"灵魂之乡(前編)"
僕たちの祖国である天界の政情が不安定な事は、瞭然だった
この悪魔との国境帯にさえ、天からは連日、メギドの炎が降り注いで居る
それ自体の被害も甚大なものだったが、炎の蓄積で、僕たちは日に日に住む場所を喪い始めて居た
常ならば天界から理由を説明する使者が来る筈だったが、今回はそれすらが無い
生存者の中には、「神は我らを見捨てた」と考える者も増え始めて居た
当然のごとく
生存者の最終避難地であるこの洞窟には、悪魔も押し寄せた
最初の頃は武力衝突も多かったが、いつの頃からか戦闘は無くなった
生存者が、両陣営ともに傷病者だけになってしまった為だ
気が付けば、照明に燃やす松明すらが贅沢品になり、今ではこの洞窟は、傷病者の息遣い以外にはあらゆる物が喪失されたかに思えた
悪魔達の食事は、身分に相応しく最低の衛生環境だった
近頃は、この暗闇でも多少は眼が視える
鍋を覗き込むと、中には皮を剥がれた洞窟鼠が幾つも浮かんで居て、僕は吐かない様にするので精一杯だった
「また来たのか」
悪魔側の生存者代表である少年が、うんざりしたように僕を視る
「僕だって」
「こんな『鼠食べ』共のアジトなんか、好きで来てるんじゃない」
僕もうんざりと答える
こんな狂った怪物と口など本当は聞きたくないが、最早、事ここに至っては、天使だ悪魔だと言っていられる状況では無いと、僕は感じ始めて居た
「お前は」
悪魔が言い返す
「俺達が、好きでこんなもん食ってると思ってんのか」
「この『草食べ』共が」
確かに僕達も、生きるために洞窟のヘンな植物を食べて居る
そんなに違いは無いのかも知れなかった
「…………済まない、言い過ぎた」
仲間が着いてきて居ない事を確認した上で、頭を下げて謝罪する
別に言い過ぎたとは思って居ないが、争いが不毛な事は、ここ数日でかなり具体的に明らかになって居る
実際に発生した戦闘行為で、死傷者が両陣営に相当数出たためだ
「医薬品の交換について、相談が有って来た」
話を逸らす意味も兼ねて、本題に入る
相手方にとっても差し迫った課題であったらしく、意図の通りに会話は進むかに思えた
悪魔達が怯えたように一斉に、洞窟の入口に眼を向ける
視覚に頼れない洞窟暮らしのせいか、僕にも聞こえて居た
洞窟の外から少なくとも二名の、鎧を来た何者かが近付いて来て居た




