最終話 《Lost:Game》
Lastゲーム・《Lost:Game》
・どちらかを殺せば勝ち。
・凶器は手持ちの拳銃を使用する。
・それ以外の凶器を使ったら失格。
・制限時間は無し。
「それではLastゲーム・《Lost:Game》を開始いたします」
ロストが最後のゲームの開始を告げる。
だが小鳥遊と音無は互いに動かなかった。
小鳥遊は罪悪感でいっぱいだった。
まさか自分と音無が復讐の対象としていた人物が小鳥遊自身だったとは思いもしなかった。
音無の兄を殺し、二回もこんな危険なゲームに参加させた原因が自分とは思わなかった。
「音無さん……あの……」
「……何で」
「……えっ……」
小鳥遊は言葉に詰まる。こんな冷淡な音無の声は初めて聞いたからだ。
音無は体を震わせながら続ける。
「ずっと……、私を騙してたんですか」
「いやっ、違……」
「ずっと私を騙してたんですか!!」
音無は声を張り上げる。その目には涙が溜まっていた。
「記憶を失ったフリをして…、私をこのゲームに誘い込んで……っ、私や……他の参加者が苦しむのを見て楽しんでたんですか!?」
「違う!!俺が記憶を取り戻したのはついさっきなんだ!それに俺は音無さんや他のみんなが苦しむのを楽しんでなんかいない!」
小鳥遊はうつむき、ワナワナと震える。
「つらかったに……、苦しかったに決まってるだろ……!!」
「もう……聞きたくない……」
音無は拳銃の銃口を小鳥遊に向けた。
「音無……さん……」
「……死んで下さい……」
音無の目からは一筋の涙が流れていた。
抵抗する。下手したら殺される。そう思っていた音無は拳銃を構えてなお警戒していた。
だが小鳥遊の行動に音無は驚愕した。
なんと小鳥遊は自身の拳銃を床に捨てたのだ。
「……いいぜ……。殺してくれ」
小鳥遊は覚悟を決めた。
音無に撃ち殺される覚悟を。
「俺は殺されても文句を言えないほどの事をして来た。殺されて当然の人間なんだ。だから殺せ……音無さん」
音無は声を張り上げる。
「あなたは……!あなたはそれでいいんですか!?死ぬのが……怖く無いんですか!?」
「君に殺されるなら本望だ」
小鳥遊は優しく微笑む。幾度となく音無を励ましたその暖かな笑顔で。
「やっぱり……あなたはバカです」
音無は続ける。
「殺人鬼なのに……、お人好しで、他人の事ばかり考えて、バカで、優しくて、私の心配ばかりして……!兄の仇で……、憎いハズなのに……!!」
音無は涙を流し、小さく微笑む。
「そんなあなたの事が……好きでした」
「……え」
音無は銃口を自身のこめかみに付ける。
「さようなら、小鳥遊さん。……あなたの事が本当に……大好きです……!」
小鳥遊は音無へと駆け出した。
「やめろ音無さんっ!!やめるんだ!!」
音無は引き金をひいた。真っ赤な鮮血が辺り一面を染め上げ、音無は動かなくなった。
「音無さあぁぁぁぁぁぁん!!」
小鳥遊は大粒の涙を流し、叫んだ。だがその悲痛な叫びが音無に届く事は無かった。
「ただいま優勝者が決定いたしました。
小鳥遊亮様、優勝おめでとうございます。小鳥遊亮様には副賞の一千万円と願いを一つ叶えられる権利を与えます」
小鳥遊は動かなくなった音無を抱きしめ、ロストに向かって呟いた。
「俺の……いや、俺達の願いはーーーーー」
放課後、とある教室の片隅で女子高生が季節外れの怪談話に花を咲かせていた。
その内の一人が唐突に呟いた。
「ねぇ《Lost:Game》って知ってる?」
「あー、知ってる知ってる!でも最近ネットでもあんまり《Lost:Game》の話出なくない?」
「なんかさ、《Lost:Game》ってもう無くなったらしいよ」
「えーマジで?なーんだ、つまんないの」
「てか何で無くなったのかな?」
「噂だと、優勝者が願いで《Lost:Game》を無くさせたとからしいけどね」
「まっさかー!誰得だよ!?あはは」
時代は移り変わる。愛した人が死んだとしても。
時間は足早に進む。止まって欲しいと祈っても。
《Lost:Game》は最早みんなの記憶から煙のように消え、忘れ去られていった。
東京都内の閑静な住宅街に小鳥遊はいた。
全財産をつぎ込んで買った新居のベランダから外を眺めていた。
小鳥遊は寒くなったので、部屋に入る。そしてバッグから取り出した拳銃の銃口を自身のこめかみに付けた。
小鳥遊はふと音無のあの笑顔を思い出す。
すると目からは自然と涙がこぼれた。
「音無さん、俺も大好きだったよ」
小鳥遊は引き金を引く。
銃声が閑静な住宅街に響き渡った。
彼はこのゲームで何を得て、何を失ったのだろう。大金を得た?愛を得た?愛した人を失った?記憶を失った?
そんな事、彼自身にすら分からない。
《Lost:Game》……それは得る物も大きいが、失う物も大きい死のゲーム。
これは記憶を失った犯罪者の青年、小鳥遊亮と
兄を失い、その兄を殺した殺人鬼を愛してしまった少女、音無奏の物語。