魂等級ゼロの少年は、今日も村を守る
読んでくださりありがとうございます。
これは「魂等級ゼロ」と嘲笑された少年レンが、
静かに村で暮らしていた頃のエピソードです。
村人から恐れられながらも、
それでも誰かを救おうとするレンの“日常の一幕”。
そして──彼を遠くから“視る存在”の気配だけが、
物語に小さな影を落とします。
短いお話ですが、どうぞお楽しみください。
朝の村に、かすかな鐘の音が響いた。
畑へ向かう老人たちの声が耳に入る。
「また火が消えたらしいぞ」
「鍋を温めようとしたら、ふっと……。あれ、呪いなんじゃねぇのか?」
その視線の先に、俺がいた。
「……レンだろう。あいつの近くじゃ火は続かん」
言葉は小さいのに、胸に刺さる。
気づかないふりで歩く。
慣れたふりだけ、上手くなってしまった。
(また……吸っちゃったのか)
昨夜、家の炉の火が近すぎて、胸がじんと熱くなり、
火の中の“濃い魔力”だけが吸われて消えた。
誰も怪我してない。
でも村は違う。
「魔力を食う子」「不吉な忌子」
そんな言葉は、前世の記憶と結びついて、胸の奥に沈んでいく。
袖がちょん、と引かれた。
「レン、気にしないの」
リナが立っていた。
朝日を背にして笑うその顔だけが、俺をまっすぐに見てくれる。
「火なんてまたつければいいよ。レンは悪くない」
「……俺のせいだよ。近くにいたから」
「違うよ。みんなが勝手に怖がってるだけ」
俺が距離を取ろうとしても、リナは半歩前に出て歩幅を合わせる。
まるで壁みたいに。
(守られてるのは……俺の方だよな)
胸が少しだけ温かくなった。
そのとき。
「おい! 誰か来てくれ!!」
村の中央から叫び声が上がった。
リナが俺の手をぎゅっと握る。
「レン……!」
うなずき、駆け出した。
◆
鍛冶小屋へ駆け込むと、ギルスが炉を押さえつけていた。
炉の奥で、青白い火が暴れている。
「魔力炉が暴走した! このままじゃ爆ぜる!!」
村人が叫ぶ。
「制御できねぇのか!」
「水魔法でも冷やせねぇ!」
「近づけねぇよ! 魔力が跳ね返る!」
ギルスが必死に押さえても、火は暴れ続けている。
(あれは……だいぶ重くて、強い。吸えば止められるけど……)
一歩踏み出すと、周りの視線が突き刺さる。
「レン、お前……炉を“食う”気か!?」
「やめとけ! 何が起きるかわかんねぇ!」
(違う……助けるだけだ)
でも、足が止まる。
胸がきゅっと縮むように痛い。
そのとき。
ぎゅ。
リナが俺の手を握った。
「レン。行って。助けられるの、レンだけだよ」
その声は、まったく震えていなかった。
胸の奥で、固まっていた何かが静かにほどける。
うなずき、炉へ向かう。
「どけ!」
ギルスが振り返る。
「レン!? 危ねぇ!!」
「大丈夫。俺なら……」
青白い火が牙をむいたようにこちらへ伸びる。
バシュッ。
胸に重い感覚が走る。
濃い魔力が流れ込んでくる。
(……いける)
炉へ手を添える。
暴れていた火は、吸われるたびに静かになり、
やがて弱まり、震えも止まった。
「……止まった……?」
ギルスが息を呑む。
村人のざわめきが広がる。
「魔力が……消えた……」
「やっぱり、あいつは……」
俺は小さく息を吐いた。
(また誤解される……でも、守れた)
ぽすん。
リナが抱きついてきた。
「レン……すごいよ……ありがとう……!」
その声だけが温かかった。
ギルスも、少しして苦笑する。
「助かったよ、レン。本当に命拾いした」
それでも後ろのささやきは消えない。
「危ねぇよ……あいつ……」
「吸いすぎたらどうなるんだ……?」
言葉が胸に沈む。
(俺は……何者なんだろう)
答えは、まだわからない。
村の騒ぎが静まり、炉から立ちのぼる煙が空に溶けていく。
遠く離れた天界の片隅で、
ひとつの監視水晶がかすかに揺れた。
それを見つけた男が、息を呑む。
「……なんでだ。ゼロのはずだろ……?」
男――エルドは、水晶に映る“少年”をじっと見つめる。
恐怖か、焦りか。
本人ですら分からない感情が胸に浮かんだ。
水晶の像が消えると、
エルドの手がかすかに震えていた。
「……バレたら終わりだ……」
誰にも届かない小さな声。
この瞬間、
レンの知らぬところで“歪んだ視線”が動き始めた。
読んでいただきありがとうございました!
今回はレンの村での小さな事件回でした。
本人は相変わらず大変ですが、リナがそばにいるだけで少し救われますね。
最後に出てきた“視線”も、まだほんの小さな伏線程度です。
ゆっくり広がっていく感じで楽しんでもらえたら嬉しいです。
では、また!




