後編
辺りに、風が吹き渡る。まるで、今の愛の心境の様に。
愛のルックスは、どちらかというと可愛い。普通にモテるワケで、此の性格を除けば、結婚に申し分無い。だが、何故か何時も、彼氏に振られる。理由は不思議と、我儘に耐えられなくなったとか、価値観が合わなくなったからとか、そういったものじゃない。どの男性からも「本気で、俺の事が好きなのか? 」と訊かれ、振られる。其のワンパターン。
最初は、如何してそんな事を訊かれ、振られるのか分らなかった。そう。一週間前までは…。
あの日以来、圭吾とは会っていない。隣同士なのに、擦れ違う事さえ無かった。多分、気まずいから時間帯をずらしているのだろうと、そう軽く考えていた。
一本の電話がくるまでは。
其の日も、職を探すのが面倒で、何時もの公園に来ては、所有物の様にブランコに乗っていた。すると、焦った顔で「愛、大変よ! 」と母が此方に向って、走ってきた。
「何? 言っとくけど、食費はちゃんと―」
「圭ちゃんが、亡くなったの…」
わあぁぁと泣き出す母を横目に、さっき何って言ったのか、把握する事にした。確か、圭吾が死んだとか、言った様な気がする。だが、愛の頭は上手く回らず、何故、母が泣いてるのか分らないでいた。
気付いたら、葬儀場に着いていて、其処でやっと理解った。圭吾が、もう既に、此の世には居ないのだと。
「御母さ―」
「わぁぁぁん―…圭吾さぁん!! 」
遮る様に、突然泣き出す女性。彼女には見覚えがあった。そうだ。確か、雨の中、圭吾と一緒に居た女性。一瞬にして、あの時の気持ちが蘇える。
「何で、貴女が居るの? 」
気付いたら、女性の前に立っていた。恐い形相で見る愛に、女性は少し間を置き、「愛さんですか? 」と、逆に質問される。
「…そうだけど。何? 圭吾から、私の事、聞いてたの? 」
「ハイ。………圭吾さんの、彼女でしたから…」
女性は勝ち誇った顔でそう言い、さっきまでの悲劇のヒロインぶった様子は何処へやら、女性は腰を上げると葬儀場へと入っていく。愛は其の背中を見詰め、ムカムカと込上げるものを感じた。
すんなりと終った葬式に、呆気ないなぁと思いながらも、其れを口には出さない。暗黙のルールという奴だ。
唯、現実感が無くて、本当に圭吾が死んだのか、疑いたくなる。まるで、まだ生きてるんじゃないかと、つい錯覚してしまう程に。
そんな事を考えてばかりで、周りをちゃんと見てなかったからか、赤信号を無視して横断歩道を歩いていた時、車とぶつかった――…。
「…い…っ! ……愛…! 愛ッ! 」
「……圭吾…? あれ? さっきまでのは、夢…? 」
「…何が? 如何かしたの? 恐い夢でもみた? 」
ほんわかした口調で問う圭吾の声に、さっきまでのは全て夢なのだと、思う事が出来た。愛は「別に…」と何時もの様に冷たく答え、何気無くポケットの中に手を突っ込むと、水族館のチケットが入っていた。
「……此れ…」
「愛、水族館に行きたかったんだよね? だから、其の…、チケット買っておいた」
照れ臭そうに鼻を手で覆い隠し、ヘヘッと笑う圭吾に、愛は背中を小突いた。
「何、笑ってんの? だったら、サッサと支度しなさいよ。善は急げよ! 」
「…もう、支度は済ませてるんだ」
「はぁ? アンタ、まさか此の格好で、行く気じゃないでしょうね? 」
愛の言う通り、圭吾の格好は、外出向きの格好では無かった。薄い生地のシャツを着ていて、下はジャージときたものだ。どちらかというと、部屋着だと思われる。
「……そうだけど……変…かな? 」
「…別に…アンタが其れで好いなら、其れで好いんじゃない? 」
愛の、さり気無い気遣いの言葉に、圭吾は嬉しそうに笑う。そんな彼の顔を見て、何時もの圭吾じゃん、と愛は思った。
水族館の中は、まるで貸切状態だった。御客は愛と圭吾だけで、他に人がいるなら、其れは全て従業員だけ。
「あっ! イルカ! イルカよ、圭吾!! 」
「うん。綺麗だね」
「何言ってんのよ! 可愛いの間違いでしょ? 」
ムッと不貞腐れる愛に、「ハハッ…そうだね」と圭吾は笑って誤魔化した。
水族館を出た後の二人の顔は、満足気な顔をしていた。愛は、何時もは見せない笑顔を圭吾に向け「次は、何処行く? 」と訊く。すると、彼の足が止まった。愛は不思議そうな顔をして「如何したの? 」の問うと、圭吾は首を横に振り、
「……もう、愛の頼み事、きいてあげれないんだ…」
と言った。愛は意味が分からなくて、混乱する。――と、突然唇に熱が伝わる。目の前には、圭吾の長い睫毛が視界に映り、キスされてるんだと、分った。
「圭…っ」
「好きだったよ、ずっと…。愛の事、誰にも、渡したくなかった」
「!」
「…だけど、もう、其れさえ出来ない。だから、最後にデート出来た時、凄く嬉しかった…っ」
「また…また、逢えるわよね…?」
圭吾は微笑し、
「逢えるよ、きっと…」
と答えた。
薬品の臭い。ピッピッという音で、目が覚める。最初に視界に入ったのは、泣き腫らした母の顔が映る。
「…愛…? 」
「何って、顔してるのよ、御母さん…」
「先生! 先生! 愛が…愛が目を覚ましました! 」
騒がしい親だなぁと他人事の様に見ながら、愛は指の腹で自分の唇をなぞる。未だに煩い心臓を、何故か心地好いと思いながら、窓越しに映る青空を見た。
「きっと、何時かは逢おうね、圭吾―…」
終
後書き
有りがちネタ御免なさい(>_<)
う~ん…駄作にも程がある気がするが…まぁ、いっか♪
初出【2011年3月17日】を加執筆&修正する際に読み直して、、
圭吾の葬式に訪れた女性ですが、彼女は圭吾と付き合ってると愛に嘘を吐いています。
だから圭吾は、最後の時間で愛に自分の気持ちをはっきりと伝えました(*´꒳`*)❤️




