第十三話
さてさて、長沢城や五井城を攻略する事を決定した日本軍は両城に降伏を打診した。
「降伏致します」
「右に同じく」
両城は松平一族のだったが元康が死んだ事もあり直ぐに降伏を決意していた。そこへ降伏の使者が来たのでこれ幸いにといったところである。
両城が日本軍に降伏した事により近隣の鵜殿氏、野田菅沼氏、設楽氏、奥平氏、田峰菅沼氏、板倉氏等の国人達も相次いで日本軍に頭を下げて降伏した。
これにより日本軍は東三河をほぼ手中に収めたのであった。また松平一族が降伏した事で他の国人達にも動揺が走っていた。
「雪崩のような降伏劇でしたな」
「固い固いと思われた三河も徳川……松平元康がいなくなると結束も鈍くなるか……」
吉田城で加藤からの報告を聞く葛城はそう呟いた。
「吉田城攻めの損失も効いているのでしょう。それと降伏した国人ですが……」
「一族の損失が酷いなら農地開発に専念、酷くないなら農地開発しつつ戦に協力だな」
「ですね」
葛城はそのように国人達を扱っていた。農地開発に専念の場合は年貢も軽く免除になっている。
「獲得した領地は一旦我々が預かり、三河攻略が済み次第、国人達に分け与えろ」
「分かりました。それとこれを……」
加藤はそう言って一枚の陳情書を葛城に渡した。
「新型小銃の開発にキャニスター弾の開発をだと?」
「はい」
「……キャニスター弾は分かる。が、ドライゼ銃は駄目か?」
「撃針を持ち歩きながらの戦場は少し……それに雷管も開発してますし思いきってやるのも手かと思います」
「……だがな加藤。真鍮製造は出来るのか?」
「それは……」
葛城の言葉に加藤は口をつぐんだ。金属薬莢が製造出来るかは加藤も分かりかねていたのだ。
「ドライゼ銃に問題があるのは俺も知っている。だが研究はしてくれ。いつか出来るかもしれん」
「……分かりました」
「うむ、それと弾丸をミニエー弾にして射程距離を伸ばしたらどうだ?」
「ミニエー弾をですか? ですが弾丸は……」
「エンフィールド銃なのは分かっている。だからミニエー弾をドライゼ銃の口径に合わせてみたらどうだ?」
「……成る程。弾丸をドライゼ銃の口径と同じにするのですね」
「その方が現実的だろ?」
「分かりました。直ぐにミニエー弾とキャニスター弾の開発に取り掛かります」
「うむ」
こうして日本軍はドライゼ銃に合わせたミニエー弾とキャニスター弾の開発に取り掛かるのであった。なお、キャニスター弾とは金属製のケースに鉄屑や金属片、鉛玉等を詰めた砲弾である。所謂榴散弾なのだ。
砲弾は射程距離を伸ばすため尖頭形が採用され直ぐに開発に取り掛かるのであった。
その頃、三河岡崎城では数正達は御通夜のような雰囲気だった。
「……東三河は取られたか」
「国人達の動揺も激しい。恐らく後一回の戦……いやそれが持つか怪しい」
忠勝と数正はそう話していた。
「……忠勝、頭を下げるか?」
「………」
数正の指摘に忠勝は目を瞑る。
(最早……これまでなのかもしれぬな。せめて一矢報いようとしたが、遅すぎたのかもしれぬ)
そう決断した忠勝は数正に視線を向けた。
「葛城殿に……頭を下げよう」
「……あぁ。降伏しよう」
二人はそう決断し、岡崎城周辺の国人や元康の家臣の一族に降伏を促した。彼等も二人の決断に同調して降伏を決意して吉田城に二人を使者として遣わせたのである。
「久しいな忠勝」
「御元気そうで何よりでございまする」
二人は葛城の元に通され挨拶をしていた。
「それで用件とは?」
「……我等、葛城殿の軍門に降りたく参りました」
「……降伏だな?」
「はは、その通りです」
「……そうか、よく決意してくれた。御主らを殺さないで済む」
葛城は嬉しそうに頷いた。忠勝や数正の事は知っている事もありどうにかして確保しておきたかった存在である。
「また、岡崎城周辺の国人達も葛城殿に頭を下げたいと言っています」
「分かった。所領は今のところ安堵とする。一族の損失が酷いなら農地開発に専念、酷くないなら農地開発しつつ戦に協力だ。また、跡継ぎがいない場合は所領没収とする」
「はは」
そして岡崎城周辺も日本軍の軍門に降った。これが決定的となり、安祥城方面の国人達も相次いで連鎖的に頭を下げて降伏するのであった。これにより葛城もとい日本軍は遠江と三河を持つ大名になったのである。
そしてその危機感を覚えたのが尾張の織田信長である。
「……三河が攻略されたか」
「はい。今川の時と同じく危機に立たされております」
「五郎左、それくらい分かっておるわ」
信長は不機嫌そうに長秀の指摘にそう答えた。
「……美濃に行けん……か。義龍が死んでいる今が美濃に攻める好機なんじゃ」
そう呟いた信長は外を見る。外はザーと雨が降っていた。美濃の戦国大名である斎藤義龍は六月に急死していたのだ。
「……前途多難……じゃな」
信長の呟きに長秀は何も言わなかった。外の雨は何を示しているのかは分からなかった。
そして葛城達は何時ものように掛川城にいた。
「常備兵はどうか?」
「凡そ六百人です。均等に三個歩兵中隊に配備して訓練中です」
「うむ。四斤山砲の長砲身化はどうなった?」
「チハやチロ等と同じ十八.四口径にしました」
「そうか、チハとかと同じのか」
「はい」
「試験は?」
「隊長殿から許可が降りれば何時でも出来ます」
「なら頼む。長砲身化の生産は早めにしたいからな」
「分かりました」
四斤山砲の長砲身化(十八.四口径)の試験は良好であった。鉄弾で二千五百、石弾で三千二百の射程距離となった。この四斤山砲は日本軍の天下統一中期まで主力砲となる。
「反射炉の製造はどうだ?」
「まずは煉瓦の製作からやっています。今は窯業の職人を招くところからです」
「それは仕方ない。反射炉は前も言ったが気長にやっていくしかないだろうな」
葛城はそう言って苦笑した。
「まぁ評定はそれくらいにしておこう」
「将和様、お味噌汁です」
「ありがとう虎」
そこへ正室の虎や侍従達が皆に味噌汁を持ってやってきた。葛城達の評定は毎回夜遅くまでするので虎達がこうやって暖かい物を作って持ってきているのだ。
そして彼等は十二月の年を越したのであった。
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