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1話  7年間の怒り

なんとなく思いついて書き始めたので設定はゆるふわです。

ここ、レヴィル王国で、私・オリヴィア・ラインネルはこの国の第二王子・ヴァリウス殿下と婚約していた。

10歳の時、子供はみんな異世界から守護霊を呼ぶ。

そして私には日本の前世の記憶があった。たしかブラックな会社で社畜になったんだっけ?多分そのまま過労死したんだろう。

で、私の守護霊は………水の大精霊ウンディーネ。

つまり最強。転生チート?

にも関わらず、婚約者が婚約破棄してきた…なんで?

王宮で開催された夜会で、どこからも談笑が響いていた。それでもその一声によって水を打ったような静けさに変わった。

「オリヴィア・ラインネル」

私の婚約者のヴァリウスが私の名前を呼んだ。婚約者に掛ける声とはかけ離れた冷たい声だった。

返事をする前に彼は続けた。

「お前との婚約を破棄する!」

一瞬、時が止まった気がした。

視線が、私に集まるのがわかる。そしてその視線はすぐに私の元婚約者に戻った。

えー………この瞬間、うちの国の第二王子は最強の切り札を捨てた事で馬鹿の烙印を押されました。パチパチパチ〜!!!

大精霊、それも水属性のとなればめちゃくちゃ国を発展させられるのですよ。水不足っていうのが無いからね?

そういう水系の災害の可能性がなくなるとなれば本当に使いやすいんですよ?

昔から干ばつの多かったこの国にとって、私の守護霊はめちゃくちゃ貢献してきたのに。

それを放棄するとなると馬鹿でしかない。

音楽も止まって談笑も中断。馬鹿のせいでデビュタントを迎えるはずだった貴族令嬢達も親の仇を見るような目で元婚約者を見ている。

まあ私が彼女たちの立場だったらぶん殴って土下座くらいさせるからね?

視線だけ動かせば周りは何言ってんだこいつの視線。それに気づいていないのは元婚約者だけだった。

「理由をお聞かせ願えますか?」

「理由?そんな物、聞かずともわかるだろう?」

「はい?全くわかりませんし、心当たりもありませんわ」

「ふん。自分の政務も自分でできない傲慢な女が。」

……王妃様と私はそろって固まった。陛下も頭痛がするのかこめかみを抑えている。

「……王妃様、今の聞こえました?」

「ええ、聞こえましたわ。ぶん殴っていいかしら?」

この馬鹿は自分の仕事を()()()()()()()()()自分は遊び呆けていたんですよ?第二王子妃教育と自分の政務にこの馬鹿の仕事さえもやっていたんだよ?ふらふらほっつき歩いて貴族令嬢に囲まれててキャッキャウフフしていたこいつの尻拭いを誰がやっていたと思ってんだよ?ぶん殴られたいのか?って思う。

やはり自分の息子が馬鹿なことを言ったのがよほどムカついたみたいで王妃様も手に持っている扇を強く握りしめて折っている。あれって護身用に鉄製でできてたよね?王妃様、どれだけお怒りなんだ…

「何を言っているんですか?」

「もちろんサリア嬢のことだ!お前は自分の政務をほったらかしてサリア嬢に押し付けていたんだろう!?だから最近は政務が滞っていると大臣から報告を受けたのだ!だから私はお前との婚約を破棄し、サリア嬢と婚約を結び直す!」

「ああ?」

もう前世のヤンキーになりかけているが、この馬鹿には怒る資格なんてこれっぽっちも無いはずだ。

「お前のような貴族としての覚悟も足りないような者に愛を持つことはできない。俺は愛のない結婚なんかお断りだ!」

「あのねぇ?」

必死に淑女の笑みを貼り付けるが口が多分引きつってるわ。

7年間だよ?7年間私はこいつの政務の尻拭いをしているんだよ?学院を卒業したからってこいつの政務も増えて手に負えないくらいになってたんだよ。ずっと我慢してきたし、王妃様主催のお茶会でたまに愚痴ってたけど、もう我慢できなくなった

すうっと深呼吸して、音が世界から消えた感覚がした。

胸の奥が、静かに、凍るように冷たくなっていく。

………………………もう、限界だった。

「私はあんたの政務もずっとやってきたんですよ?どの口でそんな戯言言ってんですか?ぶん殴られたいんですか?」

急に怒りを吐き出した私に周りはびくっとなったが、王妃様は笑顔になった。デビュタントを迎える予定だった令嬢たちもうんうんと頷いている。

「は?何を言って」

「それはこっちのセリフです。7年間。ずーっと、ずーっと、ずーっと!私は我慢して、お茶会も予定ギチギチのところに詰め込んできたんですよ?

最大で10日も徹夜しましたし、学院の宿題も、第二王子妃教育も、自分の政務も、貴族令嬢のお茶会だって主催しなきゃいけないし、出席しないと貴族の間の関係とかもあるし!あんたの言うサリア嬢への他の令嬢のヘイトを調節するお茶会も開かないとやばいし、あんたの尻拭いも全部全部やってきたんですよ!?政務が滞っている?それはお前がちゃんと仕事しねえからでしょうが!」

どんどん口調が乱れて最終的にヤンキーみたいになっちゃった?

ここまで言って、私は息を切らした。怒りに任せて喋りすぎたけれど、もう止められなかった。

誰かが息を呑む音がヤケに響き、広間はまた静寂に包まれた。

もはやこれは貴族令嬢としてバリバリアウトな口調だったけど、私が置かれていた状況を知っている王妃様の目は、

『よくぞ言ってくれた!』

とでも言いたげだ。

「そもそもサリア嬢の評判、知ってる?男爵令嬢で守護霊も平凡。なのに気安く婚約者のいる令息に名前呼びして胸を押し付ける娼婦以下って言われてんだよ?礼儀作法の授業でもダンスの授業でも、全教科赤点って学院創立以来の偉業を成し遂げたやつだよ?それを第二王子妃にとか何?私、つまりラインネル侯爵家への侮辱?私が10徹してやった仕事は全部あの娼婦以下でもやれるようなことだって!?」

「し、しかし…あの子は私に泣いて縋ってきたんだ。お前に仕事を押し付けられてるって…」

「そんな暇があるなら仕事しろ!!そんなんやる暇ないから10日間お風呂にも入らず、主食が水になるような生活やったって言ってるの!その理解力のなさは何!?国を継ぐのになんなのその考えは!」

ハァハァと息を切らしながら言いたいことを全部言い終わった私は優雅なカーテシーをした。

「もう良いです。この場を乱してしまったこと、謝罪します。私はもう婚約破棄されましたし、ラインネル侯爵家も出るので平民としてさようなら。」

そう言ってからコツコツと靴の音を派手に鳴らしながら出口の方に歩いていく。

なんか喝采が巻き起こっているんだけど…前世でも今世でもブラックな環境だったのでもう平民としてスローライフしたい私には関係のない話だ。

怒鳴り散らした後、胸の奥が少し軽くなった。

誰も私を庇ってくれなかった7年間で初めて、やっと、自分のために怒れた気がした。

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