表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/40

4.アリスという少女

 広場の大型モニターに映るココアが指二本を唇に当てて投げキッスする様を見て、敗退したリリーシアはギリギリと食いしばって憤慨した。


「ぅあーーーーもう!! ムカつくムカつくムカつく!! あの女、次はぜーったいズタズタにしてやる!!」

「侮っていましたね。お互い」


 肩を落として落胆するミルフィ。

 敗因は油断だとハッキリ言った。


「調子が鰻登りなだけの若いギルドが私たちに挑む……そんな構図を思い描いていました。その結果手玉に取られ、善戦すら出来ず敗退。ミオ様に申し訳が立ちません」


 【セイレーンの瞳】のメンバーは、すでに半数以上が脱落。

 たった三人のギルドに圧倒されている現状に、リリーシアは悔しそうに歯噛みした。


「ぅぐぐ……で、でもまだミオ様が残ってるし! それにオーマだって! あの二人ならあいつらなんか!」


 モニターに映るココアとシズクは順調にメンバーを倒していく。

 一方で【不思議の国のアリス】のリーダーは、未だ接敵せず広い図書館の中を走り回っていた。




 ――――――――




「んー……誰も見つからない」


 なんてことはない。

 ただの迷子である。


「何もしないうちにバトルが終わっちゃったらどうしよう。えっと、こっちがこうで……こうだから……」


 マップを確認し見当違いに辺りと照らし合わせていると、カチッと足下で音がした。


「ほぇ?」


 真横の絵画のカバが大きな口を開け、アリスを丸飲みにする。


「ほあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 飲み込まれたアリスは長い滑り台に流され、見えた出口の光にへダイブすることとなった。


「へぶっ!」


 べチャリと腹這いで着地し間抜けな声を出す。

 ダメージギミックでなく、絵画と絵画を繋いだ隠し通路の一つだったようだ。身体を起こすとさっきまでとは違う場所にいることを理解した。

 絵画には描かれたカバのお尻が運営の悪戯心を表している。


「うぅ……ひどい目にあった……ん?」


 突如現れたアリスに、そこに居た女性たちは武器を向け身構えた。

 そこは【セイレーンの瞳】の初期リスポーン地点。

 リーダーのエレンの守護に固めた四人と、副リーダーのオーマ、計六人が布陣を敷いていた。


「奇想天外なところから現れますね」


 クスッと能面の口元に指を添え品良くミオは言う。


「ど、どうも」


 自分でも予期せぬ邂逅に照れくささを覚え、アハハと笑うしかないアリス。


「そちらのお仲間が、随分とこちらの数を減らしたようです。数の有利はほとんど潰されてしまいました」

「ココアちゃんもシズクちゃんも強いですから。二人とも本当にスゴくて、格好良くて。私なんかいつも頼りっぱなしで……だから私も頑張らなくちゃって思うんです」


 隙だらけ。

 そう判断したが故の判断。

 エレン、オーマを除く四人が四方を囲み、一斉に攻撃を仕掛けた。


「【グランドストライク】!!」

「【ゴールドラッシュ】!!」

「【レッドシュート】!!」

「【ハリケーンナックル】!!」


 表情は違えど二人は驚嘆した。


「…………」

「!」


 四人の攻撃をダメージ一つ受けずいとも簡単に避けてみせたのみならず、最小の動作のみで斬り伏せてしまったのだから。

 

「強い……」

「お飾りのリーダーというわけではない、ということですか」

「ミオ様、ここは私が」


 オーマが一歩前に出て、柄の長い金の大斧を構える。


「【セイレーンの瞳】副リーダー、オーマ。推して参る」


 武士然と、勇猛に正面から突貫。

 骨の兵を余裕で薙ぎ倒すほどの突進をアリスは剣で受けたが、体重を乗せた重い攻撃に踏ん張りがきかず後退させられた。

 壁に激突する寸前で剣を軸にいなし跳んで回避。

 それに留まらず空中でオーマの肩を斬りつけた。


「なんという身のこなし……!」


 オーマは素早く動くアリスを近づけまいと大斧の乱舞を仕掛けた。

 しかしアリスは高速で回転する斧の隙間を縫い、いとも容易くオーマを斬った。

 二人は距離を取りつつ、相手側の力量を分析した。


(速さでは敵わない。ならば)

(力比べじゃ勝てない。だったら)

(一撃必殺の攻撃で葬る)

(反応出来ない速さで斬る)


 奇しくも二人の行動は一致した。

 武器を高く掲げ、間合いの外からスキルを発動させる。


「【竜気】! 【剛力無双】! 【破翔竜斬】!」


 竜を象ったオーラがアリスの周囲で渦巻き、暴風のような斬撃の渦の中へ閉じ込めんとする。

 バフにバフを重ねた、初見不可避のオーマの必殺コンボである。

 故に一番驚いたのはオーマだ。

 まさか自ら暴風に突っ込むなど、と。

 ましてや、


「【アクセラレーション】」


 それを斬り裂きながら自分の元へとたどり着くなど、いったい誰が予想出来ただろうか。

 スキルをすでに発動させているオーマは、システムに添って身体を動かすしかない。

 斧をすり抜け、身体を撫でるように剣を滑らせる。

 すれ違いざまに一度。

 振り返って背後から一度。


「おおおおおおお!!」


 身体を斜に斧を避け、左腿と首を斬りつけ更に心臓に深々と剣を突き立てた。

 見ている者は驚嘆を。

 斬られたオーマはいっそ清々しいまでの敗北を覚えた。


「……申し訳ありません」


 終始敵わなかったことを悔やみはしたが、それ以上にスッキリとした心地良ささえ覚えながら、崇拝するリーダーへ謝罪しながら消えていった。


「ご苦労さまです、オーマ。皆さん。ゆっくり休んでください」


 カラン

 静観していたミオが下駄を鳴らす。


「【雪颪】」


 細かい氷の礫が混じった風が狂い、燃え盛っていた炎を鎮める。

 熱気は失われ、空間の気温が一気に下がった。


「散っていった仲間の仇討ちとは言いません。一人のプレイヤー……いえ、剣士として、にしておきます。あなたに興味を持ちました」


 鈴の音のような涼し気な声で。

 漆塗りに結晶模様が入った鞘と柄。鍔は無い。

 青みがかった刀身が冷たい輝きを放つ、芸術品のような刀を抜いて、ミオはその鋭い切っ先をアリスに向けた。


「やり合いましょうか、アリスさん」

「はい!」


 最終局面。

 二人のリーダーの剣が交わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ