第十二話 裏切り
色々と用があって中々投稿出来ませんでした。これからはまたいつも通り投稿しますんでよろしくお願いします。
状況は最悪だった。
コインは本来参加者の人数分である10枚が最大だった。だが霧島が脱出用の2枚と余分に4枚回収したせいで残りのコインの枚数は4枚となってしまったのだ。
これでは最大でもあと2組、つまり4人しかクリア出来ないのである。
さらに時間はもう10分を切っていた。急がないと他の参加者にコインを取られるどころか、純粋に時間切れで失格になってしまう。
「小鳥遊さん…、これは……?」
やっと小鳥遊に追いついた音無。だが状況を理解出来ていない。
「……音無さん、落ち着いて聞いてくれ」
小鳥遊は音無に今の状況、霧島がやった事、そしてこれからの状況すべてを話した。
話を聞いた音無の目には絶望より、怒りが映っていた。
「そんな……、いくら参加者の数を減らしたいからって……そこまでしなくても…!」
「霧島は異常だ。確かに今の状況ではアイツみたいに非情になるのが正解なのかもしれない。だけど、俺はそうは思わない……!」
小鳥遊は怒りを込めながら続ける。
「霧島のやる事は絶対に間違ってる。だから俺はここで生き残ってそれを証明してやる……!!」
音無はふと疑問に思った。
「そういえば霧島さんは何でこんな短時間でコインを6枚も見つけられたんでしょうか?いくら何でも運が良すぎません?」
ーー確かにそうだ。いくらなんでもコインを見つけ過ぎている。どう考えても不自然だ。
その時、小鳥遊はある仮定を立てた。
「もしかしたら、アイツは箱の法則性に気付いてたんじゃないか……?」
「箱の法則性……ですか?」
「ああ、もし霧島が序盤で箱の法則性……つまり箱がどういう位置に配置されているかを気付いてたとしたら、短時間で大量のコインを発見出来た事もうなずける」
「でも……、箱の配置に法則性なんて本当にあるんですかね?」
「じゃあ、最初から確かめてみよう。まずこの迷路は上からみたら四角形だったよな?そしてその中心にゴールがある」
小鳥遊は続ける。
「さっき木村さんの死体を見つける直前、俺たちはコイン入りの箱を見つける事が出来た。音無さん、この当たり箱は何とどういう位置関係だったか覚えてるか?」
「確か……、それを発見する前に見つけたハズレ箱とゴールを挟んで同じ位置でした」
小鳥遊は頷く。
「そうだ。そして今までに見つけた全ての箱の位置関係って分かるか?」
音無は必死に思い出す。そして答えた。
「……はい。大体ですけど覚えてます…。でもこれが一体何なんですか?」
「まぁ、今に分かるよ」
そう言うと小鳥遊は自分の血で四角形を書き、そしてその真ん中に小さく丸を書いた。
「簡単にこの迷路の見取り図を書いた。位置が分かったならその位置を教えてくれ」
小鳥遊にそう言われ音無は必死に思い出した箱の位置を小鳥遊に教える。そして小鳥遊はその箱があった場所に血で点を付けていく。
「……まさか……!?」
音無がこの法則性に気付いた。
小鳥遊も疑念が確信に変わった。
「やっぱり…、こういう事だったのか」
小鳥遊が続ける。
「箱の法則性……つまり位置関係はゴールを中心とした点対称になってたんだ」
そう。つまりこの迷路は真四角のちょうど中心にゴールが配置されている。そしてそのゴールの点を軸にした点対称でコイン入りの箱は配置されていたのだ。
「きっと霧島は早い段階でこの事に気付いていたんだ。だからあんなに大量のコインを見つける事が出来たんだ」
音無はまだ発見していないポイントを指差す。
「なら急いで探しに行きましょう」
「分かってる!行くぞ!」
小鳥遊と音無はコインを目指して全力で走り出した。時計を見るともう5分しか時間は残っていなかった。
「くそっ!ハズレか!」
時間による焦りと当たりが見つからない怒りで小鳥遊は箱を地面に叩きつけた。鈍い音を鳴らして箱は小さく跳ねる。
音無は小鳥遊をなだめた。だが音無自身も焦りで冷静を装うのは困難だった。
「小鳥遊さん、落ち着いてください。時間もありませんし急いで次のポイントへ行きましょう」
「……ああ、分かってる」
今現在、小鳥遊と音無が見つけた箱の数は全部で6つだった。だがそのうち当たり箱はまだ1つだけだったのである。
残りのコインは四枚だが、恐らく他の参加者も少なからずコインを見つけているだろう。もしかしたら最悪もうコインは残っていないかもしれない。
小鳥遊と音無は必死に走った。コインがもう無いかもしれないという恐怖と時間切れによる焦りで最早疲れすら感じなかった。
一体何度右に曲がったか分からない。一体何度左に曲がったか分からない。そして、一体何度死にたく無いと思ったか分からなかった。
ーーそろそろこの辺りだ……!!
小鳥遊と音無は箱がある事を願って道を左に曲がった。
するとそこの角に箱が置いてあるのが見えた。
「小鳥遊さん!箱ありますよ!」
音無が箱を指差す。
「分かってる!」
小鳥遊は箱の前に立つ。
そしてゆっくりと箱を開けた。
するとそこには金色に輝くコインが入っていた。
「ーーー!!あった!あったぞ!!」
小鳥遊はコインを手に取り音無に見えるように高く掲げた。
「やりましたね!小鳥遊さん!!」
音無も声を張り上げて喜んでいる。安堵からか、その目には少し涙が溜まっていた。
時計を見るともう時間は3分も無かった。
急がないと本当に間に合わない。
「早く行こう!音無さん!」
小鳥遊は音無の手を握り、全力でゴールへと走った。幸運にもここからゴールまではそう遠くない。走れば充分間に合う距離だった。
「小鳥遊さん!ゴールですよ!」
音無がゴールの門を指差し、叫んだ。
血の目印もあって、かなり早く着く事が出来た。
ーーーこれで助かる……!!
そう小鳥遊が思った時だった。
背後から銃声が鳴り響く。放たれた弾丸は小鳥遊の右肩をかすめて壁へとめり込んだ。
「ッぐああぁぁぁぁぁぁ!!」
たまらず小鳥遊はその場に倒れこんだ。肩から流れる鮮血が真っ白な空間を赤く染めていく。
音無はあまりにも突然過ぎる状況に頭がついていってない様だった。
「た……!小鳥遊さん!」
小鳥遊は肩を抑えながら後ろを振り向いた。
「何……してんだ……!!あんたら…!!」
そこには2ndゲームで片腕を失った芦屋と、もう1人知らない男が立っていた。
すると芦屋がゆっくりと口を開く。
「すまないな……。でも、こうでもしないと生き残れないんだ。さぁ、コインを渡してもらおうか」
「ふざけんなよ芦屋さん……!誰が渡すかよ…」
「なら、仕方ないな」
するともう1人の男が音無をがっしりと拘束した。音無は必死にもがくが、振りほどけそうに無かった。
「この子を殺されたく無かったら早くコインをよこせよ!」
小鳥遊は思った。このゲームは芦屋のような人間も狂わせるのだと。そして生き残るにはこの手段しか無いと。
小鳥遊は懐からある物を取り出した。
コイン……では無く。拳銃を。
「……!!なっ……!?」
芦屋と男が一瞬だが激しく動揺する。
そして放たれた二つの弾丸は芦屋の手と男の肩を貫いた。瞬間、拘束が解け、音無が解放される。
時間はもう1分を切っている。
小鳥遊は音無に手を伸ばす。
「音無さん!!早く!!」
小鳥遊の手がしっかりと音無を掴んだ。
二人は全力で門をくぐった。振り返ると芦屋達が痛みで苦しみもだえている。
「……くそっ……」
ゆっくりと門は閉じ、真っ暗な空間が二人を包んだ。そしてそこで二人の意識は途絶えた。