見学
翌日、二年生は学校のグラウンドに集まっていた。
「皆さん、今日は国際能力専門学校、明日は国際能力開発研究所に行きます。どちらも我が国が世界に誇る施設です。今日と明日は能力についての研究を学び、楽しんで来てください」
朝から長い校長の話が終わった。何をやるにもこの時間が一番きつい。
順番にバスに乗り込んで行く。俺は三組のため三号車に乗ることになっている。バスに乗ると隣には楓太が座った。
「今日は楽しみだな」
「どこがだよ?」
「今日も智久来ないのかな?」
智久は今日も来ないのか。連絡ぐらいしろよな。
「あいつに何もないといいけどな」
智久は十五歳という若さで危険ランクSに指定された。あいつの能力が危ない訳ではない。同じような能力者はたくさんいる。何故危険視されているのかというと才能にある。智久は稀をみる天才である。学力、運動はもちろん能力の使い方までもがずば抜けていた。そして、その力は世界でもトップクラスの物になった。それを恐れた国際能力機関は智久を危険ランクSに指定して行動を制限した。いくつかの条件を守ることで普通の生活を送っている。
「後から来ると思うぞ」
「それならいけどね」
三組全員が乗り終わるとバスは目的地に向けて出発した。
これから向かう場所は東京の真ん中にある国際能力専門学校になる。世界からも注目されていて強力な能力者や珍しい能力者もいる。それに力をつける環境も整っている。選ばれし者しか入れないエリート学校だ。
国際能力専門学校はここから40分ぐらい離れた所にある。高速を使い行く。バスの中は小学生のように騒ぎ笑っていた。
でも、俺は寝ていた。俺を仲間に入れてくれる心の広い奴は数人しかいない。それも、能力がないせいである。
バスは白光高校の三倍はあるであろう建物の門を通過した。外見はホテルのように綺麗で御坊ちゃま、お嬢様の別荘のような豪華な造りになっている。
「別次元にでも来た様だ」
「同感。金使いすぎでしょ」
「金持ちは違うね」
バスを降りて体育館に向かう。体育館もすごいかと思ったら、普通より1.5~2倍ぐらいの大きさで逆に驚いた。
前に一人の少女が立つ。
「皆さんこんにちは。私は国際能力専門学校生徒会長、黒田美咲といいます」
少女は髪が長く、十人は居れば十人が振り向くくらいの美少女だ。
「今日は遠い所からよく来られました。この学校の施設を思う存分見て、体験してください」
生徒会長黒田美咲の話が終わり前からいなくなると周りから声が聞こえてきた。それはどれも共通して同じような言葉が二つ聞こえてくる。「かわいいー」そして「閃光操縦者」。
“閃光操縦者”という名は政府が与えた二つ名になる。
この日本には超越者と呼ばれる人間が十二人いる。超越者とは一定の能力値を超えた者をいう。その力は絶大な能力を発揮する。
簡単に言えば日本でトップ十二に入る者達だ。
「どこから回る?」
見学は基本何処でも見ていい事になっている。
「何処でもいいよ」
「なら、図書室に行こう」
突如、後ろから少女の声が聞こえる。
まぁ後ろを見なくても予想は大体ついている。名は松島百合。
「なんで図書室なんだ?」
普通は授業や施設の見学がほとんどだ。図書室に行く奴など聞いた事がない。
「だって、普通じゃ見れない資料が見えるんだよ」
有名な学校、施設は普通よりも能力者に関する資料を見ることが出来る。
それには納得できる。
「行くとこないし行くか?」
「それもそうだな」
「やったー」
三人は体育館を出ようとするが出れない。一度に出る量が多すぎて渋滞が起きている。
この暑い中の状態はやめて欲しい。
それから出れたのは30分経ってからだった。
「図書室ってどこだ?」
楓太が疲れたような声を出して尋ねる。
「次の角を左に百メートル進んで右に行った所」
「本当に合ってるのか?さっきからいろんな場所行ってるけど」
「百合って、方向音痴だもんな」
「違うよ。地図が読めないだけだよ」
百合は自慢げに否定をする。
だが、否定になっていない。
「お前な、それはそれで方向音痴よりタチが悪いぞ」
「ほら、着いたよ」
体育館を出て一時間。普通なら20分で着く所に図書館は存在する。
百合の方向音痴に振り回されたのだ。と、言っても20分も掛かる広さだ。仕方ないかも知れない。
扉を開けると薄暗く窓から太陽の光が入っている状態だった。
「暗いな」
「本の数が尋常じゃないな」
「ここからは自由ね。自分が見たい本を勝手に見てて」
そう言い残すと置くへ行った。
「じゃ俺はあっちで暇をつぶしをしてくる」
「あぁ。俺も適当にやってるよ」
楓太と分かれた後、近くに在った『電磁力による能力の発現』という本を手に取って、座る場所を探し
た。
どのくらいの時間が経っただろう。
傾いていた太陽は真上に、気温が上がりシャツが少し濡れている。
「もう十二時か。腹減った」
本を机に投げると外を見た。
グラウンドで能力を使う者達がいた。
「お祭りみたいだな。・・・・・派手だ」
「あれはイベントの一環だが、君はここに居ていいのか」
「わっ!!」
突如、後ろから声が聞こえる。
「そんなに驚くか?」
「えっと・・・あなたは・・・・そう、生徒会長、閃光操縦者」
「その呼び方はやめろ」
後ろに現れたのは生徒会長黒田美咲。またの名を閃光操縦者。
「それは置いといて。イベントの一環とはどういう事ですか?」
「置くのはやめろ。まぁそれはそうと・・・・体育館に入るとき腕時計のような物を渡られたよな」
腕に付いている物を見る。ここに来る前、正確には体育館に着いた時、腕時計に似た物を渡された。
「これがどうしたんですか?」
「それはつけている者の状態を感知する機械だ。今、グラウンドだけじゃ校舎内でもサバイバルが始まっている」
「サバイバル?」
サバイバルって何だ。俗に言うバトルロワイヤルか。
「どうせ上が考えた事だろう。君達の学校生徒を相手にここの生徒が戦うというものだ」
「そんなの勝ち目あるわけないだろ」
蒼空たちが今居る国際能力専門学校は日本ではもちろん世界でもトップクラスに当たる。そんな学校に普通の専門学校生徒がまともに戦えるはずがない。
「その通だ。君はどうする?」
「俺は無能力者だからここで隠れてる」
「それは無理だな。ここに居ればペナルティが課せられる」
どんだけ計算してやってんだよ。
「なら戦うか?蒼空」
「当たり前だろ。と言ってお前がだけどな楓太」
本棚に身を任せるように楓太が立っていた。
「私もやるよ」
本棚の間から百合が出てきた。
「そうだな。なら俺が指揮官しよう」
「蒼空指揮官の元、出動だ」
そのままの勢いで図書室から出て行った。
「なんだか・・・・楽しそうだな」
生徒会長がボソッと言った一言は蒼空達に聞こえる事はなかった。
サバイバルまたの名をバトルロワイヤルは予想以上に厳しかった。同じ学校の奴らはほとんどがやられていた。後がない状態だった。
そして、今も交戦中だった。
「お前らみたいな弱小はさっさとやられていろ」
三人向かって水の塊が飛んでくる。それも、複数の方向からだ。
「渦巻き」
楓太の起こした風は水の塊を飲み込み、水の竜巻を相手に向けて飛ばす。でも、全てを巻き込めた訳ではない。
「こっちは任せて」
百合は飛んでくる水を目の前で止める。
【念力】手を触れずに物を動かす事が出来る。自分の努力しだいではビルさえも動かす事が出来る。
それが彼女の能力だ。
「そちらにお返しします」
空中で止まっている水が飛んできた方向に戻る。
水の竜巻と水の塊が相手生徒にあたり、体が後方に飛ばされる。
「終わったな」
「当たり前よ」
後ろを向き蒼空の元に歩み寄る。
「甘いぜ」
突然、液体が飛んでくる。
「やべっ」
風を起こそうとするが間に合わない。
バンッバン
銃声が廊下中に響き渡る。
銃弾は飛んでくる液体を拡散させる。拡散した液体は壁や床に当たると溶かし蒸発する。
「酸か。危ないな」
「お前ら気を抜くなよ」
「わりー」
液体の蒸発が終わり、蒸気が消えると眼鏡を掛けた青年が立っていた。
「生きてたんだ。下等生物のくせに」
蒼空は無言のまま拳銃を構える。
「能力のない奴はそんなので戦うんだ」
「黙れ。今すぐに此処を立ち去れ」
「誰に命令してるんだい?立ち去るのは君達だよ。大して能力も無いくせに」
「黙れ。それ以上喋るならば容赦しないぞ」
標準を青年に合わせる。
「黙るのはそっちだろ」
笑う青年に三発の銃弾が迫る。距離にして10メートル。常人には見えない速さで突き進む。
「そんな物が僕に届く訳ないだろ」
青年の前に酸で作られた壁が現れる。銃弾は壁に当たると蒸発してなくなる。
「鎌鼬」
酸の壁は風の刃により崩れ、青年は後ろに吹き飛ばされる。
壊れた壁の酸が当たりに飛び散る。蒼空たちの方へ飛んできた酸は百合の能力で止める。
「ここじゃ、風を使う巻き沿いを喰らうぞ」
「どうする?」
床に酸が広がる。
とっさに後ろに跳び回避する。
「よくもやってくれたね。知らないよ」
「・・・・・・・」
青年は体中から大量の酸を放出する。それは周りにある物を溶かしていく。
「跡形もなく消えろ」
大量の酸が津波のように襲い掛かる。
「二人共下がって」
百合は前に出ると両手を突き出して能力を発動する。
迫っていた津波は時間が止まったかのように動かなくなる。
「私が時間を稼ぐからどうにかして」
「わかった。無理はするな」
百合はそこまで強い力は持っていない。津波を止めておける時間は約5分。それ以上は難しい。
「あれを使うか」
「それだけはやめておけ。学校ごと壊す気か」
楓太が使用としていた事はサイクロンを起こそうとしていた。室内でサイクロンなんかを起こせば、学校ごと吹き飛んでしまう。
「じゃどうするんだよ」
「俺に考えがある。お前の鎌鼬で床に穴を開けてくれ。そして、俺が防火装置を銃で打ち抜く。そしたら、勝手に水が出てきて薄めてくれるだろう」
運がいい事に此処は2階になる。だから、酸の津波を楓太の開けた穴に流し込むという作戦だ。
楓太が穴を開け、防火装置目掛けて発砲しようとした時、少女が現れた。
「君達これはいったどういうことですか?」
現れたのは生徒会長黒田美咲。
「どういう事って言われても、あなた達がイベントの一環でしているサバイバルでしょ」
「そう言う事ではない。あそこに居るのは誰かと聞いている」
「あれは、ここの生徒じゃないんですか?」
「ここの生徒に酸を操る生徒は居ない」
生徒会長の言葉を聴いて驚く。「酸を操る生徒はいない」と言う言葉を聞いて。
「じゃあれは・・・・・・侵入者」