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1.不思議の国のアリス

 約五千万。

 一年前にリリースされ爆発的大ヒットを記録した、Project(プロジェクト)Storm(ストーム)制作のフルダイブ型VRMMORPG、NEVER(ネバー)END(エンド)ONLINE(オンライン)……通称NEOの発売総数である。

 広大な世界。

 膨大なスキル。

 戦闘、冒険、農業、創作とジャンルを問わず、誰が言ったか、世界で最も自由なゲーム。

 プレイヤーが作る物語を謳い文句に売り出されたこのゲームに、人々は熱中し没頭した。

 終わらないゲームの終わりを目指して。







 月明かりと静寂に満ちた西洋風の舞台――――【宵の城下町】。

 しん、と張り詰める夜の帳の下、物陰に隠れながら移動する影が複数。

 城の塔のてっぺんから、少女はスコープを覗き闇に紛れる獲物を捉えていた。


「ココアさん、NE方面200メートル先に二人です」

「おけ」

「アリスさん、正面の建物三階。それとその建物の真裏に一人ずつ」

「うん。わかった、合図よろしくね」


 無線機で各々に指示を出しながら銃身を時計塔の小窓に向ける。


「カウント始めます。3…2…1…」


 静寂を掻き消す怒号が一つ。引き金が引かれ、射出された弾丸が時計塔の小窓から様子を窺っていた男の眉間を撃ち抜いた。


「は?! やられた?!」

「銃声城の方から!! 射線通すn――――」


 男の言葉が途切れる。言葉を紡ぎ終える前に、首と胴体が離れ視界が暗転した。


「はーいゴメンねー」


 混乱に乗じて襲撃したその人物は、柄の長い鎌を肩に担ぎ、フードの奥でペロリと小さな舌を出した。

 尤もそんな可愛げのあるその所作も、そこにいた者にとっては恐怖の襲来でしかないのだが。


「【ラピッドファイア】!!」


 アサルトライフルから弾丸が連射される。

 手元は大きくブレたが、フルオートのそれは至近距離というのも相まって全弾命中した。

 しかし、


「っは♡ ざーんねん」


 羽虫でも落とすように炎を振り払い、軽薄なくらい飄々と無傷を主張する。


「バーイバイ、っと」


 男は泣きそうになりながらも、大鎌に胴体を薙ぎ払われた。


「おおお!」


 背後からナイフを手に男が突っ込んでくる。

 振り返るのが遅れたと少女が舌打ちした矢先、男の脳天が吹き飛んだ。


「チッ。余計なことしてんなよ」


 少女は銃弾が飛来した方に中指を立てた。

 一方、建物の裏で様子を窺っていた者たちは、消えていく仲間の反応に困惑しながら慌てふためいていた。


「ちょっと待てよ何が起こってんだ!! いくらなんでも早すぎだろ!! まだ開始五分も経ってねえよ!! チーターじゃねえのか?! 運営仕事しろよくそっ!!」


 剣とサブマシンガンを構えながら右を左を気にかける。

 物音一つ、風のそよぎ一つに過敏になるも、闇に紛れたそれの動きは捉えられない。

 疾風が一陣。

 黒いローブをはためかせ、男の左側から体勢を低めて猛スピードで突進してくる影。


「来たぞ!」

「こ、このっ!」


 威嚇を込めてサブマシンガンを乱射するが掠りもしない。

 それどころか影の主はまるで怯まず更に加速した。


「う、うわあああ!!」


 人間離れした動きから繰り出される剣撃は防ぐことも避けることも叶わず、無惨に首が切り落とされる。

 ズザァと滑りながら着地し、胴体だけになった男の亡骸を蹴り三階の窓まで跳躍。窓を割って中へ侵入した。

 そこで待ち構えていた男は、手にしたグレネードのピンに指を掛けていた。

 倒れていく仲間たちを見て、自分だけでは勝てない。ならばせめて一人でも道連れにと自爆を覚悟したのだろう。


「悪く思うなよ!! 一緒に死んでくれ!!」


 男は敗北と引き換えにした相手の死を確信したが、目の前に爆煙が広がる光景は見ることはなかった。

 ピンを抜くよりも早く、窓の外から撃ち込まれた弾丸がグレネードを持った方の腕を吹き飛ばしたからだ。


「なんだそれ…!!」


 狼狽える隙すら与えられない。

 真上から振り下ろされた剣が線を描き、男は赤い血しぶきのようにダメージエフェクトを巻き上げ消えていった。

 敵が全滅し、ファンファーレと共に空にWINNERの文字が浮かび上がる。

 少女は剣を払うと、騎士を思わせる様で鞘に収めた。






 歓声を上げ興奮する者、驚嘆と唖然に彩られる者など。

 その様子をモニターで窺う者たちの反応は様々であった。


「圧勝じゃねえか。すげえなあいつら」

「今やられたの【サザンクロス】のトップメンバーだろ?」

「ギルドランキング上位常連の猛者な。それをたった三人で勝つってなんだよ。ていうかあのちっこい剣士、ほとんど初期装備じゃねぇか。しかも攻撃全部クリティカルだったぞ」

「金髪の大鎌使いはなんだ? 攻撃全部受けてノーダメとか」

「エグいのはスナイパーだろ。あんな入り組んだステージでピンポイントの狙撃。バケモンだぞあんなん。てかフィールド探索中ならまだしも、バトル中に換装してんぞ」

「チーターか?」

「NEOのセキュリティなんてアメリカの国防総省並だって噂だぞ。チートもグリッチもあったら運営が動いてるだろ」

「誰だあいつら」

「ここ一ヶ月でそこら中のギルドにGvG持ち掛けて、全戦全勝してるとこだよ。確かギルド名は……【不思議の国のアリス】」








 木組みの一軒家型のギルドホーム。

 閑散とした部屋に戻るなり、三人の中の一人がソファーへとダイブした。


「くぁーつっかれたー!」

「お二人ともおつかれさまです。いい連携でした」

「シズクちゃんも。狙撃のタイミング、ナイスだったよ」

「フフ、ありがとうございます」


 フードを脱いで笑い合い、ハイタッチを交わす少女たち。


「アリスーあたしも褒めてよー」

「うんっ。ココアちゃんも頑張ったね」

「ウェッヘッヘ〜」


 金髪と白い肌が眩しい少女ココアは頭を撫でられだらしない顔を晒した。


「今回はシズクが最少キルだったねー。ジュース奢れよ」

「私は今回後方支援に徹しましたもの。わ・ざ・と、キルを譲ってあげたんですよ。わ・ざ・と」


 長い髪を靡かせ少女シズクはココアの態度を鼻で笑った。


「私がアタッカーなら、ココアさんより多くキルが取れました」

「はー? あたしなら1vs5でも余裕だったんですけどー」

「私なら1vs10でもノーダメで勝てますが?」

「あ?」

「なんですか?」

「ケンカしないの。もうっ、みんな頑張ったでしょ」


 そしてこの黒髪の少女、アリス。

 この癖のある二人を束ねる、ギルド【不思議の国のアリス】のリーダーである。


「これでギルドランキングは105位。あと一勝してポイントを貯めればランキング100位圏内。次のイベントに参加が可能になります」

「うんっ。頑張ろうね」

「ヨユーっしょ。てかあたしとアリスがいれば無敵っていうか。お荷物が居るとハンデっていうか。シズクもうログアウトすれば?」

「脳天吹き飛ばしますよクソビッチ」

「頭蓋骨から股下までぶった斬んぞザコお嬢」

「だからケンカしないのっ!」 


 二人はふんっ、とそっぽを向いた。


「それより次の対戦相手どうする?」

「あたし的にはTOP10も全然アリなんだけど。シズクがビビッちゃってっかんねー」

「負け戦に意味なんてあるわけないでしょう。上位陣と戦うならそれなりの準備が必要になるというだけです。システムでゴリ押しているだけの今の私たちでは及びません」

「今の、はね。けど、そこを戦略でどうにかすんのが役目なんじゃねーの? 参謀さんよぉ」

「副リーダーなら自身の実力くらい弁えていただいても? 勝てる勝負だけ挑むなんて、いったい何が美しいのやら」

「ゲームは勝ったもん勝ち。勝たなきゃつまんねーのなんて恐竜の時代から決まってんだよ」

「美学に欠けた猿はともかく」

「あ?」

「次の相手にはもう当たりを付けています。我々の華々しいイベントデビューを飾るに相応しい方々を」





 ――――――――






 湖畔に建てられた洋館風のギルド。

 能面をつけた銀髪の女性エレンは、数名のギルドメンバーと共に、庭で緑茶を嗜んでいた。

 そんな折、送られてきたメッセージに目を通す。


『突然の無礼をお許しください。我々【不思議の国のアリス】は貴女方に胸をお借りしたく、若輩ながらこうして連絡した次第でございます。ルールはデスマッチ。どちらかが全滅した時点でバトルは終了。こちらは三人のフルメンバーで挑みますが、そちらは何人投入していただいても構いません。もしも申し出を受けていただけるのであれば、細かい摺り合わせを行いたく存じます。我々一同、充実したひとときを贈ることを約束いたしましょう』


「快いお返事をいただけること、希っております。【不思議の国のアリス】………」


 ギルドリーダー、ミオの正面に座る背の低い少女が、機嫌悪そうにテーブルの上のマカロンを噛み砕く。


「なーんか下に見られてる感じで腹立つよね。【不思議の国のアリス】だか何だか知らないけど、調子に乗ってる感じ丸わかり。ねーミルフィ」

「リリーシアの言うとおりです。こんな挑発めいたメッセージ。わざわざ反応することはありません」


 隣に座るミルフィがクイっと眼鏡を上げて言った。


「だが、ここで断れば逃げたと思われる」


 ミオの背後に立ち、日傘を差して日差しを和らげる女性オーマが反論する。


「誰も思わないでしょそんなの。格下からの申し込みなんてめんどくさいだけじゃん。バトル断るのなんてザラだし」

「ただの格下じゃない。最近頻繁に話題に上っているギルドだ。有名なギルドを幾つも負かしているらしい。そんなギルドの挑戦を断ったとなると、【セイレーンの瞳】の評判が下がる。新進気鋭の負けるのを恐れて対戦を断った、と」


 エレンは湯呑みを置き、柔和な声色で言った。


「どうやら向こうには頭の切れる方がいらっしゃるようですね。そうなるであろうことも折り込み済みなのでしょう」

「ミオ様、では」

「ええ。慎んで申し出を受けましょう」


 スッと立ち上がり蒼白の和装の裾を直す。

 鈴の音が鳴るような麗美な立ち振る舞いで。


「己を見つめ、未来を見据える。いざ出陣です。【セイレーンの瞳】の名の下に」

 【基本ゲーム情報】


・ステータス

 レベルアップ、装備によって数値が増減する。


 HP…体力

 MP…魔法及びスキルなどの消費ポイント。またNEOに於ける生命エネルギーであり、魔力と呼称されることもある。

 STR(ストレングス)…物理攻撃力、筋力

 VIT(バイタリティ)…防御力、持久力

 AGI(アジリティ)…素早さ、回避率

 DEX(デクステリティ)…器用さ、命中率

 INT(インテリジェンス)…魔法攻撃力、魔法抵抗力

 LUK(ラック)…幸運値


 初期ステータスはHP,MPがそれぞれ10、残り10ポイントをステータスに振り分ける。

 レベルが1上がるごとにHP,MPが10上昇。10ポイントを取得。それぞれのステータスを任意で上昇させることが出来る。

 



・職業

 設定する職業によって装備出来る武器や防具が限定され、一定経験値で上位職に進化する。

 生産職などの一定職業は、条件を満たすことで自分の店舗を構え商売することが出来る。

 特定施設での転職可能。




・称号

 設定することでステータス増加、スキルが付与されるなどのバフが付与される。

 一部スキルは称号の設定時のみ使用が可能となる。



・スキル

 NEVER END ONLINEにおける能力の総称。

 常時発動型のパッシブスキル、任意発動型のアクティブスキルと分かれ、様々な条件をクリアすることで習得。行使が可能となる。




・魔法

 スキルの一種

 炎、水、風、木、土、雷、氷、光、闇の属性からなる奇跡の力。

 ゲーム内に存在する特定NPCと話す、またガチャを回し専用のアイテムを入手することで魔法を習得が可能。その際に得られる魔法属性はランダム。

 魔法は熟練度に応じ進化し、進化系統はステータスやプレイスタイルなどその他様々な条件で枝分かれする。





・ユニークスキル

 膨大なスキルとは一線を画し、全プレイヤーの中で一人のみが習得可能なレアスキル。




・ギルド

 最低人数1名から設立可能な自治団体。

 ギルド同士のバトルなどの活動に応じてギルドレベル、ギルドランキングが上がり、イベントの参加、特殊アイテムの入手が可能となる。




・ギルドホーム

 ギルドの拠点。

 街を始めとした各フィールドにギルドホーム用の建物が点在しており、ゲーム内クレジットで購入することで使用可能。

 規模、敷地面積、立地場所で価格は変動。

 ホーム内にはギルドメンバー及び、招待されたプレイヤーしか立ち入ることは出来ない。




・ダンジョン

 フィールドの各所に点在。

 出現するモンスター、モンスターのレベル、ドロップアイテム、内部の広さはダンジョンによって異なる。

 最奥に存在するボスモンスターを倒すなどの条件を満たすことで攻略となる。




・ゲーム内クレジット

 装備、アイテムなどの購入に使用する共通通貨。

 単位はゴールド

 モンスターの討伐、クエストクリアの報酬、課金などで得ることが出来る。




・ガチャ

 ゲーム内クレジット及びイベント配布などで入手可能なチケット、課金によってアイテムが入手可能なガチャを回すことが出来る。

 ステータス画面を開くことでどこでも回すことが可能で、ここでしか入手出来ないアイテムが多数存在している。




・マイルーム

 携帯端末と連動させることでアバターやステータスの確認、その他簡単な操作などが可能。

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