悪夢(ナイトメア)の序曲
始業式から数日が経ちテストなどがあったが授業が始まり徐々に落ち着いて来た。
相変わらず俺へのクラスからの対応は酷いものだ。それでも楓太や智久、百合は俺と仲良くしてくれている。そういえば、最近睨まれる時に嫉妬と殺気を感じる事がある。何でも百合のファン倶楽部が出来たらしい。
ある日の夕方、何もない俺は一人で家に帰っていた。他の三人はというと楓太は「女の子見つけてくる」と言って他のクラスの二人と夕焼けの街へ消え、智久は「用事がある」と何処かに行き、百合は「先生に呼ばれた」という理由で俺は一人で帰っている。
「夕焼けが綺麗なのに暇だな~」
ポツリと一人ごとを呟く。
陽が沈みかけている中で蒼空を見る男達がいた。その腰には拳銃がある。
蒼空は大通りからマンションに繋がる裏道に入った。この道はあまり使われていなく人気が少ない。道の幅も1.5メートルぐらいしかない。近道としては一部の人から使われている。
蒼空が裏道に入ると男たちも動き出す。男たちは三人組でそれぞれ所定の位置に移動する。蒼空は自分が見られていることも知らず鼻歌を歌いながら呑気に歩いて帰宅している。裏道を25メートルほど進み右に曲がった。それと同時に男たちも動き出す。
「さっきからつけて来てるみたいだけど何か用?」
蒼空は後ろから男達が尾行していることを知っていた。
「へぇ~気づいてたのか」
「何が目的だ。俺は金なんか持ってないぞ」
「いやいや。金じゃないんだ」
男はフードを被っていて素顔が見えない。
「君の実力が見たくてね」
「俺は能力なんか持ってなぞ」
「それはどうかな?」
男は手のひらに風は集め始めた。
「少しだけ遊ぼうか?」
そういうとこっちに向けて風を起こす。その勢いは強くはないが前に進むのに邪魔になる。
「風使いか」
蒼空は右にかわす。が幅が狭くうまく避けることが出来ない。風が止むと男は前に手を出し刃のような風を起こす。
「鎌鼬」
蒼空の左が何かによって切られる。
「うっ」
風は見えない分こちらが不利になる。一旦逃げよう。
後ろを振り向き走りだす。なるべく攻撃が当たらない程度に蛇行しながら逃げる。
「逃げてちゃ。面白くないぞ」
男は声を張り上げて言う。その場からは動こうとしない。
(追ってこない。何故だ?)
蒼空の疑問はすぐに答えが出る。目の前に別の男たちが現れたのだ。それは蒼空にも予想だにしなかったことだ。
(先回りされていたのか。くそ!)
「君逃げるのはなしでしょ」
「あれ~聞いてない?俺たち一人じゃないよ」
状況は三対一に変わった。勝つには難しい状況になった。
「もう諦めたら?」
一人が針のような物を四、五本投げる。それを右に体を傾け避ける。避けきれたと思っていたが足に刺さった。
「ぐっあっ。・・・・追尾能力者か」
「君頭いいね。そうだよ。俺の能力は追尾さ。まぁ分かった所で避けることは出来ないけどね」
また、先ほどの男は針を投げる。蒼空は走る。射程圏内から逃げるために。射程圏内は能力を使う事の出来る範囲を表す。射程圏内から出ようとしたとき前から突風が吹きつけた。先ほどの男が追いついて来たのだ。
「遅いですよ」
「気にするな石井。それよりこいつか先だ」
「仕留めてもいいんですか?」
「勝手にしろ」
石井と呼ばれる男は再び針を取り出して投げる。今度は四・五本ではない。十本ぐらいはあるだろうか。これを食らえば確実に死ぬ。そう思った蒼空は背中の方から拳銃を取り出し、飛んでくる針に目掛けて引き金を引いた。銃弾は全部で五発放たれた。その内三発が飛んでくる針に、残り二発が石井とその隣にいた男の足に当たった。
「がっ・・うっ。・・・・くそ餓鬼が」
「・・・・・・」
石井はバランスを崩し地面に倒れる。隣に居た男はしゃがみ込んだだけで声すら上げない。
「最近の餓鬼はそんな物騒な物持ってんのか?」
「こんな物持つの俺ぐらいだろう。・・・・・俺には能力とか言われる便利な物は持ってないからな」
銃はいつも持っている。銃刀法違反にならないのかと言われればそれまでだが能力を持たない物は武器を持たなければ戦えないのが現実である。
「本当にそうか?」
「何が言ーてんだ」
銃を構えて警戒する。相手は風の能力者。見えない攻撃に備える。
「そんなに警戒するなって。今日はもう何もしねーよ」
男は自分の周りに風を起こしそれに乗りどこかに行こうとした。
「じゃーな少年。また会おう」
どこかに消えて行った。
後ろに二人居ることを思い出し振り返る。だが、そこには誰も居なかった。
「もう一人はテレポーターか。・・・・何しに来たんだ」
誰も居なくなった場所で尋ねる。答えなど返って来るはずもなかった。
たまに街の不良たちに絡まれる事がある。もちろん能力者だ。その時は金目的やストレス発散という迷惑なものだが今回は違った。確実に俺を狙って計画されたものだ。それにリーダー的な男は何か知っていた。
「何も起きなければいいがな」
蒼空もその場所から立ち去り自宅に向かった。その頃には陽は落ちていた。
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廃病となった病院の研究室の椅子に座る女性と円になっている机に数人座っていた。
『排除に失敗しました』
「やはりあの程度では勝てないということね」
『ですが、相手側も数名重軽傷者がでました』
「でも、地獄の追尾は倒れてないでしょ?」
『はい。怪我ひとつしていません』
「分かったわ。後始末お願いね」
『かしこまりました』
電話を切りポケットにしまう。
「さぁこれからどうする?」
研究室にいる数人に話しかける。
「問題はないだろう。計画に狂いはない」
薄暗く顔は見えないが声からして老人のようだ。
「そうね。この計画は誰にも止めることはできないでしょね」
「今までどうりに計画に沿って行けばいいね」
「ならこれで会議は終わりだな。私はやることがあるから先に失礼する」
そう言い残して身長2メートルはあるゴツイ男は出て行った。
「全く真面目なやつだ。俺も帰るぞ」
集まっている中では一番若い青年が出て行った。それに続きみんな出て行く。
部屋に残ったのは電話をしていた女性だけだった。
「・・・・・・・」
机に置いてある写真を見つめていた。2、3分すると写真を伏せて部屋から出て行く。写真には幼い子供達が写っていた。子供の顔は未来に希望を持つ笑顔でいっぱいだ。そこに子供達を知る者いなくその過去を知る者も居なかった。