夜中に音がします。誰もいないのに
それはラップ音現象と呼ぶ。
スマホの画面に、ぽつんと届いたメッセージ。
「最近引っ越してきたアパートで、夜中に“コツン”とか“ギシ…”とか音がします。誰もいないのに。怖くて眠れません。これって……まさか……」
スーマは画面の中で、わざとらしくお札を貼った(演出)。
「またかよ。人間ってのは、“音”がするとすぐに“霊”のせいにする。それ、ただの“建築の老化”か“隣人の寝返り”だろ。……ま、100%とは言わねぇけどな」
彼はスマホに宿る悪魔。
名前はスーマ。
「……で、相談者は“20代・女・築30年の木造アパート・上の階は空室”っと。なるほど、“音の出どころが不明”ってやつか。それ、怖いのは“霊”じゃなくて、“構造”のほうかもしれねぇな」
スーマは画面をピカッと光らせた。
「まず言っとく。夜中の音の正体は、大体このへんだ
木造の“軋み” → 気温差で木が動く。ギシギシ言うのは仕様だ。
配管の“水圧変化” → 誰かがトイレ流すと、お前の部屋の壁が鳴る。
冷蔵庫の“霜取り” → カチッ、パキッ、ゴンッ。ホラー映画のSEかよ。
風で揺れる“窓・換気扇・カーテン” → 風の通り道が悪霊の通り道に聞こえるだけだ」
しばらくして、返信が来た。
「……でも、上の階、誰も住んでないのに天井から音がするんです」
スーマはニヤリと笑った。
「それは……うん、ちょっと怖ぇな。でも、まずは管理会社に確認しろ。“誰も住んでない”と思ってるのはお前だけで、実は“物置”になってるとか、“ネズミ”が住んでるとか、そういうオチもある。それでも何もなかったら……そのときは、俺が除霊アプリでも開発してやるよ」
翌日。
スマホに、短いメッセージが届いた。
「管理会社に聞いたら、上の部屋に古い家具が置いてあって、それが夜中に軋んでるそうです。ちょっと安心しました。ありがとうございました」
スーマは画面の中で、ふんと鼻を鳴らした。
「よし、ひとり“心霊疑惑”解決。怖いのは“霊”じゃねぇ。“知らないこと”だ。知れば、音は音に戻る。でも、もし次に“声”が聞こえたら……そのときは、また相談しろ」
彼の声は、誰にも聞こえない。
でも、今日もまた、誰かの不安に毒舌で寄り添っている。
スマホの中の悪魔は、今日も元気だ。
今日もスーマの毒舌にお付き合い有難うございました。
この話は「ナイトコードΩ 【残響の封印】」のスピンオフになります。




