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だっているかもしれないじゃん?

作者: 坂神京平

『はあっ!? ど、どうして、このワタクシが、貴方なんかと一緒に、毎日登下校しなくてはなりませんの!?』



 金髪ツインテールの女の子が、不平そうなセリフを発している。

 いかにも、育ちの良さそうなお嬢様だった。

 声音もヴィジュアルも可愛らしいが、物腰には妙な刺々しさがある。


 とはいえ、その子は、目には見えても、手で触れられる相手ではない。

 普通の人間とは、異なる次元に存在しているのだ。


『まっ、まままさか、貴方がワタクシの許婚ですって……!?』


 女の子は、画面の中で、鋭いツリ目を見開いている。

 有名制作会社が手掛けたアニメは、本当に作画が綺麗だ。

 それに、美少女萌えアニメの何たるかをきちんと把握し、基本に忠実である。

 やはり、金髪のお嬢様は、こうでなくてはいけない。


 ツインテール、ツリ目、そしてもうひとつの【ツ】――




「――ねぇ、ナオキはどうして【ツンデレ】が好きなの?」



 ナオキは、反射的に身体を硬化させた。

 数秒挟んでから、アニメショップの棚の最上段に置かれた展示(ディスプレイ)用モニタに注いでいた視線を外し、傍らを振り返る。

 そこには、栗色の髪をセミロングにして、どこか小動物的な雰囲気のある女の子が、所在なさそうに立っていた。

 ナオキの通う大学で、同じゼミを履修しているエリカだ。


「どうして、急にそんなことを訊くんだ」


 ナオキは、しげしげとエリカを眼差して、問い返した。


「だ、だって……ツンデレキャラって、アニメでもゲームでも、主人公の男の子にいつも毒舌で接したりしてばっかじゃん」


 エリカは、やや躊躇(ためら)いがちな口調で、しかし意を決したように切り出した。

 くりくりした大きな瞳は、ちらり、と二人の横の商品棚を見る。

 そこには、人気アニメのツンデレヒロインをテーマに扱ったキャラクターグッズが、ずらりと隙間なく陳列されていた。

 しかも展示用モニタには、延々とアニメのプロモーション映像(PV)が流れ続けている。


「ああいう女の子が可愛いのなんて、きっと作り話(フィクション)の中だけだよ」




 この日、大学の講義が二コマ目ですべて終わると、ナオキはエリカから買い物に誘われた。

 前々から集めている漫画の最新巻が、なぜか大学近辺の本屋で軒並み売り切れていて、どこか確実に置いてありそうな店を教えて欲しい、と頼まれたのだ。


 女子というのは、何か困った出来事があったとき、しばしばその分野について詳しい知人の男を捕まえようとする。

 そして、ちょっと相手を煽ててみせれば、「男は簡単な問題なら大概処理してくれる」などと、勝手な打算を抱いているものだ――そういう偏見を、ナオキは密かに持っていた。

 とはいえ、ナオキも非情ではない。

 まして、今日はわりと暇を持て余している。だから、ちょっとエリカの便利屋として利用されてやってもいいかと考えて、相談に乗ることにした。


 改めて漫画のタイトルを確認すると、エリカが欲しがっていたのは、わりとマイナー気味の女性向け作品であった。

 それはよっぽど大きな書店か、中小でも品揃えのいいところへ行かないと入手し難かろう、というわけで、街中の漫画アニメ関連商品を扱う専門店へ繰り出すことになった。

 幸いにして、ナオキの見立て通り、エリカの欲しがっていた漫画は、しっかり店頭で販売されていた。

 現在は、目的を達したあと、ナオキの個人的な買い物にエリカが同行している状況だ。


 ちなみに、「なぜアニメショップに行ったのか? 漫画が手に入りそうな大型書店は、他になかったのか?」――などという質問は、ナオキの一切受け付けるところではない。

 ナオキにとって、メジャージャンルから若干離れた傾向の作品は、どれも(すべか)らく、ここのアニメショップで購入するのが(おきて)なのだ。

 オタク系専門店の空気はいい。

 カタギの連中(一般人)が振り撒く、浮ついた虚飾の匂いがしない。この店の中に篭もる静かな情熱は、いつでも趣味に対する純粋(ピュア)な彩りに溢れている。




 ――さて、金髪の女の子は、展示用モニタの中で主人公に対し、容赦ない罵詈雑言を浴びせ続けていた。


『ふん……学校に居るときは、馴れ馴れしくしないでくださる? 貴方みたいに低俗な人間との関係性を、何も知らない第三者に疑われては迷惑ですから』


 じっとり湿った目つきと、苛立ちを含んだ声音も可愛らしい。


 実のところ、【ツンデレ】という言葉が生まれたのは、サブカルチャー界隈において、それほど遠い昔ではない。

 おそらくゼロ年代中盤、深夜アニメの原作コンテンツとして、ライトノベルが一躍脚光を浴びはじめた初期から定着したネットスラングと見られている。


「出会ったばかりの頃は、ツンツンと不機嫌で、周囲と打ち解けない性格なのだが、徐々に親交を深めるうちに、特定の相手にだけは心を許して、デレデレした姿を垣間見せるようになってしまうキャラ」……


 こうしたキャラクターの性質を略して、【ツンデレ】と呼んでいるわけだ。

 もっとも、それはあくまで広義の解釈であり、異論は数多くある。

 例えば、初登場時こそツンツンしているが、作品内時間でのある一時点を契機に、以後ずっとデレデレしかしなくなってしまうキャラは、もはや「ツン」の要素が消失しているので、厳密にはツンデレではないのではないか?とか。


『と、とにかくッ! ワタクシは、貴方のことなんて、これっぽっちも興味の対象として見ていませんからっ! 勝手な憶測を交えて、ワタクシのことをあれこれと詮索しないで欲しいと言っているのですわ!』


 金髪の女の子は、険しい口調で言い放つ。そして、モニタの奥からこちら側へ、ズビシッと人差し指を突き立ててきた。

 ツンデレとしては王道タイプのキャラクターだ。

 けれども、それだけに造型の安定感がある。

 PVを視聴し、やはり何事にも基本は大切だな、とナオキは再認識していた。

 まあ、それはさておき……




「作り話だけかどうかとか以前に、俺はそもそも二次元と三次元を比較すること自体が、あまり生産的な評価軸とは思えないのだが。まあ、しかしこの際、それはひとまず置いておくとして――」


 ナオキは、メガネのフレームを、クイッと指で持ち上げた。


「ツンデレキャラが、主人公を罵倒したりするのは、当たり前だろう。それでなくては、ツンデレという萌え属性の本来的傾向から乖離する」


「だ、だからっ。私は、どうしてナオキがそういう女の子が好きなのかわかんないって、訊いてるんじゃない」


 ナオキの回答に対して、エリカはちょっとムキになって言う。


「ふ、普通に考えてさ――女の子から冷たくされたら、ナオキは嫌な気分になったりとかしないの? 優しくされる方が、誰だって嬉しいと思うんだけど」


「……ふむ」


 ナオキは、エリカの主張を、ようやく得心した。

 それで、ふーっと、いったん深く呼気を吐き出してから、おもむろに腕組みしてみせる。


「おまえ、まだ()()なのか。レベル低いな」


「――って!? なんのレベルの話!?」


 思い掛けない評価を受けて、エリカは若干ショックみたいだった。

 だが、ナオキはお構いなしに解説をはじめることにする。


「いいか、まず大前提を考えろ。男女関係というのは、相対的なものなのだ」


「え、ふぇっ? ……あ、う、うん」


 唐突に話題を展開され、エリカはちょっと戸惑ったみたいだが、すぐに気を取り直した様子でうなずいてみせた。


「それでおまえ、可愛い女の子から優しくされたら、どう思う?」


「えっ……だ、だからそれは、さっき言ったけど、普通なら嬉しいでしょ?」


「普通なら。――()()、か」


 ナオキは、苦々しげに、ふん、と鼻で笑う。



「それは、いわば【勝者の理論】としての()()だな」



「……んんんっ?」


 エリカの大きな瞳が、ゆっくりと開閉する。これが漫画のキャラクターだったら、頭の上にはハテナマークが浮いているに違いない。

 ナオキは、かぶりを振って、先を続けた。


「おまえ、俺みたいなオタクの男が【可愛い女の子から優しくされたら】、誰もが必ず真っ先に【嬉しい】と考えると思ってるのか?」


「えっ――ち、違う、の……?」


「違うに決まってるだろ」


 ナオキは、こいつ、やっぱり何も理解していないな、と思った。

 そしてまた事実、エリカはまったく理解していなかった。


「そこで女の子から言い寄られて、素直に喜んだりできるヤツは、勝ち組の一般人だけだ。だがな――」


 ナオキは、こほん、とそこでひとつ咳払いした。

 やや呆然として、エリカはそれを見守るしかない。


「俺のような真の負け組オタクは、可愛い女の子から優しくされたら、普通は真っ先に、自分が【(だま)されている】と考えるものなのだ!」


「……え、ええっ!?」


「いや、騙されてるだろ。俺みたいな男に、可愛い女の子が優しくする? 常識的に考えて有り得ない。そこでうっかり勘違いして、その子の親切に乗っかってホイホイ付いて行ったら、きっと顔に傷がある屈強な男が待ち伏せしてるに決まってる。で、恐喝され、脅迫され、金品を揺すり取られるのだ! これぞ現代社会の闇! 俺は、そんな罠になど引っ掛からんからな!」


 ナオキが一頻り語り終えるまで、エリカはちいさな口をぱくぱくと水揚げされた魚みたいに動かしていた。

 だが、たっぷり一〇秒ほど間を置いてから、少し前へ身を乗り出し、どうしてか僅かな悲壮さの滲む面持ちで反論する。


「そ、そんな、騙されてるとは限らないじゃん! むしろ、どっちかっていうと、そんな目に合う確率の方が、実際には低いに決まってるじゃん!」


「ふん。そんな自分以外の人間を尺度にした統計の確率論など、信用なるものか」


 ナオキは、頑なな態度で言い放った。


「最初に言っただろう。男女関係というのは、相対的なものだと!」


「ど、どういう意味よ」


「客観的に、他人の立場になって考えてみれば、すぐわかるということだ」


 ナオキは、そこでもう一度、メガネのフレームをクイッと持ち上げた。


「もし、俺が女性だったとしたら――俺みたいな、オタクで毎日深夜アニメばかりチェックしていて、やたら理屈っぽいくせに自己評価の低いブサメンなど、完全に願い下げだということだ! だから、こんな俺みたいな男に優しく声を掛けてくる女子など、詐欺師か美人局(つつもたせ)以外には有り得ないのだッ!」


 ズガガガガガ――ンッ……!

 と、エリカはそのとき、ナオキの背後に青い稲妻が走ったかのような錯覚を見たかもしれない。

 少なくとも、その高らかな声音は、傍を歩いていた他の買い物客の耳にも届いたようで、「なんだなんだ?」と、足を止めてこちらを振り向く人物が数人居た。

 エリカの額から、謎の汗が滴り落ちる。




『ふうん……意外でしたわ。いえ、素直に感心しているのですよ。まさか、貴方にそういう特技があっただなんて』


 一方、金髪の女の子は、PV内でふっと驚いた表情を覗かせていた。

 僅かに垣間見えた、普段と違うリアクション。


 しばしばツンデレの魅力を表現するにあたって、平時のツンツンした態度と、互いに気持ちが通じ合ったときの反応の落差――すなわち、「ギャップ」が言及されることは少なくない。

 しかし実のところ、単にギャップだけでは、真なるツンデレの魅力を引き出すことはできない、という考察も存在する。


 なぜなら、ツンデレのギャップを引き立たせるには、その一瞬の「レアリティ」の重要性を指摘する説もあるからだ。

 可愛らしさの安売りには、有り難味がない。

 ときどき見せる刹那の笑顔……それを、自分だけが知っているという感覚は、ある種の「秘密の共有」にも似た、キャラクターとの特別な関係性を強く意識させてくれる。


『え、なっ何をおっしゃるの? ――し、失礼ねっ。ワタクシだって、一から一〇まで何もかも他人のことを否定する気なんて、最初からありませんわ。……その、貴方だって、いつもそうやって、きちんとしていてくれれば……。――って、どうして急に、そこで笑うんですのっ!? もぉ~!』


 と、金髪の女の子は、顔を紅潮させつつ、子供みたいに地団太を踏んでいた。




 エリカは、頭上からアニメキャラの可愛らしい音声を浴びつつも、必死に次の言葉を絞り出そうとしていた。


「でっ、でもさ……そんなキツい性格の女の子だったら、きっと周りの人たちからも敬遠されて、友達少なかったりするんじゃない? それはいいの?」


「いいけど。というか、逆になんで友達が多くて、周りの人間から慕われてるような女の子がいいのかわからん」


「へっ?」


「だって、誰にでも優しくて、人望がある女の子ってことは、どう考えても俺以外の男にもモテモテだろうが。競争率が恐ろしく高くて、相手の方が圧倒的売り手市場じゃないか。そんだけ色々な男に囲まれてる女の子が、わざわざそのいっぱい居る男の中から、ブサメンでキモいアニメオタクの俺を恋人に選ぶ理由があるか普通?」


 ナオキは、持論を順序立てて展開し続ける。


「まあ、だがもし仮にだ。何かの間違いで、そういう人望のある優しい子が、俺の恋人になったとしてみよう。――俺、自分がいつ相手の女の子から捨てられるのか不安で、絶対に毎日気持ちが休まらないと思うぞ? 俺なんかよりも、ずっとイケてる男の方が、世の中には圧倒的に多いんだからな」


「……ナオキ、どこまで自分に自信がないの……」


「冷静に己を客観視すると、そういう結論しかあり得ない、という話だ」


 自らを卑下しているはずなのに、なぜか誇らしげに胸を張って、ナオキは言い切った。


「それに比べて、やはりツンデレはいい。近寄り難い雰囲気のせいで孤立していて、身近に友達がいない設定だと、尚更いい。その子が仲良くなるべき相手は、俺だけしか存在しないわけだからな!」



 エリカは、そんなナオキの様子を、「うーっ……」とか「むぅ……」とか唸りながら、不満げな面持ちで見詰めていた。

 さっき購入したばかりの少女漫画を、胸の前できゅうっと包みごと抱き締める。




「――もしかすると、いるかもしれないじゃん」



 少し間を空けてから、エリカはちいさな声で、しかし決然と言った。


「もしかしたら、普通の優しい女の子でも、ナオキみたいなオタクの男の子がいいって人が、いるかもしんないじゃん」



「……はあ? 突然なにを言ってるんだ、おまえは」


 それで、今度はナオキの方が、ちょっと困惑した。

 エリカの持ち出してきた仮定は、まるっきりの予想外だったからだ。


「オタクな人ってさ……自分の好きなものに、一直線じゃん。私は、深夜の萌え系アニメとかは、わかんないけど。そうやって、好きになったものへの一途な情熱が、もしも自分に対しても同じように向けてもらえるんだとしたら、それは凄く幸せなことかもしれないって」


 アニメショップの店内には、BGMで売れ筋のアニメ主題歌が流れていた。

 そのメロディが、今丁度サビの部分に達する。展示用モニタに写っているPVの音声も、それでちょっと掻き消されてしまうぐらい、一時的に音量が高まっていた。


「そういう、一生懸命なところに惹かれてて。それで、自分がオタクな人にとっての理想の女の子と、違うタイプの性格であることに悩んでいるような女の子が――どっかに、いるかもしれないじゃん……」


 エリカがしゃべる声は、やはりそれほど大きくはない。

 なのに、どうしてか、他のどんな物音よりも、はっきりした強さでナオキの聴覚を刺激していた。



 ……長い長い、しかし実際は一〇秒にも満たない時間のあとに、アニメソングのメロディはサビを過ぎて、緩やかに間奏へ入る。

 再び、PVからアニメキャラの声が聞こえてきた。


『こっ、このワタクシが【ツンデレ】ですって!? バカなことをおっしゃらないでくださる!? いったい、何を根拠にワタクシがツンデレだというの!?』


 金髪の女の子は、赤面涙目で、モニタの中から必死に抗議していた。

 なかなか的確な脚本だ、と普段のナオキであれば、このシチュエーションを歓迎したに違いない。

 真のツンデレほど、自らを安易にツンデレとは認めないものだ。

 かつて一大ツンデレブームがあった時代、現実世界にもいわゆる「自称ツンデレ女子」がいっとき溢れ返った。

 ああいうものは、単なる流行に乗った模造品にしか過ぎない――と、ナオキは考えている。


 とはいえ、今のナオキには、珍しくアニメキャラに集中している余裕がなかった。




「……そんな女の子がいるのなんて、きっと作り話(フィクション)の中だけだ」


 ナオキは、やっとのこと口を開いて、強がった。


 そのとき不意に、エリカが抱えている紙包みに目が留まる。

 それで、このアニメショップまで二人して探しに来た少女漫画のタイトルを、今更のように思い出した。


 『初めての彼氏はオタクでした⑦』、星と姫コミックス今月の新刊。


 少女漫画は、出版不況の昨今でも特に売上に苦しんでいる分野だという。

 それが月刊漫画雑誌の連載で、七巻も発売されているのだから、けっこう長期連載の部類と言えるだろう。

 マイナー作品なのはたしかだと思うが、ごく一部にコアな読者が一定数いて、地味に続いているのかもしれない。



「……いるかもしれないじゃん」


 エリカは、うつむきがちに反論した。

 相変わらず、どことなく小動物的な仕草で、漫画の入った包みをいっそう強く抱き締めながら、細い両肩が震えている。前髪の下から見える頬は、かすかに上気して、桜色になっていた。


 ナオキは、急に店内の空気が息苦しくなった。

 エリカから顔を背け、喘ぐように商品棚最上段の展示用ディスプレイへ視線を引き戻す。


『貴方のことを、好きな子がいるんでしょう? ――だったら、ワタクシのことを気に留めたりして、その子を泣かせたりしては駄目よ』


 金髪の女の子は、悲しそうな表情で、上辺とは裏腹なセリフを発している。

 にわかにナオキは、ああ、どうしてツンデレキャラって、メインヒロインよりも、最後に報われないライバルキャラのポジションが多いんだろうな、と考えた。

 でも、そんな「勝者の理論」と決して結び付かない立ち位置こそ、ある種類の人間にとって何らかの共感を呼ぶのかもしれない。


『何度も言ったはずです。わっワタクシは、貴方のことが、大ッ嫌い、なの……』


 プロモーション映像の最後まで、金髪の女の子は素直じゃなかった。

 画面が暗転し、商品の告知が表示される。

 ブルーレイディスク第五巻は、来月二七日発売。初回生産完全限定版には、オールカラーブックレットと特典キャラクターソングCD付き。店頭での全巻一括予約特典は、キャラデザイナー描き下ろしイラスト使用のB1特大お風呂ポスターらしい。



 すぐ隣では、まだエリカがうつむいて、じっとしている。


 本当に、ツンデレじゃない女の子を信用していいのだろうか。

 そして、自分のツンデレに対する愛情と矜持を、それによって曲げるようなことが、果たして許されるのだろうか――


 ナオキは今、深い苦悩の沼に、足を踏み入れつつあった。





<だっているかもしれないじゃん?・了>

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[一言] これは悩む・・・・・・ 自信がないなら特に
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