ったのだ?


「既に城は包囲されておりまする!!」


 そして鉄砲の砲声や怒鳴り声が聞こえてくる。


「申し上げます!! 大手門が破られました!!」

「……おぉのれェ秀貞!!」


 漸く事態が分かってきた信長は林に怒りの声をあげた。


「死守じゃ!! 何としても持ちこたえて河尻が来るまで持ちこたえるんだ!!」


 しかし、信長の願いも虚しく林の雑兵達は二の丸、本丸に取り付いていた。


「行けェ!! 行けェ!! 敵は沓掛城にありだ!! 信長を殺せェ!!」


 林は大手門から沓掛城に入城しつつそう叫ぶ。一方、本丸では信長も覚悟を決めていた。信長は赤母衣衆の前田犬千代に視線を移す。


「犬、そちは逃げ延びよ」

「何と言われまする殿!?」

「子が生まれたばかりであろう。妻を残して逝くのか?」


 犬千代の嫡男犬千代(幼名、後の前田利長)は二月に生まれたばかりであった。


「犬、お前は儂の最期を見届けよ」

「……はは!!」


 涙を流す犬千代に信長は頷き、敦盛を舞った。


「人間五十年……此処で朽ち果てるのは無念だ」


 そして信長は毛利良勝に視線を向けた。


「良勝、儂の首を刎ねよ。決して林にやるでないぞ」

「……はは!!」


 そして信長は腹をかっさばいた。


「御免!!」


 織田上総介信長――後に第六天魔王とまで渾名が付けられるはずが天下に名を轟かせず沓掛城にて尾張の大名としてその生涯を終えた。享年29歳であった。


「……殿ォ!!」


 信長の最期を見届けた犬千代は槍を持ち、涙を流しながら沓掛城を脱出するが途中で葛城の軍に捕らわれる。毛利良勝は信長の首を林に渡さぬよう沓掛城から逃げようとしたが、途中で林の軍勢に捕まり槍で貫かれて討死した。

 そして林秀貞は信長の首を持って沓掛城を攻撃に来た葛城に降伏した。


「此方が信長の首にございまする」

「………」


 葛城は首桶から現れた信長の首と首対面をした。天下統一まで後少しというところで明智光秀が謀反を起こして本能寺で討たれた信長。しかし、今は林秀貞が信長の首を持って葛城と対面していた。


「(歴史とは……残酷だな)林殿、貴殿は降伏すると?」

「左様にございます」

「そうか……なら腹を切れ」

「……は?」

「戦の際に主君を裏切り、降伏する輩など我が日本軍には要らぬ。林秀貞を市中に引き回して切腹せよ。連れて行け!!」

「あいや、あいよ暫く!!」

「黙れ!! さっさと連れて行け!!」


 喚く林秀貞を葛城達は無視しつつ信長の首を見つめた。


「加藤、全員に酒を配れ」

「はい」


 加藤が尉官達全員に杯を配り酒を注ぐ。葛城は杯を信長の前に置いた。


「……貴方とはこのような形で会いたくはなかった。だが貴方が目指した天下統一は我々が行う」


 葛城達は信長の冥福を祈り酒を飲むのであった。






御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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