13.収穫祭(1)
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一夜明けた早朝。
結局、一人ずつ交代で仮眠を取り何とか生きて朝日を拝む事が出来たのは僥倖だった。電気をずっとつけていたので返り討ちを警戒した村人が乗り込んで来なかったのか、それとも最初から寝静まった深夜には何もする気がなかったのか。確かめる術はない。
ともあれ、真白は眠い目を擦りながら本日の打ち合わせに参加していた。今日は大忙しになるだろう。
酷くピリついた空気を放っているグレンが一番に口を開く。
今回は彼の指示に従うのが安全なので異論はない。むしろ仕切ってもらって有難いばかりだ。
「昨日話した通り、運搬時を狙う。周囲に村人が少ないのなら特攻して奪い取ってもいい。荒事になる前提で話をしているが、穏便に譲ってもらえそうならばそれでもいいぞ。……そうはならないだろうがな」
「承知した。手分けをするぞ。真白も銃器を持っているのだから単独行動で構わんな?」
「はいはーい」
手分けとはいえ、重要な位置の配置にはアルブスかグレンが着くだろう。ちょっとした他人事状態で話に耳を傾ける。
「お前達が仮眠を取っている間に考えたが、俺は祭の中心地で待機しよう」
「水際にはお前が行くのか? グレン。そこまで魔導書を運搬されれば終わったようなものだが……」
「構わない。そこまで運ばれたら俺が軌道修正する」
「出来るのならば構わんが。それで? 私と真白をどこに配置する?」
「アルブスは教会内、或いは周囲にいてくれ。真白は村長にベタ付きだ。お前だけが唯一まともな武器を持っているからな」
――即ち、運び手が村長か建前上のシスターになるから、人を抑えておくという訳か。
最悪、銃器を持つ真白であれば村長が魔導書を手にした瞬間、強硬に及べるという腹積もりなのである。
今更そんな事に腰が引けたりはしないけれど、ただ――
「私に重要な仕事を任せて大丈夫ですか? 白黒ヤギの呪いなのか知りませんが、かなり運に見放されてますよ。私」
肝心な所でよく分からない不幸に見舞われるのは最早体質である。しかも自分で言うのも恥ずかしいが職員としてのスペックも劣るので、不幸をリカバリーする力がない。が、ここでもグレンは安定してグレンだった。
「久墨さんから真白へ降りかかる不幸はどこのポジションに付けても関係なく発生すると言われている。だから気にせず配備する」
「えぇ……」
「お前――まさか、久墨さんの言葉を疑っているのか?」
「言葉っていうか、頭大丈夫かを疑っていますね……」
当然の如く憤慨しだしたグレンを一度無視する。
どのみちグレンのポジションに変更されるのも困る。村長に付き纏うのが一番ベターと言われればそうなのだし。
そして意外にもアルブスが納得の意を見せる。
「久墨の言動については信頼に足らぬが……。神の信奉者としての意見であれば、真白のそれは必然である。我々はご都合に見放される定めを背負っているからな」
「そうなのか? 正直、神格存在には興味が無い」
「ハァ……。貴様等はこう……まあいい。得体の知れぬモノの力を借り受けるというのは、相応のデメリットも許容しなければならないという単純な話だ」
話が逸れて来たので、話題を元へ戻すべく真白は声を上げた。
「何時くらいに出発します?」
「もう少ししてからだな。早くに行動を始めると不審がられそうだ」
「今更のような気もしますけどね」
何も気づいていないアホな観光客をあくまで装うという訳か。
昨日はずっと明かりがついていた、などと言われたらトランプしていたら白熱したバトルに発展したとでも言っておこう。あながち間違いでもない。
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時間になった。
堂々と民宿の正面から外へ繰り出したグレンはそれとなく周囲の様子を伺う。やはり小さな村なので祭事は村の中央で行うらしい。
中央以外の様子は昨日とまるで変わりがない。
小さな噴水を有する中央の広場らしき場所では着々と収穫祭の準備が進んでいた。
――簡易祭壇でも作っているのか……?
長机などではない仰々しいテーブル。石造りなので運ぶのに苦労しているのが遠目でも分かる。禍々しい祭具はどこかで見たようなものばかりだ。「 」は重要なアイテム類を創造したという話も聞かないので見様見真似の代物なのだろう。
一応確認してみたが、魔導書はやはりまで持ち込まれていない。アルブスと真白に託すしかないようだ。
「旅の方? すみません、他の2人はどこへ行かれたかご存じないですか?」
村人の女性に話しかけられる。初めて見る顔だが、それはこの際どうだっていい。
あからさまに残りの観光客を捜している様子に目を細めた。
「朝から散歩だと言って、村を散策しに行きましたよ。連絡しましょうか?」
「村の中にいるのですね?」
「ええ。……おや、ここは圏外になってしまいますね」
スマホが使えない事は織り込み済みだ。村人の言葉を普通に受け止め、疑いもなく仲間と連絡を取ろうとした演出である。
その様子を見ていたからか、女はいえいえ、と頭を振った。
「いらっしゃるのならばいいのです。ごゆっくりどうぞ」
そそくさと踵を返していった女の背を見送る。
収穫祭とは思えない緊張感を纏っているのがすぐに分かった。やはり恐ろしい儀式の隠語だったか、収穫祭。




