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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魂等級ゼロの少年は、今日も村を守る

作者: maruhiro

読んでくださりありがとうございます。

これは「魂等級ゼロ」と嘲笑された少年レンが、

静かに村で暮らしていた頃のエピソードです。


村人から恐れられながらも、

それでも誰かを救おうとするレンの“日常の一幕”。

そして──彼を遠くから“視る存在”の気配だけが、

物語に小さな影を落とします。


短いお話ですが、どうぞお楽しみください。




 朝の村に、かすかな鐘の音が響いた。


畑へ向かう老人たちの声が耳に入る。


「また火が消えたらしいぞ」

「鍋を温めようとしたら、ふっと……。あれ、呪いなんじゃねぇのか?」


その視線の先に、俺がいた。


「……レンだろう。あいつの近くじゃ火は続かん」


言葉は小さいのに、胸に刺さる。


気づかないふりで歩く。

慣れたふりだけ、上手くなってしまった。


(また……吸っちゃったのか)


昨夜、家の炉の火が近すぎて、胸がじんと熱くなり、

火の中の“濃い魔力”だけが吸われて消えた。


誰も怪我してない。

でも村は違う。


「魔力を食う子」「不吉な忌子」


そんな言葉は、前世の記憶と結びついて、胸の奥に沈んでいく。


袖がちょん、と引かれた。


「レン、気にしないの」


リナが立っていた。

朝日を背にして笑うその顔だけが、俺をまっすぐに見てくれる。


「火なんてまたつければいいよ。レンは悪くない」


「……俺のせいだよ。近くにいたから」


「違うよ。みんなが勝手に怖がってるだけ」


俺が距離を取ろうとしても、リナは半歩前に出て歩幅を合わせる。

まるで壁みたいに。


(守られてるのは……俺の方だよな)


胸が少しだけ温かくなった。


そのとき。


「おい! 誰か来てくれ!!」


村の中央から叫び声が上がった。


リナが俺の手をぎゅっと握る。


「レン……!」


うなずき、駆け出した。



鍛冶小屋へ駆け込むと、ギルスが炉を押さえつけていた。


炉の奥で、青白い火が暴れている。


「魔力炉が暴走した! このままじゃ爆ぜる!!」


村人が叫ぶ。


「制御できねぇのか!」

「水魔法でも冷やせねぇ!」

「近づけねぇよ! 魔力が跳ね返る!」


ギルスが必死に押さえても、火は暴れ続けている。


(あれは……だいぶ重くて、強い。吸えば止められるけど……)


一歩踏み出すと、周りの視線が突き刺さる。


「レン、お前……炉を“食う”気か!?」

「やめとけ! 何が起きるかわかんねぇ!」


(違う……助けるだけだ)


でも、足が止まる。

胸がきゅっと縮むように痛い。


そのとき。


ぎゅ。


リナが俺の手を握った。


「レン。行って。助けられるの、レンだけだよ」


その声は、まったく震えていなかった。


胸の奥で、固まっていた何かが静かにほどける。


うなずき、炉へ向かう。


「どけ!」


ギルスが振り返る。


「レン!? 危ねぇ!!」


「大丈夫。俺なら……」


青白い火が牙をむいたようにこちらへ伸びる。


バシュッ。


胸に重い感覚が走る。

濃い魔力が流れ込んでくる。


(……いける)


炉へ手を添える。


暴れていた火は、吸われるたびに静かになり、

やがて弱まり、震えも止まった。


「……止まった……?」


ギルスが息を呑む。


村人のざわめきが広がる。


「魔力が……消えた……」

「やっぱり、あいつは……」


俺は小さく息を吐いた。


(また誤解される……でも、守れた)


ぽすん。


リナが抱きついてきた。


「レン……すごいよ……ありがとう……!」


その声だけが温かかった。


ギルスも、少しして苦笑する。


「助かったよ、レン。本当に命拾いした」


それでも後ろのささやきは消えない。


「危ねぇよ……あいつ……」

「吸いすぎたらどうなるんだ……?」


言葉が胸に沈む。


(俺は……何者なんだろう)


答えは、まだわからない。





村の騒ぎが静まり、炉から立ちのぼる煙が空に溶けていく。


遠く離れた天界の片隅で、

ひとつの監視水晶がかすかに揺れた。


それを見つけた男が、息を呑む。


「……なんでだ。ゼロのはずだろ……?」


男――エルドは、水晶に映る“少年”をじっと見つめる。


恐怖か、焦りか。

本人ですら分からない感情が胸に浮かんだ。


水晶の像が消えると、

エルドの手がかすかに震えていた。


「……バレたら終わりだ……」


誰にも届かない小さな声。


この瞬間、

レンの知らぬところで“歪んだ視線”が動き始めた。


読んでいただきありがとうございました!


今回はレンの村での小さな事件回でした。

本人は相変わらず大変ですが、リナがそばにいるだけで少し救われますね。


最後に出てきた“視線”も、まだほんの小さな伏線程度です。

ゆっくり広がっていく感じで楽しんでもらえたら嬉しいです。


では、また!

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