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何でも屋「スケープゴート」をどうぞご贔屓に!  作者: ねんねこ
1話:よくある探し物のお仕事
10/10

10.午後の探索(2)

 ***


 自らの意志で教会の下調べを買って出たグレンは早速シスターに接触していた。

 そして真白の報告には無かったが、この人物はシスターなどではないのだろうなと当たりを付ける。

 教会番だとか、管理人だとかそういった類の人物だろう。

 神への敬意が足りないというか、ただそこにいるだけ。よく見れば化粧も濃く、服の丈も短めで規定で定められたものではないのが伺える。ベールから髪が出ているのも減点。本職はそのようなだらしなさを許さない。

 ――その方が好都合だから問題ないが。


 まず見える範囲に魔導書は無い。保管はきちんとしている。

 真白の報告通り、あるなら教会の裏。ただしそこは関係者以外立ち入り禁止だろう。入ろうとすれば武装した警備員が乗り込んでくるのは想像に難くない。


「――あなたも祈りを捧げに来たのですか?」


 話しかけて来たシスターに笑みを手向ける。この時点で顔を赤くしたり、何らかのアクションを見せる女性にはこの顔面がよく効くのだと知っている。

 案の定、やはりシスターでも何でもないその女性は少しばかり頬を赤くしてみせた。


「こんにちは。いえ、俺は教会を見にきたのです。何でも新しく建てられたとか」

「ええ。新しい教会なんですよ、ここは。……こういった施設にご興味が?」


 世間話から本題へそれとなく持って行く。それが聞き込みのコツだ。知りたがると、脛に傷がある者達は途端に警戒するのだから必須技能だったりする。

 教会から宗教、果てには魔導書に話の流れさせる為、頭をフル回転させながらシスターの問いに応じる。


「そうですね。同僚の2人にはあまり理解してもらえませんが――実はこういった教会だとかに纏わるあれこれを研究していて。本当はパワースポットについては、俺はあまり興味が無いのです」

「へ、え……? それは趣味が合わずお辛いでしょうね。わたくしでよければお話を聞かせてください。こう見えても聖職者、シスターですから」


 食いついて来た。彼女は表情に出やすいので助かる。

 一見仲の良さそうな同僚との不和を伝える事により、生じた隙に付け込む――ように誘導する手だ。特にデリカシーが無さそうに見える真白が一緒にいると通じやすい。あの小娘より私の方があなたの事が分かります、という心理が働いているようだ。

 真白の相手の警戒心を馬鹿馬鹿しくし、うだつの上がらない娘のように見せる才能は本物だ。あれで荒事に慣れているので、そんなに簡単にどうにか出来るような女でもない訳だが。


「いいのですか? 俺の話なんて、つまらないかもしれませんが」

「はい。あなたのお力になりたいのです」

「この歳になって気付いたのですが……稀に変わった教会があるのです。見た事のない生物の像が置いてあったり、よく分からない聖堂入室のルールがあったり、どこからともなく低く囁くような声が聞こえてきたり――」

「怖い話をしようとしています?」

「ああいえ、そういうつもりはないのですが。その……そういう、少しゾッとする不思議な物に惹かれる性分を持っているのです」

「ゾッとする、不思議なもの」

「はい。こんな事を言うと同僚達には引かれてしまいますから――秘密にしておいてくださいね」

「ええ。ええ、勿論です」


 それで、と本題へ入れるように世間話の道筋を舗装する。


「不思議な物なら何でも構わないのです。座ったら死ぬ椅子でも、物を食べる金庫なんかでも。この世ならざる場所から来た本とかも良いですね。何か不思議なお話、物を知りませんか? フィクションではなく、実在している物が望ましいです」

「……本……」


 心当たりがあるはずだ。

 案の定、シスターはやや葛藤しているように見えた。しかし、彼女は意外にも豪胆だったらしい。


「……わたくしも一つ不思議な本の話を知っています。もう少しこちらへ寄って? 村の方達に聞かれると、わたくしが叱られてしまうので」

「はい。楽しみですね、どんなお話が聞けるのか」


 シスターが予想していたであろう距離よりも更に近づく。

 こういうのは不意打ちが良いのだ。うっとりと目を細めたシスターは楽し気に語り始めた。


「実は。この村には神から落ちたる欠片と言われる――魔導書があるのです」

「魔導書?」

「ええ。我々には何が書いてあるのかは読めません。どの言語にも一致しない、特殊な文字で何事かが書かれた書物です」

「そんなものがこの村にあるのですか? 是非、見てみたいものですね」

「見てみたい……。うーん、そうですね……わたくしには持ち出す権限がありませんので。流石に実物をお見せする事は出来ないかと」

「そうですか……非常に残念です」

「あ! あ、でも、その……明日の収穫祭になら一瞬だけ持ち出されるはずです。その時になら遠目で見られるかと」


 ――そうだろうな。さあ、保管場所はどこだろうか。

 教会の出入り口が1カ所だけなら、教会裏から魔導書を持ってきた人物を襲撃するのが確実だが、地下通路などがあれば話は変わって来る。


「やはり厳重に保管されているのですね。世にも珍しい――その、魔導書とやらは」

「はい。あの、こんなお話をしたのは私ですが、勝手に持ち出したりなどはしないで……ください、ね? 教会で厳重に管理していますし、近付く方がいたら警備員に何をされるか分かりません。安全の為にもご理解いただけますように」


 教会にあるのは確かという情報があっさり手に入った。口が軽すぎる、この女。

 しかし、ここで時間切れか。村人の一人が教会内へ入って来た為、シスターが慌ててグレンから離れる。


「あっ、仕事へ戻らなければ」

「ええ。貴重な情報をありがとうございました。明日の収穫祭、楽しみにしています」

「ええ、是非。その時にでも見てください」


 やはり祭開催直前に奪取が安パイのような気がしてならない。

 こういった収穫祭――否、まず間違いなく儀式――は始まってからでは遅いのだ。五体満足の状態で祭りを迎えられるかがまず分からない。逃走防止に両足をへし折られた状態で強制参加の可能性だってあるのだから。


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