15.収穫祭(3)
全力疾走で教会の外へ飛び出した。
飛び出したはいいが――警備員の大声が良くなかったのか、わらわらと人が集まってきている。
「振り切れるか……!?」
やはりカルト教団により乗っ取られた村だからか、既に空気が不穏。何より当然の如く村人達は武器替わりの諸々を手に持っていた。
ある者はクワを、ある者は台所から持ってきた包丁、またある者は草刈り用の鎌――実に多種多様だが、どれもこれも人に向けるものではない。さっきの鉈は拾っておくべきだったと、手際の悪さに溜息が出る。
掠っただけで怪我になる刃物類を持たない村人にタックルをお見舞いし、そこを一点集中で駆け抜ける。
単純だがこれしかない。魔導書で片手が塞がっているのも地味に戦闘を躊躇わせる原因となっている。
「――……!」
村人達がアルブスに気を取られる中、見知った顔を発見する。
言わずもがな、村長の見張りを言い渡されていた真白だが、近くに彼女の姿はあっても村長はいない。見つけられなかったのかもしれない。
当然、こちらの状況に気付いている真白がハンドサイン――ハンドサインを送って来るが、何を伝えたいのかさっぱり分からない。見た事のない身振り手振りである。
「旅の方。その本は我々の大変大切にしているものです。どうぞ、お返しください」
魔導書を傷付けない為か、圧を放ちながらも武力行使に積極的ではない村人達がそう言ってにじり寄って来る。ただそれより、完全に群衆に紛れ込んでいる真白の方が気掛かり――
と、その彼女は肩掛けカバンをそうっと手に取った。袈裟懸けにされていた紐を素早く目の前にいた村人の首に引っ掛ける。まるで鶏でも絞めるかのような気安さと早業で一人を昏倒させた。
更にその次に狙いを定めるのを見て、何がしたかったのかを理解する。
その一部だけ手薄になった包囲網を抜けろと誘導しているのだろう。人畜無害そうな見た目と空気でよくやる。
「――ああ、分かった。返そう。その物騒な物をこちらへ向けるな」
寄って来た村人に魔導書を差し出す――これに何度引っ掛かるんだとも思うが、人間は出された物を何故か受け取ってしまう性質があるのかもしれない。
なるべく距離を詰めないようにとギリギリの間合いに立った村人へ魔導書を渡す――訳もなく、素早く身を沈めて足払いを繰り出した。彼等は恐らく素人なのだろう。あっさりすっころんだのでそれを飛び越え、真白目掛けてダッシュする。
「逃げたぞ! 警備員は何をやっているんだ!?」
「アンタ等がそこで固まってるから、撃てないんだって。退け、つってるんだから気付けよ!」
背後から聞こえたのは警備員の声だが、流れ弾を気にして発砲できなかったらしい。後ろから羽交い絞めにしていればいいものを、体術はド素人か? そうであったとしても、この村人包囲網を抜ければ間違いなく撃ってくる。素人が使っても強いのが銃火器なのだから。
「アルブスさん、グレンさんを拾ってさっさと逃げましょう」
「そうしたいところだが、警備員の足止めをする。拳銃を持っているからな。魔導書はお前が運べ」
「ええ!? 私が囮やりましょうか?」
「いい」
「そうですか?」
八木真白――スケープゴート経営一族の血を継ぐ者。
心中を見透かすような目をした彼女はしかし、アルブスのちょっとした逃避に気付かないふりをして魔導書を受け取り、かなりあっさりと背を向けて走り出した。
二度目、乾いた破裂音が響く。
今度は外さなかったらしく、警備員が撃ち出した銃弾が左腕を掠った。掠っただけでも相当な威力だ。一瞬だけ血が飛沫き、シャツを赤く染め上げる。
「リーダーさん。魔導書は女性が持って逃げました」
「ああ、見えている。だが――」
村人側の話し合いを待つつもりはない。真白を追うべきか迷っている様子だった、目の前の一人からクワを奪い取った。全員が鈍器ないし刃物類を持っているので手ぶらではどうしようも出来ないからだ。
苛ついている様子の警備リーダーと目が合う。
「持って行ったのは見えているけど、こいつを先にどうにかするべきだ。何をしでかすか分からない」
「でも……」
「誰でもいいから彼女を見つけ次第捕らえるように連絡してくれ。ここにいる人間だけで対処する必要もない」
それを聞いた旅人の何人かが離脱する。やはりこの警備員に自由行動させてはいけないと認識を新たにした。彼は多少なり頭が切れるようだ。足止めしておくに越した事は無い。




