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6.可能性の種

 【屍龍の洞窟】。

 初心者が挑戦可能なダンジョンの中では最も高難度で、初心者殺しとして名高いダンジョンでもある。

 毒の攻撃を繰り出すモンスターが多く出現するだけでなく、毒の沼やそれにちなんだ罠がそこかしこに点在し、そこから立ち上る毒素がプレイヤーの体力を蝕み続ける。

 そのため毒消しのアイテムでも間に合わず、毒耐性のスキルを持っていなければ満足に奥へと進むことも出来ない。

 端的に、効率が悪いダンジョンなのだ。


「よっ、と。これで終わりっ!」

 

 しかし、アリスとこのダンジョンは相性がいい。

 【毒耐性】スキル持ちなのはもちろん、道中に出現するモンスターを含め、ダンジョンボスは比較的鈍重であり、斬っては躱し斬っては躱しを繰り返すだけで容易に攻略が出来るためだ。

 

「剣の耐久値減ってきたなぁ。二人とも先にログアウトしちゃったし、私もこれで今日は終わりかな」


 ちなみにタイムトライアルの結果は僅差でシズクが最下位となった。

 AGIの差に過ぎません、とは彼女の談である。

 そうして迎えたボス部屋。


「よしっ、今日最後のボス戦!」


 荒れた伽藍堂の中心に、天井からべチャリと落ちる巨大な物体。

 不快感を覚える腐った肉の匂いを放つそれは、緩慢な動作で起き上がり、窪んだ眼窩でアリスを見やり吼える。

 屍龍カンタレラドラゴン。

 二つ名(ネームド)の強力なモンスターであるが、今までですでに合計で十体は撃破しているそのモンスターを見て、アリスはある違和感を覚えた。


「あれ? なんかちょっと違う?」


 肉体の腐食度が進行し、噴き出る腐食液は紫というより血のように赤い。


「【鑑定】」


 モンスターに対してステータスを閲覧することが出来るスキル。

 ショップでの購入が可能なこのスキルは、およそ全てのプレイヤーが習得している必須スキルである。


「屍龍王カンタレラドラゴンロード……レベル50……ゆ、ユニークモンスター?!」


 一定の条件、確率で出現するユニークモンスターは、通常のモンスターよりもステータスが高い。

 それがボスともなれば脅威度は跳ね上がる。

 カンタレラドラゴンロードは骨が露出した鎌首を上げ、赤い猛毒のブレスを吐き出した。


「わわわ!」


 ブレスは瞬く間に触れた地面を融解させる。

 アリスは半円形のドームを時計回りに大きく駆け、ブレスが届かない距離まで退避した。

 腐った肉の触手が後を追うが、紙一重で躱して斬り、更にスキルを発動した。


「【エアロリープ】!」


 【剣術】スキル、間合いの外からの飛ぶ斬撃。

 剣筋に添って放たれたそれはドラゴンの首元に直撃したが、HPバーは微々たる程しか変動しない。


「元々物理攻撃は効きづらかったけど、もっと硬くなってる……」


 どうしようか思考するアリスを他所にドラゴンは咆哮を一つ。

 鼓膜を破るかのようなそれは、地面に眠る亡者たちを呼び起こした。


「うええっ?! ゾンビ?!」


 動きは鈍いが数が多い。

 しかもそれぞれが自身のレベルよりも高い。


「……すぅ、ふうう」


 呼吸を一度。

 深く肺に息を取り込み、意識を集中。

 グッと一足に力を込める。

 一体ずつ倒すのはキリがないと、アリスは剣先を下げたままゾンビの間を縫うように駆けた。

 尻尾の先から放たれた腐食液を身をよじって回避し、目まぐるしい連撃を浴びせた。

 頭部、翼、腹部、尾……どこを攻撃すればダメージが的確に入るか。

 急所(クリティカル)こそ、レベル差を埋める痛恨の一撃になり得る。

 そうしてアリスは、ゴムのような腐肉、硬い骨……それらが守る内側が一番効果的であることに気付いた。

 

「見つけた……!」


 一瞬見えた脈動する心臓に向けて剣を突き出す。

 硬くそれだけで貫くことは叶わないものの、ドラゴンは苦悶するように咆哮し、翼を広げ空中高くへと上昇した。

 皮膜が破れた翼をはためかせ、辺りに腐食液を散乱させたところに追撃のブレス。

 降り注ぐそれらに回避の手段は無い。はずだった。

 アリスは壁を駆け上がり安全地帯を確保。

 ドラゴンの背後を取り剣を叩きつけた。

 朽ちた身体は地面に落下。肉が潰れた音が響いた。

 落下ざま、アリスは肉と骨の隙間に露出した心臓目掛けて剣を構えた。


 【剣術】スキル中位技。

 命を屠る死神の一撃。


「【グリムアリア】!」


 腐肉を抉り骨を断つ。

 急所を両断されたカンタレラドラゴンロードはHPが尽き、短く蠢きやがて粒子へと消えた。

 部屋の毒が消えていき空気が澄んでいく。


「ふぅ……疲れたぁ」


 大きく息を吐いたのと同時に剣が砕けた。


「この剣お気に入りだったんだけどなぁ……でも、楽しかったなぁ今のバトル」


 冷めやらぬ高揚に揺蕩うアリスの前にボス討伐の報酬リザルトが出現した。




 《レベルが上がりました。Lv15→Lv20》

 《ドロップアイテムを取得しました》

 《ユニーク装備【死と祝福の剣】を取得しました》

 《ユニークスキル【死霊術】を習得しました》

 《称号【死霊の(あるじ)】を取得しました》




「おおー! レベル上がった! レアドロップも多い! それにユニーク装備! ユニークスキル! エッヘヘヘ、これはココアちゃんとシズクちゃん羨ましがるぞ〜」


 上機嫌にリザルト画面に目を落としていると、ふと画面にノイズが走った。


「??」


『世界を切り拓く可能性の種へ』


 短いその文言が消えた後、再びリザルト画面が表示された。




 《アドミニストレートスキル【大賢者】を習得しました》

 《称号【終わりなき世界に挑む者】を習得しました》




「アドミニストレートスキル……?」


 習得したスキルに興味を惹かれたが、時間も時間だと断念。

 その日はおとなしくログアウトすることにした。




 ――――――――




 ゲームの外の世界にて。

 管理者たちは屍龍王の撃破にざわめいていた。


「マジッスか。カンタレラドラゴンロードが……あれ倒せるプレイヤーなんて居たんスね」

「そりゃ倒せるのは倒せるでしょうけど……行動パターンのプログラミング知ってても、ソロでなんてとても倒せないわよ。というより、そういう設計にしてない」

「じゃあチーターッスか?」


 粗野っぽい男性が、椅子の背もたれに体重をかけながら。


「んなわけねえだろ。それならとっくにBANしてるっつの。てか、出現確率低すぎてそもそも出会わねえよ」

「ッスよね」


 少女の戦う姿をモニターで見つめる。

 何度見直しても目を疑うばかりだ。


「武器も防具もほとんど初期装備。ゲーム開始日は……一ヶ月前? どうりで……たしかこの子、一、二時間くらい前にギルド戦してたわよね」

「ログありますよ。ってうおっ?! 至近距離でサブマシンガン躱してる。なんだこの動き……これスキル使った動きじゃないッスよ」

「紛争地帯で生きてきましたみてーなプレイングしてんな。てか後の二人もヤベーぞ。強えってか上手えわ」

「どうするの? 持っていかれちゃったわよ、アドミニストレートスキル」


 女性はデスクでキーボードを叩く男性に訊ねた。


「どうするも何も、いいに決まってる。いずれ誰かの手に渡ることを想定した力だ。あれを手に入れるだけの器だってことだろう。そのプレイヤーが【大賢者】をどう使うのか。楽しみに待とう」

「最初はレイさんだとばかり思ってたッスけど」

「そのプレイヤーの名前は?」

「アリス」


 パソコンに転送されたデータを閲覧する。

 男性は愉快を口元に表した。


「アリス、か」

 ・モンスター

 NEOにおける敵性MOB。

 フィールドの至る所にスポーンし、素材やゴールドなどのアイテムをドロップする。

 中でも特に力を持つモンスターを二つ名(ネームド)と呼び、ゲーム内に一体しか存在しない稀少なモンスターをユニークモンスターと呼ぶ。

 

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