表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/19

プロローグ


 轟々と燃ゆる焔が、あらゆるものを焼き尽くす。

 壁を形成していたコンクリートは圧倒的な熱量によって焼け爛れ、あまりの高温で白緑色になった炎が地面を這う。

 それは、現代に再現された地獄の様相であった。

 それは、見る者の人生に諦観と絶望を与える、業火であった。

 それは――ある、一人の男によるものであった。

 それを男と称していいのかは分からない。何故なら、それは、人間ですらないからだ(、、、、、、、、、、)

 人外にして法外、異様にして異質、人間界とは全く別の異界を巣窟とする――悪魔。

 その中でも、佇むソレは、人外中の人外の、最高位クラスの悪魔だ。

 見た目は、確かに人間のそれだろう。輝くような黒髪に、異様なまでに整った顔立ち、怜悧な双眸は、普通ではない容貌にしろ、人間であると分かる。人間のように、見える。

 ただしそれはそう見えるだけで、中身は全くの別物だ。外見でソレを判断するのは、見当違いの的外れも甚だしい。

 元からソレには、姿かたちなどという概念は通用しないのだから。

 そして、今のソレの佇まいは、人間のそれだが決定的に違っているところもあった。

 気配――の、ような。漠然としたものだが。

 漠然と、しかし判然と、分かってしまう。

 それの異様性が。

 体から滲み出る圧力のような威圧感は、どのような姿の皮を被ろうと隠しおおせるものではない。

 ソレは、口元を歪め、血色の唇を動かした。

 その口から紡がれる言葉は、なんだったのか。

 よく分からないままに、ソレは、突然と忽然と、姿を消した。

 まさしく、消えるように。

 ソレが通り過ぎ、残ったのは、白緑の焔と、地獄のような世界だ。

 ソレが通り過ぎ、残ったのは――一人の、少年だ。

 高校の詰襟は所々が焼け、ボロボロになっている。顔には濃い疲労と絶望の色。露出している部分は白緑の炎に撫でられ、赤く腫れている。激痛が体を苛む。

「くそっ……」

 四足を地面について、何とか顔を前に上げていたが、ついに力尽き倒れる。呼吸は荒く、いつ過呼吸を起こしてもおかしくないような状態だ。

「くっ……そ……」

 息の合間に放たれる言葉は、絶望を帯びていた。

 大切なものを何も守れなかった、悲しみ。自分が何も出来なかった、悔しさ。

 呪う。

 無力さを――元凶のあいつを。

「みんな――――紗桐さん――――」

 過ごした日々は、戻らない。

 世界は、逆向きに回ったりしない。

 何があろうと、何が起ころうと、関係なく進み続ける。

 どれほど楽しかったときも、いつかは終わってしまう。

 どれほど夢を見続けても、いつかは途切れてしまう。

 それは、最初から決められていることで――

 どうしようもない、ことだった。

「――――兄、貴……」

 でも。

 こんなに早く、終焉が来てしまったのは、おかしい。

 どこがおかしい? どこからがおかしい?

 決まっている――あの、悪魔のせいだ。

 ヤツの所為で、大事な友は死に、想いを寄せた少女は死に――大事な、兄が死んだ。

 オレは。

 何をすればいい?

 どうすればいい?

「……く、そっ……」

 答えはとうに出ている。

 だが、体は動かない。

 死んだように、体が自分の言うことを聞かない。実際、死にかけているのだろう。体が、心が、冷たくなっていく。氷付けにされるように、体温が奪われていく。

 腕を伸ばす。生への執着、まだ生きたいという強い願いが、限界の体を突き動かす。

 嵐のように吹き荒ぶ激情が、体をかき起こす。

「まだ、死ねない――」

 だが――

 ――その腕は、何も掴むことなく、地に堕する。

 意識も、泥沼に引き摺り下ろされるように、ずるずると、下がっていく。

 少年は、自分の非力を呪いながら、声にならない叫びを上げて、ついにその瞼を閉じた。


 新シリーズです。

 あらすじにも書いてあるとおり、不定期更新です。


 ……あまり言うことが思いつかない(汗

 詳しくは、活動報告やブログを読んでください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ