第43話。師と弟子の誕……お姉ちゃんが怒ったー!
前回までの話では、ホワイト達は商人ギルドへと向かうが、追い返される。後ほど出向く事になった。そして帰り道に、とあるお店に寄る。
今日の朝食は豪華な朝食であった。
朝食を終えた一行は宿屋の部屋に戻っていた。時刻は午前8時半を過ぎていた。久しぶりにケーキとクッキーを口にしたユリアは上機嫌だった。
そのとき、隣の部屋からかすかな声が聞こえてきた。ユリアは壁に耳を近づけ、注意深く聞き耳を立てた。
それを見たレオが小声で尋ねる。「お姉ちゃん、何してるの?」ユリアは人差し指を唇に当て、「シッ」と静かにするよう合図を送った。
隣の男性陣の部屋では、大人たちが集まり、何事かについて話し合っていた。ユリアはその内容を聞き取ろうとしていたのだ。
ホワイト「では、セリナ御婦人、ユリア姫の指導を頼みたい」
セリナ「私でよろしいのでしょうか、ホワイト様……」
ミランダ「あたいはセリナが適任だと思う」
サム「確かに、教育や家事、礼儀作法を教えるなら、セリナ姉さんが最適だ」
ジェイコブ「うむ、わしも賛成じゃ」
ホワイト「それでは、ユリア姫の師匠はセリナ御婦人に決定だ」
隣の部屋でこの会話を耳にしたユリアは、込み上げる感情を抑えきれなかった。
ユリアは心の中でつぶやく。
「私が弟子だなんて!ありえない!」
「かつては多くの弟子を持っていた私が……その私が!」
ユリアにはプライドがあった。
怒りが頂点に達し、彼女はレオに向かって叫んだ。
ユリア「もうお別れよ!私は一人でやっていけるわ!」
レオ「お、お姉ちゃん!?どうしたの!?」
ユリア「子供のあんたには分からないのよ!」
怒り心頭のユリアは、勢いよく扉を開け、どこかへ出て行ってしまった。レオは慌てて隣の男性陣の部屋に駆け込んだ。突然のことに部屋にいた全員が驚いた。
レオ「お母さん!お姉ちゃんが怒って出て行っちゃったー!」
ホワイト「なんだと?どこへ行った!?」
サム「隣で会話を聞いていたのか!?」
ジェイコブ「この宿屋の壁が薄いからのう」
ミランダ「まったく、情緒不安定だね!」
セリナ「私が探してきます!」
ジェイコブ「待つのじゃ、セリナ!」
ホワイト「心と体が一致していないのかもしれん。確か、元の世界では大人だったと聞いているな?」
サム「はい、それを『転移』と呼んでいました。転移にはさまざまな現象があるみたいです」
セリナ「今はそんな話はどうでもいいんです!」
セリナはそう言うと、追いかけるために部屋を出ていく。そして、独り言のように呟く。「私は一人でも探しに行きますよ、ユリア様!」
ミランダ「セリナ、待ちなよ!」
レオ「え、お母さん! 僕を置いていくの!」
ジェイコブ「待つのじゃ、レオよ」
ホワイト「ミランダも待て。我々にはやるべきことがある」
ホワイトは落ち着いた態度を崩さなかった。ユリア姫の事も気になるが、物資の補給と商人ギルドへの訪問が控えている。
この訪問を逃せば、商人ギルドへの加入は「永遠に」実現しないと彼は確信していた。
ホワイトは闘技場での戦いを通じて痛感していた。傭兵稼業だけでは金貨はおろか銀貨すら手に入らない可能性があることを。
幸い闘技場の時は、あのジャンヌに助けられたが。もしも、ジャンヌに恵んでもらえてなければ。
ホワイトは背筋が寒くなるのを感じ、ゾッとした。すぐに現実に戻る。
ホワイト「とにかく、各自、担当の役割を果たそう」
ミランダ「わ、わかったよ」
サム「了解しました、ホワイト様」
ジェイコブ「わしとレオは留守番じゃな」
レオ「え〜、僕もお姉ちゃんを探しに行きたいよ!」
ホワイトはサムの言葉を思い返す「待てよ…転移にはさまざまな現象が伴うと言っていたな?」
「あの妖艶な女性も転移したなら、同じように転移した人間が他にもいるのではないか?」
ホワイトは心の中で考える。「この世界には、すでに組織的な集団が存在しているのではないか?」
そのとき、あの記憶が蘇る。あの妖艶な女性の姿が。再び背筋が寒くなり、ゾッとする。まるで背中に誰かの指が触れたような感覚に襲われる。
ホワイトは自分を戒める「いかん、余計なことを思い出してしまった。忘れよう」
次回、第44話。弟子は師匠に甘えても良いのです。




