2.世界の果てを目指して
イベント開催を近日に控えたある日。
アリスたちはギルドホームで最終の打ち合わせを行っていた。
「では改めて、本日対戦する【セイレーンの瞳】について。ギルドランキングは先日の【サザンクロス】よりも高く、一般にも名の知れた強豪ギルド。メンバーは総勢五十人の、女性のみで構成されています」
「女性のみって、中身が男か女かなんてわかんないでしょ。キャラ設定自由だし」
「入団の際に自分が女性という証明が必要なようですよ」
徹底した管理ぶりだが、それだけメンバー同士の結束も強く連携に富んだギルドらしい。
「特に警戒しなければならないメンバーは四人。幹部の一人で暗殺者のリリーシア。AGI特化の近接戦闘を主にしたナイフ使いです。次に僧侶でヒーラー兼バッファーのミルフィ。重戦士のオーマ。一撃の破壊力に定評のある斧使いで【セイレーンの瞳】の副リーダー。そして彼女たちを統率するリーダーのミオ。剣士であり【氷魔法】を操る、攻守遠近共に隙の無い万能型のプレイヤーです」
ウィンドウに表示された画像を見やり、頬杖をつきながらココア。
「この前よりはそこそこやり甲斐ありそうでいい感じじゃん」
「油断して負けるなんて無様は晒さないようお願いします」
「クッハ、するわけねーだろって。あたしらのウィキに負けの文字なんか載ってねーよ」
「ふぅ……では、作戦のおさらいを」
――――――――
「ルールはデスマッチでしたね」
提示された条件に、ミオはクスッと能面の下で口角を上げた。
「随分な自信ですね。参加メンバーに上限を設けないとは」
「めちゃくちゃナメてる! 向こう三人しかいないくせに! めっためたにしてやろーよ! アタシたちに挑んだこと後悔させて泣かせてやる!」
憤りを隠せないリリーシアの対面で、オーマがミオに訊く。
「どう思われますか?」
「こちらの冷静さを欠くためのブラフか、或いは本気でこの条件で勝てるつもりなのか。それに値する策があるのか。この辺りは考えても無駄でしょう。ミルフィ、もう一度データを見せてください」
「はい。事前に映像を確認した限り、リーダーのアリスは近接主体の剣士。おそらくはAGI特化でしょう。狙撃手のシズク……ライフルによる遠距離一辺倒のスナイパーですが、命中の精度が高く何らかのスキルを擁していると思われます。戦士のココア、大鎌による豪快かつトリッキーな攻撃が得意なようですが、こちらは並外れた耐久値を確認しています。いずれもレベルは我々より低いです。こちらは数で圧倒的に上回っています。人海戦術でアドバンテージを取り、各個撃破するのが望ましいかと」
ミオは立ち上がるとカランと下駄を鳴らした。
「指揮はオーマ、あなたに任せます。ただし相手を小ウサギと侮ると、痛い目に遭うかもしれません。油断せずに。粛々と勝利を収めましょう。【セイレーンの瞳】の名の下に」
「「「はい!!!」」」
統率された軍隊の如く。
強者は強者らしく挑戦者を迎え撃つ。
――――――――
そして定刻。
迷宮のような図書館を舞台にした、ギルドバトル専用ステージの一つ、【Library of Labyrinth】。
豪奢なシャンデリアが吊るされたエントランスにて、二つのギルドが対峙した。
「【不思議の国のアリス】、リーダーのアリスです」
能面をつけた蒼白の和装の女性が握手を返す。
「【セイレーンの瞳】のミオです。度々お噂は窺っていますよ。とても強いと評判のようで」
「エヘヘ、いやぁ」
照れてはいるが謙遜はしていない。
エレンは大層な自信ですねと、言葉に少し辛さを混じらせた。
「全戦全勝は伊達ではなさそうです。ところで一つお訊きしたいのですが、何故今回私たちとバトルを?」
アリスは悪気なく返答する。
「今度のイベントに出たくて。私たちのランキングがもう少しで100位に入りそうなんですけど、【セイレーンの瞳】さんに勝てばランキングが上がってイベントに出られるんです」
エレンの後ろのメンバーがザワついた。
「はぁ?! ランキング上げるならどこでも良かったってこと?! チョーシ乗ってんじゃねーぞ新人のくせに!」
「プッw 負け犬RPでもしてんのかよ。かませ役なら程々にしとかないと、ホントに負けたときダセェから気を付けた方がいいよ」
怒りを露わにするリリーシアをココアが煽る。
リリーシアは眉間に皺を寄せてナイフを抜こうとするが、ミオに無言で制された。
「白羽の矢が立ったことは光栄ですが、それは私たちなら簡単に勝てるという意味だったのでしょうか?」
「違います違います! えっと、その、こっちの都合はいろいろあるんですけど……どうせバトルするなら強い人たちとやりたいじゃないですか」
エレンは目の前の気弱そうな少女の内に、物言えぬ何かを感じた。
自信。しかし過剰ではなく、また傲慢でもない。
勝利を確信しているかのような正体不明の不気味さ。
「私たちの全部が本気だっていうところを見せます。なので、よろしくお願いします」
「……こちらこそ。いい戦いにしましょう」
開始時刻三分前。
それぞれは自軍エリアに転送された。
「めちゃくちゃ機嫌悪そうだったんだが」
ココアがケラケラ笑う。
「ココアちゃんのせいだよ! すっごく怖かったんだから!」
「煽りも作戦の内だって。使えるものは使っとかないと」
「そのとおりです。あれで冷静さを欠いてくれるなら儲けものくらいですけれど。私たちのアドバンテージは、兎にも角にも情報の少なさです。おそらく他のバトルを解析し、何かしらの策を講じていることでしょう。時間を掛ければ掛けるだけ、相手に選択肢を与えてしまいます。なので……」
「ソッコーかけて潰しに行く感じね」
「私の方がプレッシャー感じちゃったよ……」
「まあまあ。切り換えて気合い入れよーぜ。アリス、いつものやつよろー」
「うんっ。ってこれ、いつも思うんだけど私じゃなくてもいいんじゃ……」
「うちのリーダーはアリスさんです」
「ブチアゲていこーぜ」
円陣を囲み拳を合わせ、大きく息を吸い、アリスは口上を述べた。
「世界の果てを目指して! We are!!」
「「「Alice in WonderLand!!!」」」
人差し指を立てて唇に当て、腕を伸ばし高く掲げる。
今、勝負の時。
知識と歴史を書き記した迷宮に、バトル開始を告げるアラームが鳴り響いた。