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Lost:Game  作者: shun
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第十一話 過剰かつ異常




スタートから10分が経過した。残り時間20分。

小鳥遊達は未だにコインの入った箱を見つける事が出来なかった。


「くそっ……、このままじゃ本当にマズイな…」

小鳥遊にも少し焦りの色が見えた。


ーーここは他の参加者とも協力して情報を共有するべきか……?いや、だが万が一裏切られてしまったら今より状況は悪くなる……!


小鳥遊が状況を整理していた時、少し先を行っていた音無が叫んだ。


「小鳥遊さん!箱ありましたよー!」


「本当か!?今すぐ行く!」





確かにそこにはコインが入っているであろう箱があった。正方形で真っ黒なその箱は一面真っ白な空間に映え、重厚な雰囲気を漂わせている。


「時間が無い。早く開けよう音無さん」


「あっ、はい。分かりました」


ーー良かった……。これであと残り一枚。

そう2人が安堵して箱を開けた時だった。



コインが無かった。



「……ウソだろ……!?」

一足遅かった。小鳥遊達が発見した箱はすでに他の参加者がコインを発見した後だったのだ。


「そんな……、せっかく見つけたと思ったのに」

音無がその場にぺたりと座り込む。


すると小鳥遊が音無に叫んだ。

「音無さん!早く立つんだ!急がないと時間が進むにつれて不利になってしまう!」


小鳥遊の判断は正しかった。何故なら時間が進むという事は参加者もコインを見つけ始める。いくらコインが人数分あるとは言え、早くしないとコイン入りの箱に辿り着けず、さっきのような空箱に行き当たる確率が高くなるのだ。


さらにこの条件もマズかった。迷路、情報処理能力を低下させる白、制限時間、そしてゴールも見つけなければならない。この重なる悪条件がより参加者の冷静な判断力を削ぐ。



「あっ!待って下さい小鳥遊さん!」

音無も慌てて小鳥遊を追いかけた。














「……くそっ!またハズレか!」

小鳥遊の予感は的中した。現在の経過時間は15分。残り時間は15分しか無い。


最初のハズレ箱を見つけてから小鳥遊達はさらに3つ箱を発見した。だがどれも全てハズレでコインは一枚たりとも入っていなかった。


「小鳥遊さん……、本当にこれはヤバくないですか!?」

音無も肩で息をしながら不安気にしている。


「分かってる…、心配するな」

明らかに出まかせだった。むしろこの状況では心配しか無い。





だが2人に非常に幸運な出来事が起こった。

小鳥遊がコイン箱を探そうと右に曲がった時だった。


「……出口だ………!」

何とそこはゴールだったのだ。コインはまだ揃えていないものの、幸運にもゴールを発見する事が出来たのである。



「やりましたね小鳥遊さん!」

音無が嬉しそうにはしゃいでいる。小鳥遊も素直に喜びたい所だったが、そうはいかなかった。何故ならこの段階でゴールを見つけてしまっては問題が二つ生じるからだ。


まず一つはコインを持っていない状況ではゴール発見はあまり意味がない事。ゴールしたくてもゴール出来ない。


二つめはゴールの場所が分からなくなってしまう事。コイン→ゴールの順ならそのままゴール出来るのだが、ゴール→コインの順だと一度ゴールから離れなければならない。そうなると目印になりそうなものが一切ないこのステージでは、ゴールから離れるともう場所が分からなくなってしまうのだ。


「……仕方ないか……」

そう言うと小鳥遊は自分の指先をかじった。えぐれた指先からは血が滴り落ちている。


それを見た音無は動揺した。

「な……何をしてるんですか小鳥遊さん!?」


「この血を目印にして行動する。これならここを離れても血痕をたどって行けばここに戻って来れるからな」


小鳥遊は時計に目をやる。残り時間はもうあまり多くない。急がないとマズイ。


「急ごう音無さん」


そう言うと小鳥遊と音無はコインを探すためにその場から走り出した。










さかのぼる事五分前。

霧島と木村はもう一枚のコインを探していた。霧島は迷い無くどんどん進んで行く。


木村はさっきの霧島の発言が気になっていたが聞こうとは思わなかった。不用意に聞いてしまうと自分の命が危なくなるであろうと感じたからだ。


霧島について歩いていると、そこには黒い箱、つまりコインの入っている箱があったのだ。霧島が開けるとやはりその箱には金色に輝くコインが一枚入っていた。



「やっぱりそうだったか……」

霧島はそう言って不敵に笑うとコインを箱から取り出した。そしてズボンのポケットにしまう。


木村は安堵した。これで自分達はクリア出来る。優勝だって射程圏だ。


「やりましたね霧島さん。これで私達はゲームクリアですよ。早くゴールに行きましょう」


だが霧島は言葉を発しない。喜ぶそぶりだって少しも見せなかった。

すると霧島は木村の方を振り返り、近づいて行く。そして目の前まで近づくと霧島は木村の耳元で囁いた。


「木村さん、他の参加者の数を減らせる良い考えがあるんだけどさぁ……、乗ろうって気はあるか?」


男性に耳元で囁かれて木村は不覚にもドキッとした。バクバクと心臓が脈を打っている。


「……どんな考えなんですか?」

木村は恐る恐る聞いてみた。


「ーーーそれはね…………………」









小鳥遊と音無はコインを探して走っていた。

ハズレ箱どころか、箱そのものがまだ見つかっていなかった。


「……どこにあるってんだよ……!?」

小鳥遊は確実に焦っていた。時間のプレッシャーもあり、焦りはどんどん高まっていく。


ーーまさかもうほとんど見つけられてしまったのか……?いや、俺達は箱そのものを見つけられていない。それは他の参加者も同じハズだ。せめて何か箱の場所に関するヒントがあれば……!


小鳥遊は音無に目をやる。かなり息が上がっていた。これだけ走り続けていれば仕方ないだろう。


本当なら二手に分かれて捜索したいのだが、このゲームはペアの存在が脱出には必要不可欠である。そんなリスクの高い行動は取る事が出来ない。


「音無さん!次は右だ!」

そう言って道を右に曲がった時だった。行き止まりだったが、突き当たりに真っ黒な箱が置かれていた。


「小鳥遊さん、あれ……!」

音無が箱を指差す。小鳥遊は急いで箱へ走った。そして中身を確認する。




そこにはコインが入っていた。

「よっしゃあぁぁぁッ!」

小鳥遊は音無にコインを見せた。すると音無は目を輝かせてこちらに走り出した。


「やりましたね小鳥遊さん!」

音無が溢れんばかりに笑った。小鳥遊はその笑顔を見るとさっきまでの疲労や不安が一気に消し飛んだ気がした。


コインを発見した2人は休む間も無く、最後のコインを探しに走った。


「あと一枚か……。でもきっとここからが山場だろうな。一枚があってももう一枚無いと意味がないからな」


「そうですね……。何か箱の場所に関するヒントがあれば楽なんですけどね……、例えば位置に法則があったりーー」


ーー法則……?

……そういえばさっきのコイン入りの箱……その前に見つけたハズレ箱とゴールを挟んで同じ位置じゃねぇか……?


何かが引っかかる。小鳥遊は音無にこの事を尋ねてみた。


「音無さん、キミって今まで俺達が見つけた箱の大体の位置って覚えてるか?」


「はい、一応覚えてますよ。どうもこの迷路って形状が上から見たら多分真四角なんです。だから場所を覚えるのも分かりやすいですし」


小鳥遊は純粋に音無の驚異的な記憶力に驚いた。まさかここまですごいとは思わなかったからだ。


「じゃあ……、さっき見つけたコイン入りの箱とその前に見つけたハズレ箱って中心のゴールを挟んで同じ位置か?」


「……はい、そうみたいですね。でも何でそんな事を……?」


モヤモヤする。あと少しで何か閃きそうだ。

「……じゃあ今までに見つけた箱全ての位置関係の事なんだけどーーー」


そう小鳥遊が言おうとした時だった。

ふと左の道に目を向けた。するとそこには血まみれの死体が転がっていた。その死体の傍らには拳銃が転がっている。


「……しっ、死んでる……!」


「音無さんは下がっといてくれ」

小鳥遊はその死体に近づく。一面を真っ赤に染める鮮血が真っ白い床や壁によく映える。


その死体はどうも背後から脳を貫かれているようだった。そして何故か片腕の肘から下がもがれていた。傷口の状態を見る限り、銃弾を数発打ち込んで、その傷跡から千切られたみたいだ。



小鳥遊はうつ伏せの死体を起こした。

すると小鳥遊の目の色が変わった。


「……この人……!確か霧島とペアになっていた……!?」


なんとその死体は霧島とペアを組んでいた木村だったのだ。ポケットに拳銃が無いところを見ると、この落ちているのが木村の物だろう。


ーーーーまさか!!!


小鳥遊は急いでゴールへと走り出した。

「ちょっ……、小鳥遊さん!?」

音無も小鳥遊の後を付いて走る。



ーーペアの死体、腕輪ごと無くなった腕、やたらに多いハズレ箱。


俺の予想が正しければ霧島は箱の法則性に気づいている……!そして自分だけ脱出するためにペアを殺して腕輪を奪った!


……クソ野郎が……!!





そこを曲がればゴールだ。小鳥遊は無我夢中で走り、曲がり道を曲がった。



するとそこには左手に二人分のコイン。そして右手に木村の腕を持った霧島がいた。だが小鳥遊が来た時にはもう遅く、霧島は余裕でゴールの門をくぐった。


小鳥遊の存在に気付いた霧島はこちらに振り向き、不敵に笑った。そして。


「これ、なぁ〜んだ?」

霧島の手には脱出用のコインとは別に四枚のコインが握られていた。


ーーまさか……、やたらハズレ箱が多かったのは他の参加者の分のコインをこいつが取っていたからだったのか……!?

クリア出来る参加者の数を減らすために……!!


「じゃあな……、まぁせいぜい頑張れよ?偽善者くん?」



「……霧島ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

小鳥遊は怒りを込めて叫んだ。


だが無情にも門は閉じていく。そして小鳥遊の声は完全に門に阻まれ、霧島には届かなくなった。



「……クソ野郎がぁぁぁ………!」

小鳥遊はこの時霧島に殺意を抱いた。





残り時間……9分。









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