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015  出会う少年と少女 <1>



 晴天の日差しがまぶしい。

 夏真っ盛りの日光が、道路や人々を照らしていた。

 道行く人々は辟易したような表情を浮かべて、悠緋の横を過ぎ去っていく。

 時空を操れるならこの暑さもどうしかしてくれればいいのに、と無責任なことを考えるが、そんなどうでもいい思考は溶けて消えた。

 悠緋がここに来て、数週間が経とうとしていた。

 時間が経つのは早いものだ。

 傷はもう跡もなく消えて、体の痛みもない。あの衝撃的な光景も、フラッシュバックすることは少なくなった。

 夜寝ているときや、町をぶらついているときでさえ、ふとした瞬間にあの時の光景が脳裏をよぎる。

 人間は忘れやすい動物というが、悠緋はこのことは一生覚えているだろう、と思う。

「今日は八百屋……」

 ともかく。

 この暑い中を悠緋はどうしてわざわざ歩いているのかというと、それは生活のためだった。

 悠緋は以前漣に案内された宿で一人暮らしをしている。そうなると当然家事は自分でしないといけない。炊事に関してもだ。

 この暇な間、悠緋は時間をもてあまして、やたら料理にこだわっていた。

 今日も、新鮮な食材を得るために町に出てきていたというわけだ。

「暑い~……暑いよ~……」

 悠緋の横を、呻きながら少女が追い越していった。ちらっと見てみると、アイスを口にくわえた少女が思っていたよりも近くにいて、悠緋は少しドキッとした。

 肩口あたりで切りそろえられた金髪が目に眩しい。顔は一瞬しか見えなかったが、可愛かった。

 そんないかにも男の子な考えをして、悠緋は歩いた。

 町の道路は、整然と敷き詰められた石畳。それを踏んで歩く人々は、多くは日本人のようだが外国人らしき人も多い。店の趣きも西洋を想起するようなおしゃれな雰囲気だ。

 現実の日本にはないような、一種のゲームめいた景色。

 歩いているだけでも小さな発見をしたりして、楽しかった。

「あ、こんにちは」

 道行く人の中に知り合いを見つけて、会釈した。たしか宿が近い人だ。

 何だかんだで馴染みやすい所だった。住んでる人数もそれほど多くないから、人々の距離が近いのだろう。まだ少年の悠緋を見て、何か分かることがあるのだろう、やさしく接してくれる。

 この町は、魔術師の町だ。魔術師と、それを支える者たちの。

 この町の全ての人間が魔術を使えるわけではない。使える者と使えない者の割合は、大体半分半分くらいだろう。

 何か事情があってこの異空間に連れられてきて、軸世界に戻ることが出来なくなった、先天的に魔術を扱えない者。そういった人たちがこの町を形作り、魔術師たちを支えている。

 悠緋は、目当ての店を見つけると、そこに近付いた。

 通りに面した部分が開かれ、その奥に商品が並べられた家だ。陳列されているのはいろいろな野菜やその加工物。軸世界から取り寄せるものもあれば、ここで作られるものもあるらしい。

「こんにちはー」

「いらっしゃい」

 奥から人が応える声。悠緋は店の中に入り、日光から逃げる。

 幾分かはましになった。通りを見ると、その地面は照らされて輝いていた。

 そういえば今は、魔術学園(アカデミア)も夏休み中だ。どおりで若者が多い。この暑さの中、何か分厚い本を開けて読みながら歩く黒縁めがねの少年もいたりする。

 この町で過ごすのも、悪くはないかもしれない。

 悠緋はそう思った。

 そして陳列されている野菜などを品定めしようと、通りから店内に視線を戻した、そのとき。

「――――っ」

 悪寒。

 不気味なものが、悠緋の体を走った。なんとなく、わずかにでしかなかったが、確実に何かを感じた。

 それが何なのかは悠緋には言い表せない。だが。

 悠緋は、店から出て通りを見渡した。日光の直射で頭がくらっとした。

 捉えたのは、少女の姿。

 そしてそれを取り巻く、複数の男。

 それらは通りからはずれ、どこかに向かっていた。

「なんだい、今日はいいのかい?」

「……おじさん、また後で来るよ」

 それだけ言い残して、悠緋は走った。暑さによるものなのか、悪寒からくるものなのか、汗が背を伝った。



 どうしてこんなことをしているのだろう、と思う。

 自分の感覚、それだけを頼りに走った。それ以外の思考材料はない。

 ただ、己が感覚のみを信用して。

「はぁっ……」

 通りから離れた先は、等間隔で植えられた林だった。木と木の間は間隔が広く取られていて、走りやすい。それに木が光を抑えていて、暑くはなかった。

 あの少女。

 悠緋が気になったのは、周りの男よりも、あの少女だった。離れていたから姿形などははっきりとは分からない。

 自分でも呆れるほど、分からないことばかりだ。

 だから、少しでも多くを知りたい。世界のことでも、自分のことでも、とにかく何でも――オレは何かを知りたい、得たい。

 無知だったオレでは、もういたくないから。

 今走っているのも、結局はそういうことなのだろう。放っておけない。何よりも自分のために。

 ――林を抜ける。

 というより、一歩奥のエリアへ踏み出したような感じだ。

 整備が進んでいない、薄暗い森。林というより、森。

「…………!」

 その中で、悠緋は見た。

 ソレらを。

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