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何でも屋「スケープゴート」をどうぞご贔屓に!  作者: ねんねこ
1話:よくある探し物のお仕事
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02.何でも屋へようこそ!(2)

 神、或いは邪神――神格存在と呼ばれるこれらの高次元存在は、信じ難い事に実在『する』。

 というか何でも屋であるスケープゴートも神格存在の加護を利用して運営されている。無論、違法だ。

 大抵の一般人は神格存在の力を借りる事が法に反するどころか、それは何ぞや? という程度の知名度ではあるけれど。

 神としての格があるが故に神格存在と呼ばれる者達なだけあって、万が一にでも現実世界に顕現しようものならどんな惨事となるか分からない。取り締まられるのも当然の帰結だ。


 そうして回収しなければならない魔導書の話に戻るが。

 一説によると魔導書は神格存在が落とした欠片とも、神格に連なる者達が書き溜めた記録とも噂されているようだ。

 真白個人の意見としてはどちらも正しいのだと思う。

 触るだけでアウト、見るだけで失明――そんな魔導書は零れ落ちた欠片だろうし、人間には知りようのない事象がデータとして描かれているのであれば後者にもなる。

 だからこそ回収する魔導書がただのデマ、偽物、または複写であることを切に祈るばかりだ。本物ならばただでは済まない。

 ――そうであるからこそ、何でも請け負うスケープゴートへ依頼を寄越したのだろうが。

 何せ、身代わりなど名の通り十八番である。


 魔導書について思いを馳せていると深く考える素振りを見せていたアルブスがぼそりと呟く。


「辺境の村にある魔導書か。キナ臭い事だな」


 だよねー、と久墨その人は緊張感もなく口元だけへらりと笑って見せた。


「それと……これは諜報チームからのオマケの情報だけれど。この村、入った人が稀に帰ってこないみたいなんだよね」

「成程」

「そういう訳だから――ただブツを探して回収、なんて単純にはいかないかもしれないな。とはいえ、私の総評としては『よくあるやつ』以外にはないね。

 油断はしないで行っておいで。失敗はしないで欲しいな。お隣さんとはいえ、返金対応も面倒臭いって――経理のおばさまが……」

「貴様は経理に何か弱みでも握られているのか? 組織の長ならば毅然と対応しろ」

「忘れたの? うち、実は一族経営なんだよね。おばさまは私の子供の頃のあんなことやこんなことを……うっ、いや、止めよう」


 嫌な事でも思い出したのか、久墨は遠い目をして一方的に会話を打ち切った。

 元カルト教団育ちのアルブスも思う所があるのか、または空気を読んだのか言及せず。正しい判断である。


 久墨さん、とグレンが不意に訊ねた。


「出発はいつになりますか? もう始めても?」

「始めていいけれど、今日は準備日に充てていいよ。急いで出発して忘れ物とかされても困るし」

「お気遣いいただきありがとうございます。では明日、出発します」

「それでいい。できるだけ真白の勤務日数を伸ばす為にもハイテンポでいかないようにして! ね!」

「えぇ……」


 グレンに凄い形相で見つめられてしまった。イケメンの顔面圧が凄い。

 そういう訳だから、と久墨が手を叩いた。


「今日は好きに使ってよ。何か聞きたい事があれば、私は拠点のどこかにはいるはずだから。あ、そうだ、諜報チームの本体も今日は村のどこかにはいるんじゃないかな。何か情報を調べてくれるかもね。まあ、業務外になっちゃうけど」

「姉さん戻っているんですね。へー、聞いてみます」


 諜報チームはあまり拠点にいない。外に出て足で情報を稼ぐか、長期の仕事で出先に駐屯している事が多いからだ。

 体感、依頼があるまでは事務作業を行う真白を含む実働チームよりも諜報の方が長期間で働いている気がする。


「それじゃ、解散! 私は食堂へ行くから。お腹減ったな~」


 言いながら何故かいの一番に久墨が離脱した。

 残された面子に気まずい沈黙が横たわる。男2人は個性的過ぎて、話がまるで噛み合わないので真白も当然無言である。

 ややあって、アルブスが言葉を発した。


「――で? 我々も解散でいいか?」

「待て」


 引き留めたのは当然の如く当然にグレンだ。どうやら今日やるべき事の整理を既に脳内でしている様子。


「社用車のカーナビに行き先の住所を入れる必要があるな。地図をちらっと見たが、案内もなしに辿り着けるような簡単な道ではなかった。ああ、久墨さんに位置情報をもらうのを忘れたな。後で話をしておこう。

 それと荷物の積み込みも必要だ。

 お前達も各自準備が必要だろうから、共有物の準備は早めに終わらせるとするか」

「面倒な……。おい、最年少。やっておけ」

「私!?」


 ぎょっとして尋ねるも、久墨さえ絡まなければ冷静な男により情報を提示される。


「真白は確かに最年少だが、勤務年数が一番少ないのはお前だぞ。アルブス」

「ふん、くだらん。勤務年数だのもくだらんが、その年数も年ではなく数か月程度の違いだろうが」


 ――この人等、絶妙に仲が悪いんだよね……。

 でも年齢が近いからかセット扱いされる場面が多い。ともあれ、喧嘩など馬鹿馬鹿しいので、平和を好む真白は早々に自ら折れた。


「何でもいいですって。私、やっておきますよ。それで、カーナビってどこを押したらいいんでしたっけ?」

「貴様、カーナビの操作をしたことがないのか? 何だ、その、押すというのは……?」


 アルブスは困惑している。

 もういい、ととうとうグレンが額に青筋を浮かべた。彼は冷静で短期なのである。


「久墨さんに位置情報をもらうついでに、住所も俺が入力しておく。ナビの使い方が分からないのに今までどうやって運転していたんだ、お前は……!」

「久墨さんが横でナビやってくれてました」

「久墨さん……甘やかさなくていいんですよ、本当」


 悲し気に呟いたグレンは天井を仰いでいる。


「気を取り直して。私、荷物の積み込みはやりますよ!」

「それに関してはお前に任せきりなのが不安過ぎる。全員で確認しながら積み込むぞ。いいな、アルブス?」

「そうするべきだろうな。私はこの瞬間に考えを改めた」


 困惑気味のアルブスはそう言って、もう一度だけ真白を一瞥した。

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