第十五話 6thゲーム
「二人…だと……!?」
小鳥遊は困惑した。
そしてそれは音無も同じだった。
ついに来てしまったのだ。
音無と小鳥遊、どちらかが死ななければならないこの時が。
最初からそのつもりで参加し、そしていずれはこうなると分かっていた。だが、いざその時がやってくると小鳥遊も音無も驚きの色を隠せなかった。
小鳥遊は音無に目を向ける。
音無の動揺は明らかに目に見えていた。
今までの小鳥遊ならここで音無を慰めただろう。
だが今そんな事は出来なかった。
何故なら小鳥遊も音無と同じだったからだ。
怖かったのだ。死ぬのが怖かった。
するとロストが唐突に話出した。
「ご安心下さい。我々最後まで行かずして優勝者が決まるのは好みません。なのでお二人の決着はlastゲームで決まるように、次の6thゲームは死ぬ確率が非常に低い簡単なゲームにいたします」
「簡単な……ゲーム……?」
音無は疑いの目を向ける。
小鳥遊も焦らされる感じに腹が立った。
「何なんだよそのゲームは……!!」
ロストは続ける。
「それでは6thゲームを開始します。6thゲームは実に簡単。こちらからの質問に答えていただくだけでございます」
6thゲーム・《偽りの真実》
・質問は全7問。
・4つの選択肢の中から正解を選ぶ。
・質問内容は自分に関する事。
・万が一間違えたら失格。
「何か随分簡単なゲームですね……」
音無は困惑気味に小鳥遊に問いかける。
「ああ……、でもこれは《Lost:Game》だ。油断はしないようにしないと」
「……そうですね…」
「それでは6thゲーム・《偽りの真実》開始します。音無 奏さん、後方左側の部屋にお入り下さい。なお部屋は防音性で外には聞こえませんのでご安心下さい」
「私から、みたいですね」
音無は大きく深呼吸をする。
あからさまに緊張している音無に小鳥遊は励ましの言葉をかける。
「じゃあ、音無さん……、気を付けて」
「はい、じゃあ行ってきます……!」
音無は少し微笑むと質問部屋に入って行った。
小鳥遊は思った。確実にどちらかが死ななければならないこの状況で互いを励ますのは、客観的に見れば「異常」なのでは無いか?
ましてや付き合いがと区別長くもなければ、家族でも恋人でも友人でもない彼女のために「死のうとすらしている」自分は客観的、主観的に見ても「異常」なのでは無いか?……と。
部屋に入った音無は中心に置かれているイスに座る。この部屋は六角形になっていて、扉から見て正面にモニター、そしてイスが配置されていた。
するとスピーカーから放送が入る。
「それでは質問を開始します。第一問、あなたの年齢は?」
・15歳・16歳・17歳・18歳
「……17歳」
「正解です。では第二問、あなたの好きな食べ物は?」
・桃・リンゴ・さくらんぼ・イチゴ
「イチゴ」
「正解です。それでは第三問………」
と、このような簡単な質問が繰り返される。
音無は正直つまらないなと思った。
あまりにも《Lost:Game》にしては簡単すぎる。
だがいきなり妙な質問が出された。
「第五問、あなたのお兄さんの殺された方法は?」
・刺殺・絞殺・毒殺・撲殺
「なっ……!何よこの質問は!?」
音無はひどく困惑する。だがスピーカーの声は淡々と返す。
「早く答えて下さい。失格にしますよ」
「ーーーっ!!」
音無は奥歯を強く噛み締めた。そして。
「……刺殺」
「正解です。それでは第六問、あなたのお兄さんが殺された場所は?」
・学校・道路・仕事場・音無奏の目の前
「……音無奏の目の前……」
「正解です。それでは………」
ワケが分からなかった。
音無はもう限界に近かった。
そしてついに最後の質問が出された。
「第七問、あなたのお兄さんを殺した犯人の名前は?」
「……え…………?」
その選択肢を見たとき、音無は目を丸くした。
扉が開き、音無が出てきた。
「音無さん、大丈夫だったか……?」
小鳥遊は音無の安否を確認するが、一瞬言葉に詰まった。
何故なら音無が自分に軽蔑の眼差しを向け、小鳥遊を無視して通り過ぎたからだ。
「音無さん……?」
「では小鳥遊 亮さん、お入り下さい」
ロストに促され、小鳥遊はモヤモヤとした感情を抱きながら部屋へと入った。
「それでは質問を開始します。第一問、あなたの5年前の職業は?」
・中学生・高校生・公務員・タレント
「……高校生」
5年前なら18歳だからまだ高校生のハズだ。
「正解です。それでは第二問、あなたの初体験の人物は?」
・妹・恋人・母・先生
小鳥遊は困惑した。自分がそんな事をした記憶なんて無かったからだ。
「でも……、そんなの恋人に決まっ……」
その時激しい頭痛がした。モヤモヤするあの感覚だ。《Lost:Game》に参加してから度々ある、忘れた記憶の断片を思い出そうとしている感覚。
瞬間、ぼんやりと自分と誰かが見えた。
これは……まさか。
「妹……?」
「正解です。」
小鳥遊は驚愕した。何と自分は妹と肉体関係にあったらしいからだ。まだ頭は激しく痛む。
「それでは第三問、あなたの最初に犯した犯罪は?」
・窃盗・暴行・詐欺・強姦
犯罪……?犯罪だと!?
……いや、まさか忘れているだけでやったことがあるのか……!?
「強姦……」
「正解です。あなたの最初の犯罪は妹さんを無理矢理犯した事でした」
頭が痛い。真実を受け入れられない。
だが嫌でも記憶の断片が思い出される。
俺の過去には何があったんだ……!?
「第四問、あなたの妹さんの死因は?」
・窒息死・溺死・出血死・感電死
「……窒息死」
「正解です。」
やめろ……!!
「それでは第五問、あなたの両親の死因は?」
・射殺・刺殺・自殺・圧殺
やめろ。
「………自殺……」
やめてくれ……!
「正解です。
これ以上思い出したくない……!
もう、やめてくれ……!
「それでは第六問、あなたの妹と両親を死に追いやった人物と、音無奏の兄を殺した犯人の関係は?」
・友人・恋人・同一人物・他人
「なっ……!?」
小鳥遊は驚愕した。何故自分に関する問題に音無の兄が出てくるのかと。だがこうなってる以上、他人ではないのは明白だった。
なら……まさか……。
「同一……人物……?」
「正解です。」
「嘘だろ……」
痛い。頭が割れそうになる。吐き気がする。
これ以上思い出したくない………!!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
ついに最後の質問が出された。
小鳥遊は頭を押さえながら恐る恐るモニターに目を向けた。
「それでは第七問、あなたの家族を死に追いやり、音無奏の兄を殺した人物とは?」
・小鳥遊亮・小鳥遊亮・小鳥遊亮・小鳥遊亮
「ああああァァァぁぁァァァぁぁぁぁァァァァァァぁぁぁぁァァァァァァァァっ!!!」
ーーそうだ。思い出した。
全部思い出した。
「音無さんの兄さんを殺したのは………、俺だったんだ…………!!」