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3.命懸けの真剣勝負

 バトル開始直後、【セイレーンの瞳】はメンバーを十のチームに分け広域の索敵を開始した。

 本棚や彫像などの遮蔽物が多い開けた空間、長い廊下、階段の他、隠し通路が複数存在するこのマップでは、少数の敵を見つけること自体が困難となる。

 そのため索敵範囲を増やし、複数で各個を撃破していくというのが作戦の主のようだ。

 【セイレーンの瞳】のメンバーは、常に視線を動かし周囲に気を配っていた。

 警戒すべきはスナイパー、シズクの狙撃である。

 長距離の狙撃が得意だとしても、屋内という限られた空間では活かす場所が限られると、物陰や高所からの射線を切りつつ移動する。

 しかし、彼女の前ではそんな配慮は意味を成さないことを突きつけられる。


「?!」


 獣の咆哮のような間髪入れずの銃声が三度。

 ギルドメンバーは即座に身構えるが、時既に遅し。

 鈍い衝突音の後、彼女らの眉間、側頭部、額を弾丸が貫通した。


「嘘……!」

「どこから……!」


 後悔を感じる暇すら無く、マップの外へと退場させられる。

 その様を近くで見ていた別のグループは、今しがた仲間に起きた何かに目を丸くした。


「何?! 何が起こったの?!」

「狙われてる! 射線管理!」


 うち一人の女性の目が、スコープに反射した光を捉える。


「あそこ! 奥の隠し通r」


 額に弾丸が撃ち込まれ体力をゼロにされる。

 発砲音は再度三つ。

 残り二つはまだ着弾していない。その代わり、彼女たちの周囲で何かを殴ったような鈍い音が数回した。


「跳弾……!!」


 一人、また一人とあえなく撃ち抜かれたが、とりわけHPが多かった女性は、HPバーがレッドゾーンのところでなんとか一命を取り留めた。

 仕留め損なったと、シズクは手早くリロードし引き金に指をかける。

 発射しようとしたところで、スコープ越しに見えた少女に眉根を寄せた。


「きゃあ!!」


 背後から女性を斬り伏せた後、シズクの方にしてやったりと舌を出し、ウインクとピースサインのおまけを付けて、颯爽と次の敵を狩りに向かった。


「むぅ……」


 どれだけキルしたかは勝敗には関係無いが、むざむざと獲物を譲るのは癪と、シズクはすぐにその場を移動しようとした。

 その時。


「【戒めの鎖】」


 白い光が瞬き、腕と脚、身体に鎖が巻き付いた。


「これは……【光魔法】……」

「ええ。そのとおりです」


 姿を見せるのは杖を携えた女性。


「見た目のような捕縛系の魔法ではありません。ステータスを一定時間大幅に下げ、行動を封じるスキルです。DEX値が下がればエイム精度とリコイル制御が下がり、得意の狙撃も出来ないでしょう。尤もこの距離では、そのライフルも活かせないと思いますが」

「ミルフィさんですね。【セイレーンの瞳】のヒーラー兼バッファー。いいんですか? 後方支援職が前線に出てきて」

「ええ。少なくとも、銃を使えないガンナーよりは戦えますよ」


 右掌を上に翳し光球を出現させる。 


「【ライトニングボール】」


 高速で放たれた攻撃だが、シズクに届くまでに途中で爆発し消えた。

 見ればシズクが向けている銃身から硝煙が上っている。

 攻撃が届くまでに構え、発砲し、ミルフィの攻撃を防いだらしい。


「確かに反動制御が少し困難ではありますが、どれだけステータスを下げても、スキルを封じても無意味ですよ」


 スナイパーライフルを換装。

 両手に9mm口径のサブマシンガンを出現させる。

 ミルフィは彼女の前に悠々と姿を現したことを後悔した。

 淑やかで慎ましい清楚を人の形にしたような少女の目に身の毛をよだたせる。


「あいにく銃の腕は自前なもので」

「っ、【プロテクション】!」


 円柱状に展開された光の防壁が銃弾の雨を防ぐ。

 が、シズクはお構い無しに乱射を続けた。


「バトル中に換装?! どんなスキルを……くっ、無駄です! 予めバフをかけた防御、どれだけ撃ち込まれても破れはしません! リロードの瞬間、私の魔法があなたを撃ちます!」

「ああ、ご心配なく。もう終わっています」


 と、シズクは笑ってみせる。

 自分の方が絶対に優勢なはずなのに、とミルフィは言いようの無い悪寒に囚われる。

 一歩後ずさると、足元の何かに触れた。


「外からの攻撃は防げても、中からの攻撃は防げますか?」

「グレネード……!」


 【プロテクション】とシズクの銃撃による逃亡不可。


「あぁあああああ!!」


 ミルフィの足元で小さな爆弾が爆ぜ、彼女を爆炎が焼き尽くした。

 バリアが消え、ガクリと膝から崩れ落ちる。


「いったい、い、つ……」

「魔法を撃ち抜いたとき、煙に乗じて投げておきました」


 ゆっくりと歩を進める。


「これは人間の咄嗟の防衛反応のようなもので、いくらゲームでも、やはり攻撃されれば大抵は防ごうとするんですよ。剣よりは銃を相手にしたときの方が顕著かもしれません。なので今回はこちらから誘導させていただきました」


 弾幕を囮に本命のグレネードを投げ、相手に自ら逃げ場を無くさせる。

 誘導と口では簡単に言えるが、相手の思考、残弾数、爆発のタイミング、それら全てを一瞬で計算しなければ到底不可能な所業。

 人間業ではない。

 故に、ミルフィは人間でないものに喩える。


「悪魔……」


 回復を使わせる暇は与えず、慈悲も無くシズクはミルフィの額を撃った。

 消えていく彼女に向かって、


「最高の褒め言葉です」


 シズクは嬉しそうにはにかんだ。




 ――――――――




「ヤッバ、楽しくなってきた」


 長い廊下を気分を高揚させつつ疾走するココアの正面から、新たなグループが姿を現した。

 相手が剣を、銃を構えようと関係無い。

 そのまま突進し敵の攻撃を全て受けきった。

 その上で、無傷。


「【クライシス】」


 三人とすれ違いざまに三度鎌で斬りつけ、そのまま体力を刈り取る。


「っし、これで何人目だっけ? まあいいや。どんどん行くぞー!」


 階段を上がり二階へ。

 本棚の陰から奇襲を掛けられたが、それでも尚ココアの体力は尽きず。

 大きく鎌を振り抜き一度に四人の体力を削った。


「甘いんだよなぁ」


 ココアは舌を出して不敵に笑う。

 よほどの凄まじい攻撃に、辺りの本棚は倒れ本は散乱してしまっている。


「よっ、と」


 次の獲物を求め欄干に飛び乗り辺りを見回す。

 どこかなーと、余裕めいていたところ、横から緑色の風が襲来した。

 ガギンと風が構えたナイフを鎌の柄で防ぐと、風はアクロバティックな動きでココアの頭上を飛び越え、欄干の上に着地した。


「へー、今の防ぐなんて、案外やれるじゃん」


 金髪ツインテールの暗殺者、リリーシアがココアと対峙する。


「そっちこそビッグマウスは伊達じゃないって感じ? たった三人でよく頑張ったけどさ、ここまでだよ。勝てるわけないじゃん。アタシらに。格下がさ」

「あっれぇ? もしかしてさっき(くち)プで負けたの引きずってる? ぷっ、ダッサぁ。器ちっちゃぁ」 

「そういうのいいからほら来なよ。ズタズタに切り刻んでやるから」

「あっ、口じゃ勝てないから早くケンカしたいよねぇ? 語彙に回せる脳みその容量無いの可哀想〜。頭使わなくても上位ギルドの幹部ってやれるんだってめっちゃ感心してる〜」

「ごちゃごちゃうっさいんだよ!!」


 苛立ちを込めた加速は、爆発したように床を抉った。

 その勢いのままココアの背後に回り、背中にナイフを突き立てる。


「アッハハ! ナメてるからだよバーカ!」

「ねぇ」


 確実に急所を刺した。

 にも関わらず態度が変わらない声色にリリーシアは目を見開いた。


「これが全速力じゃないよね。メインメンバーっていうからちょっとは期待してたのに。これなら最初っからリーダーの方捜して動けばよかった」


 一歩前に出てナイフを抜く。


「さっきまでは楽しかったんだけどなー。メインがこれとか萎える。あ、もう行っていいよ。あーでも、ここで逃したらシズクにいちゃもんつけられそーだしなぁ…」


 はぁ、と深めのため息を一つ。

 それがまたリリーシアの神経を逆撫でした。


「なにわけのわかんないこと言ってんの?」

「RPGとかでさー、レアキャラ捜してるときに雑魚モンスターとエンカウントしたら、うわーダルーとか思わない? それかギミックがウザいのとか。そういうときって戦うより逃げる選んだ方が早いし効率的じゃん。くじ引きでハズレ引いたみたいな?今ちょうどそんな気分」

「アタシがハズレだって言いたいわけ? チッ、舐めプも大概にしろよ効率厨!!」


 激怒のまま再びナイフを構え駆けると、ココアは短く息をついて身を翻し、最小限の動きで回避してみせた。

 リリーシアが驚愕したのも束の間、眼前に三日月の切っ先が迫る。

 持ち前の素早さで直撃は免れたが、頬にダメージエフェクトを刻まれ階下に落下した。


「ヤッたと思ったんだけどなぁ。思ったよりは速いじゃん」


 欄干に腕を置き見下ろしながら言う。


「……煽ってきたのは演技ってわけ? そういう姑息なことするんだ」


 さっきまでとは違う苛立ちを込めて、リリーシアはココアを鋭く睨んだ。


「舐めプ? そんなのするわけないっしょ。ウチは誰にだって敬意を払ってるし、いつだって勝つ気でプレイしてる。ウチらがやってるのはゲームだけど、命懸けの真剣勝負だもん。見くびんなよ。適当な気持ちで【不思議の国のアリス】の副リーダーやってるわけじゃねーんだよ」


 軽薄。浅慮。能天気。

 そんな言葉とは縁遠いほどゲームに対する姿勢は真摯なものだった。


「さ、ヤろうよ。ブチ倒してあげるからさ」

「あんたいくつよ。歳下なら敬え。そんで、死ね」


 互いに跳躍し武器を打ち鳴らし、空中で火花を散らした。

 身を翻して着地。後、すぐさま相手目掛けて加速。


「【トウィンクルスター】!」


 リリーシアの素早い攻撃を、ココアは鎌の柄で受ける。

 しかし完全にリリーシアの間合い。

 加えてAGIは上回られているため、受け切ることは叶わず、身体の至るところに傷を付けられていった。


「全力でやっても勝てない相手がいるってこと教えてあげるよ! 【ラディカルファング】!」


 十字の傷を負わせたことでHPバーは風前の灯。

 力無く前のめりに倒れゆくところ、リリーシアはとどめとナイフをがら空きの喉元に突き立てんとした。

 ナイフが胸元を抉るその刹那、ココアの手が刀身を鷲掴みにした。


「?!!」

「あーやっぱ速い敵は捕まえるに限るわ。クッソ、ボロボロじゃん。ウチのAGIじゃ追い付けんからしゃーないけど」


 身体の傷がみるみるうちに癒え、HPバーがレッドゾーンからグリーンゾーンへと回復していく。


「【HP自動回復】……? 違う、もっと別の……つーか何なのよあんた! ナイフ鷲掴みって、そんなことする普通?!」

「イミフ。ありえないことするのがゲームでしょ。てか、敵に手の内晒すとかありえなくない? この先もヤり合うことはあるだろうし。まー今日のところはウチの勝ちってことでよろ」


 ナイフを掴んだまま、もう片方の手で鎌をバトンのように回す。

 柄から刃へ光が流れ、光が眩い三日月を描いた。

 ナイフを手離して距離を取ろうとするが間に合わない。

 その判断がほんの数秒早ければ……いや、その僅かな可能性すら彼女は与えない。


「【パニッシュメント】」


 リリーシアの左肩から右脇腹までをバッサリと断つ。

 少女が上げた心底悔しそうな叫び声が図書館中に木霊する中、鎌をクルクルと回して担ぎ、ココアは満足げに笑った。


「ニシシ、楽しかったよ。またヤろーぜぃ、リリーちゃん」

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