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私の脆弱な体よ

私の脆弱な体よ

力を捨て、病を迎え入れる準備を整えた

安らかな体よ

神経は張り巡らされている

捉えるために、病を、世界の闇から来たる

偉大な病を受け入れるために


父も祖父も屈強な体を持ち

肉体を酷使して子を育てた

しかし病はやってくるのだ

蓄えたどれだけの力も

世界という古井戸から湧きでる病の前には

あまりにも小さすぎる


思い出せ、痩せこけた祖父たちの最期を

あれは啓示でなかったか

受け継がれる力の、無力なさまよ

人はどうして無残にも

病に苦しみ抜いて、その上、死を恐れるのか

神経が鈍るほど、病は見えなくなる

おそらく、死の本当の姿も隠れてしまう


私の脆弱な体よ

肉を落とし、神経の露出した

生々しい感覚器官よ

光を捉えるように

四方から来る病を見つめている

そのなかに死はあるか

私の体を世界の上澄みに戻すための

轟然たる車輪の気配は?


私はここに座っている

「さあ盲目は芝居だ」と

全ての人間が合唱すれば

さしものお前も慌てるだろう

しかし今はまだ

お前の前には私しかいない


脆弱な体をむきだしにして

病を待っている

それは凝視し合うためだ

お前が目を逸らすことはあるまい

私が何かの時に

 床に花瓶が落ちた時か

 戸が勢いよく開けられた時か

 あるいは教会の鐘が鳴った時か

一瞬でもお前から気を抜いた時

静かに、光と闇が混ざり合う、

あの緊張と畏敬のように

病は私と同化する


私はサーカス小屋の天井で待つ、

勇敢なブランコ乗りのように

今にも落下しそうな死を見つめるだろう

それは私に灯を投げかけてくる

揺れる無人のブランコは

不気味な音と同じ笑みを浮かべて、

闇のなかで必死に集中している脆弱な体の私を

いつでも待っている


それは私の本当の故郷への

純粋な案内人なのだ




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