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8.奇妙な帽子屋

【ROWDY TEA PARTY】

 開催を週末に控えたギルド対抗型のイベントだ。

 上位入賞にはゲーム内クレジットを始めとした様々な賞品が与えられるのはもちろんのこと、上位陣が集うイベントはテレビやネットでもライブ中継されるため、否が応にもプレイヤーや一般人の目に留まる。

 とりわけイベント毎に目を光らせるのは企業である。


「あたしらの名前を売る絶好の機会。結果を残せばそれだけ企業から声を掛けられる可能性も増える」

「私たちのような新参のプレイヤーが注目してもらうには、勝つ以外にあり得ません」


 それはすなわち、自社の看板を背負うに相応しいプレイヤーの選出。

 早い話がプロへのスカウトである。


「プロ入りすれば誰も文句は言わない。てか言わせない。あたしは絶対プロになる」

「プロにしては華がありませんが」

「黙ってろ枯れ枝」

「ファ◯ク」

「二人ともお口悪いよ」

「……コホン。ここまでは順調に名を上げてきましたが、イベントの優勝ともなると用意はいくらしても足りません。残り数日、出来うる限りのことをしておきましょう」

「装備はみんな新しくしたけどね」


 屍龍カンタレラドラゴンの素材を用いて作ったシリーズもの。

 随所にデザインの違いこそあれど性能は同等だ。


「カッコいいよねこの装備。みんなお揃いなのもなんか嬉しいよ」

「ゆーて初心者装備がちょっとよくなったくらいだけどね」

「現時点で揃えられるものにしては上等です。性能も私たちに合っていますし」

「そうそう。やっぱりゲームは楽しまなくちゃ」

「それくらいの軽い心構えの方が、変に気負いしなくて良さそうですね」


 街角のカフェで談笑していると、


「いいぞ【ナイトオブラウンズ】!」

「fooooo!」

「ロロちゃーーん!」

 

 遠くの方から賑やかな音楽と歓声が届いた。


「なんだろ?」

「【ナイトオブラウンズ】の野外ライブでしょう。あそこは音楽に力を入れているギルドですから。噂では最近新人が入って、それがまた人気を博しているのだとか」

「んなことより、そろそろどっか潜らん? 次のイベってギルド対抗型じゃん。連携とか見直そーぜ」

「うちはほとんど個人技で押すスタイルですが、たしかに連携が必須になることもあるでしょう。如何ですか、アリスさん」

「ココアちゃんの言うとおりだね。みんなで戦った方が強いし楽しいもん。よーしっ、ダンジョンにレッツゴー。おーっ」


 そう意気込んで数時間。

 

「ざっけんなシズク! 今あたしが攻撃するタイミングだっただろーが!」

「あなたこそ邪魔です! なんでわざわざ私の射線に被るんですか! もっと周りを見なさい!」

「スナイパーなら下がってろめんどくせーなぁ! なんでAGI無いくせにしゃしゃってんだ!」

「あなたがトロくさいのが悪いんです!」

「あーはいはい萎えた萎えた! やってられっかよマジでよー!」

「こっちのセリフです!」

「「ふんっ!!」」

「なんでこうなるのぉ……」


 二人の仲の悪さにより断念。

 我が強い以上に馬が合わないココアとシズクである。






 

 そんなことがあって喧嘩別れのようにログアウトした二人。

 アリスは寂しく街を行った。

 特に目的は無い。

 強いて言うなら、何か有益なスキルがあるかどうかといったところだ。


 攻略サイトにはレアなスキル、武器などの情報が多く出回っているが、どれもピンとこず、こうしてショップを渡り歩いているところ。

 しかしショップはあくまで流通しているレベルのスクロールしか取り扱っていない。

 実用的だが実戦的かと言われると、少し考えてしまう。


「うーん、いいスキルはやっぱり高いなぁ」


 ショップは大型店から個人経営店まで大小様々。

 その全てを網羅しているプレイヤーはいない。

 そのため、


「あー! 【闇魔法】のスキル売ってる!」


 このように誰も通わないようなところには掘り出し物があったりする。


「初めて見た。五百万ゴールド……さすがに高いけど、いいなぁ〜。アイテム売ったら足りないかな……。そういえば【大賢者】って売ったらいくらくらいに……ぶふっ?!!」


 ふと過ぎった考えのまま操作すると、ウィンドウに向かって吹き出した。


「一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億……さんじゅっ?!」


 店番のNPC以外に誰もいないが、慌てて口を押さえる。

 その金額、前代未聞の三十億ゴールド。

 レア装備一式どころか店を丸ごと買ってもお釣りが出るほどだ。


「NEOの換金率ってどのくらいだっけ……?」


 ときに、NEVER END ONLINEが人気を博した理由の一つが、ゲーム内クレジットの換金サービスである。

 口座番号を含む個人情報を登録することで、ゲーム内で得たゴールドを現実世界で換金出来るというものだ。

 そのためNEOは年齢制限を設け、個人情報漏洩を始めとしたセキュリティ面の強化に特に力を入れている。

 さらにNEOの創始者Project Stormは各業態とサービスを提携。

 世界的広告企業やメディアなどあらゆる分野の業界団体から厚い支援を受けることで、このシステムを実現している。

 それら全てが、NEOにおける絶対の信頼の証というわけだ。

 ちなみに市場(しじょう)で都度株価の変動はあるが、大まかな換金率が百ゴールドにつき一円弱。

 つまり、およそ三千万。


「あばばばば……!」


 アリスは泡を吹いて背中から倒れた。








 さすがに手放す気にはならず、その後もぶらぶらと街を練り歩くアリス。

 やがて大通りから人気のない路地裏を奥へ奥へと。

 しばらくして、アリスの目に鉄の看板が留まった。

 ウサギと帽子とトランプ、それから店の名前が彫られている。


「【おかしな帽子屋】……?」


 奇しくも自分と関連づいた名前に何かしらの出逢いを覚えたアリスは、その店へと足を踏み入れた。

 扉を開けると来客用のベルが鳴る。

 店の中は帽子屋とは名ばかりの、騒がしいくらいのアイテムの山。

 一階も、梯子を上った先の二階も同じ。

 ランプの火が怪しく灯り、古ぼけたレコードがかかっている。


「こ、こんにちは……」


 恐る恐る店の奥へと進んでいくと、ギシギシとゆっくり何かが軋む音。

 意を決して向かった先では、ロッキングチェアが揺れていた。

 本を片手に腰掛けているのはウサギ耳のシルクハットを被った青年。

 モノクルを掛け、貴族のようなフォーマルな格好をしている。


「こんにちは……あの……」

「……ん。ああ、お客さんか。すまない、本を読んでいて気付かなかった」

「ゴ、ゴメンなさい。もしかして勝手に入っちゃいけませんでしたか……?」

「構わない」


 青年は立ち上がると、高い背を大仰に一礼した。


「ようこそ【おかしな帽子屋】へ。店主のシロウサギだ」


 シロウサギという可愛い名前にアリスはおかしくなった。


「私はアリスです。はじめまして」

「アリス……そうか、おもしろい偶然だ」


 シロウサギもおかしそうに笑った。


「ここはアイテムを売ってるお店なんですか?」

「ああ。おれの店だ。帽子屋は洒落っ気でつけた。運がいい。この店は気が向いたときにしかやらないんだ」

「そうなんですか?」


 白ウサギは、自分が手に入れた珍しいアイテムを売っていると言う。


「営利目的ではなく、ただの趣味でやってる店だからな」

「へえ……。あの、見ていってもいいですか?」

「ああ。好きなだけ。必ずしも望むものがあるとは限らないが」


 アリスは手当り次第に目についたものを確認していった。

 見たことのないスキル、入手困難なアイテムなどが様々だ。


「どんなものを求める?」


 棚を物色しながら質問に返す。


「んー……あったらいいなって思うのは魔法系のスキルなんですけど」

「魔法習得に必須なNPCはランダム出現だからな。ガチャを回せば習得アイテムも排出するが、確率はかなり低い。ほとんど運営の悪ふざけだ」

「アハハ、ですよね」

「代わりと言っては何だが、一つ面白いスキルがある」

「面白いスキル?」


 シロウサギが指を振ると、二階の棚から技能結晶(スキルマテリアル)が浮いてきた。


 シロウサギはそれを手繰り引き寄せると、


「アリス、おれとゲームをしないか」


 子どもめいた悪戯心でそう持ちかけた。


「ゲーム?」

「難しく考えなくていい。おれに勝てばこのスキルをお前にやるよ。負ければ残念、お帰りをだ」


 言いつつ取り出したのは金のコイン。

 指で弾いて手を空中で交差。どちらの手にコインがあるかを当てる、至極単純なゲームだ。

 やるか?とコインを握った左手を開く。


「やります!」

「一度きりだ」


 コインを高く弾き手を交差。

 先ほどよりも速いにも関わらず、アリスの目は動きを完全に追っていた。


(小手先のテクニックは無意味か)


 少し口角を上げると、握った手をアリスの前に差し出した。


「さあ、コインはどっちだ?」

「どっちにも無い、ですよね?」


 即答。


「何故そう思った?」

「手に握る前までは見えたけど、コインを握ろうとした瞬間に消えた……ように見えたから?」


 イマイチ自信なさげなアリスだが、シロウサギは満足げに両手を開いた。

 アリスが言ったとおり手にコインは握られておらず、したり顔で内ポケットに手を入れコインを取り出した。


「いい目をしている。すまないな、ズルをした」

「スキルですか?」

「ああ。おれは奇術師だからな」

「奇術師」

「まあ、それはいい。約束どおりスキルを渡そう」


 と、シロウサギは技能結晶(スキルマテリアル)をアリスに譲渡した。


「それと、これはズルをしたお詫びに」

 

 手渡されたのは意匠が施された薄紫色の水晶だ。


「こ、これって【闇の紫宝玉】! ガチャからしか出ない【闇魔法】習得用の超レアアイテム! ほ、本当にいいんですか?!」

「ああ。ストレージで腐らせておくのももったいない。お前なら上手く使えそうだしな」 

「ありがとうございます、シロウサギさん!」

「シロでいい。お前とは仲良くなれそうだ」


 これがアリスと、【おかしな帽子屋】と奇妙なウサギ耳の最初の出逢いとなった。


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